• 体験レポート
  • 登山好きが贈る、登山の体験レポートです。日本、そして世界の山々にはたくさんの魅力にあふれています。春夏秋冬、その時々で異なる顔を見せてくれる素敵な山がたくさんあります。まさに百景。.HYAKKEIでは、そんな山に実際に登り、五感で楽しんだ自然体験記をお届けします。きっと山に登りたくなりますよ!

オオカミとヤマトタケルの“低くて深イイ”山、宝登山|『文系登山』をはじめよう!#08

日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の神話に彩られた標高497mの山頂は、毎年1月後半~2月半ばにかけて蝋梅(ろうばい)の黄色に染まります。麓の宝登山神社と関係深いこの山は、展望よし、木花よし、歴史に文化もよし、加えて近隣は温泉にも恵まれた、まさに“宝”の山。 蝋梅は間もなく満開を迎えますよ!

まずは野上駅から登山口まで。人里の美しさに感激!

野上駅から宝登山を経由して、長瀞駅へ向かうのが一般的なコースです。たとえば桜の季節になると、さっそく駅で大きな桜が出迎えてくれます。
万福寺から登山口に入るまでの道中、どちらの民家も木花の手入れが行き届いていて、ここを歩いているだけで気分が高まっていきます。
地元の方々の美意識が感じられて、すてきな町だなあと感激。とはいえ、ここはふつうに“町中”ですから、マナーを守って通らせてもらいましょう。

宝登山を主峰とするこの一帯の山の連なりを「長瀞アルプス」と呼びます。その入口の目印は万福寺。標識もしっかりしているので、道に迷うことはありません。
ここからおよそ2時間、のんびり山歩きのスタートです。

歩きやすく、気持ちのいい山道がつづく

しっかり踏み固められた山道が続く長瀞アルプス。野上駅から宝登山に至る山道には落葉する木々が多く、冬場なら太陽の陽射しが地面まで照らす明るい山歩きになります。少しずつ芽吹いてくる春の道は黄緑色に輝きはじめ、梅や桜が見どころ。そして新緑の季節になれば、若々しいグリーンに包まれる爽やかな山歩きが待っています。

季節が変化するたびに美しさを変える宝登山。登山上級者も多く訪れる山で、その意味では、低山だからといって初心者だけの山ではない“実力”のある山であることがわかります。

とにかく絶景の山頂が待っている!

麓の街並みの重なりが、次第に山々の折り重なりへと変化していく様子が手に取るようで、低い山ならではの眺めが楽しめる宝登山。標高は497mと高くはありませんが、周辺を取り囲む山々を眺められる絶好のロケーションです。
のんびり山ゴハンでランチを楽しむハイカーもいれば、蝋梅を見学に訪れるレジャー客もたくさんいるため、シーズンを通して広い山頂はとても賑わいます。

ひときわ大きい三角形の山は「武甲山(ぶこうさん)」。標高1304mの日本二百名山で、ヤマトタケルの伝承や山岳信仰が色濃く残っており、秩父三社のひとつである秩父神社の神体山でもあります。石灰岩の採掘で崩落が進み、山の形がずいぶん変わってしまいました。かつての名山としての山容は、残念ながらもう目にすることはできません。ちょっと悲しい運命にある山ではありますが、秩父のシンボルであることには変わりありません。

そして遠くには、ノコギリのような横に大きな山が。突き抜けて個性的な佇まいは、日本百名山の「両神山(りょうかみさん)」です。標高1723mの山中・山麓には、狛犬ならぬ狛オオカミがいる社が点在する山岳信仰の山。山名の由来は、国産み・神産みを果たしたイザナギとイザナミの両方の神を祀るから等、いくつかの説があります。個人的にとても好きな山の一座です。

これからのシーズンは、こんな大展望を黄色に染まった山頂から眺められるわけですね。

蝋梅の黄色に染まる、初春の宝登山山頂

冬晴れの真っ青な空に、真っ黄色の蝋梅が輝くように山頂を染める様子は圧巻です。視線の先には、先に述べた秩父の街並み、山並み、武甲山や両神山の大展望。関東屈指の蝋梅の群生は、一見の価値あり、です。

うっかり蝋梅のシーズンを過ぎてしまっても、すぐさま梅と桜が追いかけてきます。これから春に向けた宝登山は、とてもいいですよ。

山頂にある宝登山神社の「奥宮」をお詣り

宝登山に伝わるヤマトタケルの物語は、文系登山にふさわしいエピソードです。この山を通った際に山火事に遭遇したヤマトタケルは、大きな山犬(オオカミ)たちに救われます。このオオカミたちを「山の神」の御遣いだろうと感謝したヤマトタケルは、山頂に神々を祀りました。ここから宝登山の物語が始まるわけです。

奥宮にいる狛オオカミは、秩父一帯に見られます。両神山でも触れましたが、秩父といえば、やはり三峯神社でしょう。オオカミの遠宮もある聖地中の聖地です。東京都青梅市の「御岳山(みたけさん)」もまた、オオカミが神(大口真神)として山頂に君臨しています。

ちなみに、山の神とは、大山祇神(オオヤマツミノカミ)のこと。日本のあちこちの山に鎮まっていますが、関東なら神奈川県伊勢原市の「大山(おおやま)」が有名。こうして紐解いていくと、ひとつの山が、日本各地の山々に繋がっていくのがわかります。
知識の点が、自分の登山経験で線になっていく。文系登山の醍醐味です。

そうそう、蝋梅を見学に訪れるレジャー客もたくさんいる、と言いましたが、それは長瀞駅側からロープウェイが出ているから。ゆえに、帰りはロープウェイでさくっと下山し、浮いた時間で麓にある「宝登山神社」に立ち寄るのがオススメ。こちらは本宮で、先に述べた「秩父神社」と「三峯神社」とともに秩父三社に数えられています。ちなみに、こちらにいるのは“狛犬”です。ややこしいですが。

宝登山神社から長瀞駅までの参道沿いには、かき氷の名店にカフェ、お土産屋さんも多数あり、夏場は長瀞渓谷ライン下りも楽しめます。あ、ちなみにこの渓谷の川は東京湾に注ぐ「荒川(あらかわ)」。日本最大の川幅をもつこの川の源流は、日本百名山の「甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)」です。甲州(山梨県)、武州(埼玉県)、信州(長野県)の3県にまたがるから、甲武信。

こんな風に、秩父の素晴らしい自然資源と文化資源、歴史教養といった山の宝物に溢れる、深イイ宝登山。この春“宝の登山”はいかがでしょう?

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