日本一の星の村にあるキャンプ場

「ふるさと村自然園 せいなの森キャンプ場(以下、せいなの森キャンプ場」は、木曽谷と伊那谷を結ぶ中間に位置する阿智村の清内路(せいないじ)の森の中にありました。1990年代の第一次キャンプブームの頃に自然体験の村営施設としてつくられたキャンプ場には、3つの区画に30のテントサイト、大小15棟のバンガロー、コテージ10棟に加え、テニスコートや100人収容可能な合宿施設も併設しています。

阿智村といえば、スキー場のロープウェイを使ったヘブンスそのはらの「星空ナイトツアー」が有名。全国各地からの観光客が大勢訪れます。キャンプ場にもやはり星をお目当てにやって来る人が多いのでしょうか?

「おかげさまで、星を目当てに来る方はとても多いですね。ですが、プラネタリウムとは違うので、本当にきれいに見られるのは、年間を通して新月の前後の天気が良い数日のみですね。その日はびっくりするぐらいきれいですよ!運もかなりありますね」

と、教えてくれたのは、せいなの森キャンプ場の代表、二川(ふたがわ)泰明さん(以下、二川さん)。

「私は、ここで暮らすようになって、むしろ夜の暗さと月明かりの明るさに驚きました。月が出ていると星が見えづらいということを知らないお客さんも多いですね。星だけに注目するのではなく、自然に寄り添い、その営みに身を委ねることができるのもキャンプの良いところですね」と、奥さんの文香(あやか)さんが続けます。

どうやら、せいなの森キャンプ場のセールスポイントは、必ずしも星空だけとは言えないようです。

ところで、どう見てもキャンプ場のオーナーらしからぬ風貌の二川さん。その正体は、2013年に東京から阿智村清内路に家族で移住し、夫婦で自家製酵母のパン屋さん「耕紡工房」を営むパン職人でした。

そもそもどうして、二川さんは、キャンプ場のオーナーになったのでしょうか?

誰もやらないなら自分たちでやろう

せいなの森キャンプ場は、近年、村の指定管理者によって運営されてきました。二川さんが入る前は、頻繁に運営体制が変わり、宣伝もあまりされず、お世辞にも地域に潤いをもたらすものではなかったと言います。

2017年のシーズン終了後、翌年の指定管理者が決まらず、このままでは閉鎖もあり得るという話を聞いた二川さんは、“誰もやらないなら自分たちがやろう”と、一念発起。「株式会社里山生活」を立ち上げ、指定管理者に名乗りを上げました。

誰もやらないなら自分たちでやろう|「地域の力で蘇ったキャンプ場 |長野県阿智村「せいなの森キャンプ場」の物語」の2枚目の画像

「高齢化が進む中で、この地域が存続していくためには、地域の雇用を創出し、若者が住めるような環境を作ることが大事だと思ったんです。そのためには、外からお客さんを呼んで喜んでもらって、地域全体が潤うようにしていかなきゃけない、せっかくある地域の魅力を活用しない手はないと思いました」

東京の多摩ニュータウン出身で、アウトドアとは縁がなく、キャンプ経験も数えるほどしかなかったという二川さん。キャンプ場の運営に勝算はあったのでしょうか?

「当然、素人の僕だけではできないと思っていました。その頃偶然、同じ南信州のキャンプ場で経験を積んだ船山くんと出会ったことが大きかったですね。そして、地元にUターンした原くんという若手にも入ってもらって、まずはそれまであまり機能していなかったホームページを整備するところから始めました」

キャンプ場リニューアル作戦

ウェブサイトのリニューアルと並行して取り組んだのは、主にキャンプ場の基本的な受入体制の整備でした。

<オープン前の主な準備>
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・施設の改修・衛生管理の徹底
・食器・備品の補完
・レンタル用品の充実
・食材プランの新規開発
・アルバイトスタッフの募集と教育
・ホームページの整備と宣伝ツール制作
・受付と合宿施設での無料Wi-fiの設置
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特に配慮したのは、衛生面。日々の清掃や、貸出用品の衛生管理を徹底し、繁忙期にはレンタル布団を使用する段取りをしました。

食材プランは、国産牛肉と信州産の豚肉・鶏肉のセットを作り、そして野菜は地元の農家から仕入れるなど、地産地消を意識して考案。さらに、家族やグループキャンプの朝食用として、「耕紡工房おまかせパンセット」を用意。二川さん夫婦が信州産小麦と自家製酵母、阿智の名水・清内路一番清水を使って焼いた、からだにやさしいパンのセットを予約制で販売することにしました。

地元出身の原さんを中心に、高校生から70代のお婆ちゃんまで10名ほどの地元のアルバイトを集め、キャンプ場運営経験のある船山さんが接客やキャンプの基礎知識などを指導。
こうして体制を整えたせいなの森キャンプ場は、2018年の4月にリニューアルオープンしました。

サービスの良さが魅力に

手探りで迎えた1年目のシーズン。夏休みの合宿利用も多く、集客は好調でした。初心者向けにテントの設営をサポートするACHIキャンププランや、テントサイトからは少し距離のある合宿施設内の大浴場まで無料送迎するなど、サービスの良さがお客さんに喜ばれました。

二川さんの想いを込めた食材セットも大好評。繁忙期には朝から晩までずっとパンを焼き続けなければいけない程の好評ぶりで、うれしい悲鳴だったと言います。

「キャンプ場でパンを食べておいしかったからと、帰りにお店に立ち寄って、お土産に買ってくださるお客さんや、自宅配送の注文を頂くこともあり本当にありがたいことです」

以前の統計が不統一なため、利用者数の正確な伸び率などはわからないものの、村役場からは売上が2倍以上になったと喜ばれたと言います。

その成果から、2年目には村の予算が入り、全サイトに洋式・ウォッシュレットトイレが、炊事場には温水機が設置されました。

さらに、駒ヶ根市に本社がある薪ストーブメーカー・ファイヤーサイドとタイアップしたテントサウナイベントでは、地元の木工作家と一緒に川の上にデッキを作り、ドラム缶風呂も用意するなど、若者やファミリー層の人気を呼びました。(現在テントサウナは事前予約制で好評レンタル中)

美しい自然はもちろん、スタッフの親切な対応、パンや野菜のおいしさ、テントサウナなど新しい企画も相まってせいなの森キャンプ場の魅力はSNSなどでも拡散。2019年度の利用者数は、1万5000人にも達しました。

地域文化の交流発信拠点を目指して

3シーズン目となる今シーズンは、新型コロナウィルスという予期せぬ壁が立ちはだかっていますが、二川さんは将来を見据え、次なる挑戦を始めていました。
新たに、パン工房と農産物直売所が入る複合施設「清内路健康の森」の指定管理者になったのです。

「今までは一区画をパン工房として借りていたのですが、今年4月から直売所全ての運営を村から任されることになりました。キャンプに来た人が、清内路の伝統野菜や、300年続く手づくり花火などの伝統文化を知ったり、おいしい清水でできたビールを飲んだり、ここでしかできない体験をしてもらえる場“里山CAMPus(キャンパス)”にしたいと思って、準備を進めています」

「この地域には面白い“ヒト・モノ・コト”がたくさんあるので、いわゆる観光案内所ではなくて、面白い人を紹介する“ヒト案内”とか、その人たちが作ったストーリーのある”モノ”を紹介する場所みたいな感じでここが機能していくといいなと思っています」と文香さん。

地域文化の交流発信拠点を目指して|「地域の力で蘇ったキャンプ場 |長野県阿智村「せいなの森キャンプ場」の物語」の5枚目の画像

インタビューのしめくくりに、二川さんは、「2名の社員も今は独身ですけど、いずれは結婚して、家庭を持ってもずっとここで生活していけるように、キャンプ場も含めて、地域づくりを進めていきたいと思っています」と熱い想いを語りました。

地域文化の交流発信拠点を目指して|「地域の力で蘇ったキャンプ場 |長野県阿智村「せいなの森キャンプ場」の物語」の7枚目の画像

多くの人々が交流する場として再生したせいなの森キャンプ場。その背景には、地域に根ざした二川さん夫妻の情熱と、それに寄り添うスタッフの努力がありました。

心やさしいスタッフと、豊かな自然、からだにやさしいパンと野菜に出会えるせいなの森キャンプ場。次なるキャンプの候補地として、加えてみてはいかがでしょう。

せいなの森キャンプ場
< 住所>
長野県下伊那郡阿智村清内路2991
<TEL>
0265-46-2525
<ウェブサイト>
https://www.seinanomori.com/

※新型コロナウィルス感染拡大予防のため、5月9日まで休業(その後のスケジュールはウェブサイトにて発表)
and craft みやがわゆき

信州を拠点に山と暮らす人々のなりわいと温もりを伝えます。

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野鳥好きな両親の影響で、幼い頃から奥多摩や秩父の野山で遊び、大学時代は、北アルプスの山々を眺められる松本市で、山登りの楽しみを覚える。出版社、編集プロダクション、観光協会勤務などを経て、ライター・編集業を生業に。 現在は、長野市戸隠在住。二児の母として、今後は親子で登山が楽しみ。

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