信州のアウトドアシーンにおいしいりんごを。 若きりんご農家の夢をつなぐ旅「APPLE TRIP」
突然ですが、あなたはりんごが好きですか?
嫌いじゃないけれど、自分で買って食べるほどではない、という人も多いのでは。そんな皆さんに、信州りんごの魅力を伝えたい、信州のアウトドアでりんごを味わってもらいたいと奮闘する若きりんご農家のお話です。
もくじ
攻めるりんご農家
その人は、長野県長野市在住のりんご農家、宮下直也さん。アウトドアが大好きで、アウトドア携行食「APPLE TRIP」や、キャンパー向けのりんごのシードルなど魅力的なりんごの加工品を開発し、SNSなどで発信しています。
写真を見ただけでも、並大抵のりんご農家とは思えないセンスを感じますが、宮下さんとはどんな人なのか、お話を伺いました。
りんご農家の5代目に生まれた宮下さん。いずれは家業を継ぐつもりだったものの、関西の大学に進学し、20代は自分の好きなことをやろうと、大手アパレルブランドに就職。大阪や京都を拠点に働いていた頃に登山やキャンプに目覚めました。
「関西にいて長野の出身だと言うと、いいね、りんごちょうだいとか、登山やスノボに行きたいと言う人がいっぱいいて、そういう人たちで登山部を作って山に登ったり、キャンプをしたりするようになったんです」
離れて初めて、それまで当たり前に見ていた長野の景色が、都会の人にとっては価値のあるものだったことに気付いたと言う宮下さん。その間に奥さんの亜矢さんと出会い、結婚を機に7年勤めた会社を退職して長野に戻ってきました。
知識も経験もほぼゼロからスタートしたりんご栽培は、実践あるのみ。約3haの農園に所狭しと並んだりんごの樹と対話しながら、どうやったら樹が生き生きと成長し、おいしいりんごが育つのか、その問いの答えを“自然の摂理”の中から見つけることが、難しいけれど面白いと言う宮下さん。4年目を迎える今でも勉強の毎日だと笑顔で語りました。
「代々のファンを守っていく責任と、自分でも頑張って、新しいおいしいりんごを作って、より多くの人にその魅力を伝えたいという気持ちがあります」
そんな宮下さんの想いが、様々な商品を生み出しました。
アウトドアシーンにりんごを。
農家になってから、“自分と同じ世代の若い人や子どもにりんごを食べてもらうには、どうすればいいだろう?”と常に考えてきたという宮下さん。
そして、自分の好きなアウトドアシーンにりんごを取り入れることを思いつきました。
例えば、キャンプ。乾杯の時に、大人にはりんごのシードルを、子供にはおいしいリンゴジュースを。朝食のトーストには、贅沢なりんごジャムを。生食ではなくても、いろいろな形でりんごを味わってもらおう。
「それまで、加工品といえば、余ったりんごや未熟なりんごを使うのが普通だったんですが、“それって、本当においしいのかな”と疑問に思っていました。それで、採れたての完熟りんごでジャムとジュースを作ってみたんです」
ジャムはお隣・信濃町のジャム工房に相談し、りんごの種類、カットの方法、皮があるなしなど試行錯誤し、改良を加えながら、風味や食感が異なる10種類を製品化。見せ方にもこだわり、友人のデザイナーに依頼し、パッケージを一新しました。
宮下果樹園を「M.i.M GARDENS」としてブランディングし、ホームページもリニューアル。オンラインで手軽にりんごやジャムなどが買えるだけでなく、写真や動画などでM.i.M GARDENSのイメージや旬の情報を伝えています。
さらに、近年注目されているシードルの商品開発にも着手。アウトドアでビールのようにカジュアルに楽しんでもらえるようにと、オリジナルのシェラカップとともにオンラインで販売したところ、予想以上の人気で10分で完売しました。
槍ヶ岳山荘へ、APPLE TRIP
こうして就農してから2年以内に多方向からりんごの普及に励んだ宮下さん。その勢いは、遂に、北アルプス・槍ヶ岳まで達しました。
「山小屋に行った時に、売店にあるものといえば、カロリーメイトとか、とんがりコーンとかで、せっかく信州の山にいるのに、地元のものがないのは寂しいなと、信州産のりんごで何か作れたらいいなって思っていました」
ちょうどその頃、テレビのドキュメンタリー番組で、槍ヶ岳山荘の4代目・穂苅大輔さんが出ているのを見た宮下さん。脱サラし、家業を継いで頑張っている穂苅さんの姿に共感し、勢いで穂苅さんに連絡を取りました。
「うちの乾燥りんごを槍ヶ岳山荘で販売させていただけませんか?と溢れる想いを伝えたところ、穂刈さんはその想いに共感してくださり、快諾してくれました。“じゃあ現物を持って行きます!”と言って、リュックに詰め込んで槍ヶ岳に登りました(笑)」
槍ヶ岳山荘で1シーズン試験的に販売してもらい、登山客の反応など穂苅さんからのフィードバックをもらった宮下さん。パッケージの大きさやデザインを見直し、味や食感も加工業者と打合せながら改良。そうしてできたのが「APPLE TRIP」でした。
赤いパッケージの中には、乾燥りんごのチップスが入っています。軽量でかさばらず、栄養価も抜群。おまけに、タグはステッカーになっていて、紐は再利用できるパラコードです。
りんごがつなぐ夢
2019年の夏にリリースしたAPPLE TRIPは、生産者の想いが伝わるようにと、あえてオンライン販売をしていません。槍ヶ岳山荘のほか、吉祥寺のBLACK BLICK、長野のアウトドアセレクトショップnatural anchorsと甲府のsundayでの店頭販売のみ。より必要な人に届けたいと、マーケティング方法を検討していた矢先、超大型の台風19号が長野県内を襲いました。
千曲川の堤防決壊により、町に大量の水と土砂が流れ込み、宮下さんの畑も半分以上が浸水。収穫間際のりんごの約7割が出荷不能になってしまいました。
けれど、その後数ヶ月の間に、100人以上の友人やボランティアに助けられ、現在は既に来季へ向けてのりんご作りが始まっています。
まずは、支えてくれた人たちへの恩返しのためにもおいしいりんごを作ることが第一目標。その先には、新たなシードルのブランディングや家族連れでフルーツ狩りができる農園作りなど、りんごの魅力を発信するだけでなく、復興してきれいになった町に大勢の人を呼んで地域全体を盛り上げたいと、夢を語ってくれた宮下さん。
信州の自然とりんごをこよなく愛する若きりんご農家の旅は、まだまだ続きます。
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ホームページではりんごやシードルの予約購入ができます。台風19号で被災した農園を復活させてアップルトリップをアウトドア好きな方へ届けるためのクラウドファウンディングも実施予定。詳しくは下記のサイトにて。
web:https://mim-gardens.com/
Instagram:https://instagram.com/made_in_miyashita
FBページ:https://www.facebook.com/m.i.mgardens
信州を拠点に山と暮らす人々のなりわいと温もりを伝えます。
野鳥好きな両親の影響で、幼い頃から奥多摩や秩父の野山で遊び、大学時代は、北アルプスの山々を眺められる松本市で、山登りの楽しみを覚える。出版社、編集プロダクション、観光協会勤務などを経て、ライター・編集業を生業に。
現在は、長野市戸隠在住。二児の母として、今後は親子で登山が楽しみ。