• キャンプや登山に関わる人々へのインタビュー記事一覧です。自然に魅せられたアウトドアフリーカー、自然と共に生きるアスリート、熱い信念を持つオーナー等、その想いやヒストリー、展望など、写真と共に丁寧にお伝えします。今後の人生の選択肢のひとつとなるヒントが、見つかるかもしれません。
  • HOME
  • 記事一覧
  • 突如あらわれたテント界の新星「ゼインアーツ」。業界歴27年のベテランが一石を投じる、熱き想いとは

突如あらわれたテント界の新星「ゼインアーツ」。業界歴27年のベテランが一石を投じる、熱き想いとは

――それはどうしてですか?

最大の理由は、新しいブランドが誕生しなかったからだと思っています。いつくかの限られたブランドだけで、キャンプ業界は30年間成長し続けてしまったんですよね。市場規模は大きくなっていくけど、限られたブランドしかないから、当然、ひとつひとつのブランドは肥大化していきます。売り上げが上がれば人手が必要で、人件費がどんどん上がっていく。固定費がかかるということは、製品の価格も上げざるを負えない。これが年々、テントなどの価格が高騰してしまっている一番の要因です。

――長い間、業界の第一線で携わってきた小杉さんだからこそ、見える視点ですよね。

定期的に新しいブランドが介入してくれば、けん制になったはずです。僕たちゼインアーツのように少数精鋭でやっていれば、経費も低いので、値段を安くできる。そうすれば、大手メーカーも価格を合わせようと努力したはずです。でも、それがなく独占状態になってしまった結果、価格が上がってしまったんです。

――それを食い止めるためにも、ゼインアーツを立ち上げた、と。

そうですね。本来であれば、会社って社会のために貢献するために存続していると思っています。何のために僕たちアウトドアブランドが存在しているのかというと、愛好家の方たちのためだと思うんですね。そういう図式でなければならないのに、現状は、会社を存続させるために、愛好家の方々に負担をさせてしまっている。そんなのおかしいですよね。

あるとき、ふと僕は何のために働いているんだろう?と疑問に感じてきて、だったら自分で少数精鋭の会社を作って、お客さんに還元して社会貢献できるんじゃないかと思ったんです。

――ゼインアーツの幕モノは、価格が4~8万円台。市場と比べると、大幅に低価格帯ですよね。

メジャーブランドでは絶対に出せない価格だと思います。きっと作ったら倍くらいの価格になるんじゃないかと。僕は今の業界のよくない状況を知っていたので、自分の力で打破できるんだったら、やってみようかなと思って。モノ作りが好きだし、市場を正常化させたいという想いもある。この2つでゼインアーツは出来ています。

――小杉さんの業界に一石投じたいという決意を強く感じます。

お金儲けはあまり興味がないんですよね。別に格好つけるわけじゃないんですけど(笑)。どこまで自分が人のためになることをできるか、精一杯チャレンジしたいと思っています。

ありがたいことに予想以上の反響をいただいて、僕たちだけでは作業が追いついていないので、これから従業員を雇っていくんですけど、一員になってくれた人のことを第一に考えて、「いいモノを安く」の姿勢を守りながらも、業界最高水準のお給料をあげたいとも考えています。これを実現したうえで、お客様が喜んでいただける価格と品質をキープしていく。これは僕の計算上、出来ると思っています。

――みんなをハッピーにする企業。それが実現できれば、本当に素敵な世の中になっていく気がするんですが……!

自分の力なんて大したことないので、どこまで変えられるかは分かりませんが、僕の経営方針や作ったテントを見て、「この製品をこの価格で販売されたら、自分たちもうかうかしていられないよね」って、他のメーカーさんも追従してくれるっていうのが、業界を動かすことだと思うんですよね。

アウトドアには、自然と調和する美しいギアを

――ゼインアーツのコンセプトについても、教えてください。

コンセプトは、“自然と調和する美しさ”です。アウトドアには登山やキャンプ、それにマウンテンバイクやカヌーもあるし、楽しみ方は多様化していますよね。でも、それぞれに共通して言えることは、“美しい景色を見に行く”ことだと思うんです。

じゃあなんでみんな美しい景色を求めているのかっていうと、美意識の確認なんじゃないかな、と。そもそも人間は自然の中でしか食物を得られない。だから本能的に、自然を守らないと食物を得られないという感覚が備わっていると思うんです。僕は美しいという気持ちが保全に繋がっている気がしている。だから、美しさというのはすごく重要で。

日本人って、“藝術”の意味を“自然との調和”ってとらえているんですよ。でも、欧米の人たちは、自然と藝術は相反するものととらえている。たとえば、欧米人は枝を折って武器にすること=藝術と感じますが、日本人は、木を植えること=藝術と感じている。自然と人間の営みを調和させることを藝術ととらえているのは、おそらく日本人だけだと思うんですよ。なので、モノ作りにおいても、自然と人間の営みを調和させるアイテムでありたいなと思っています。とくに僕が作るのはアウトドアで使う道具でもあるので。

昔と違って今の時代は、アウトドアが生死に関わる遊びだけではなくなってきました。時代が変化していく中で、ギアの役割も少し変わってきているんじゃないかと。本来、自然の中に出かける行為が美しさの再確認だとすれば、使うギアも美しくなきゃいけないなと感じました。そういった想いもあり、テントのフォルムは、みんなが絶対にイイというものを作りたかった。なので、確認、確認を繰り返して、相当時間をかけました。

キャンプに出かけてそこに広がる風景を眺めたときに、映り込むテントも含めて美しいなと思える情景であった方がいい。ゼインアーツのモノ作りは、自然と調和する存在でありたい。だから、モデル名も自然の美しさを感じるネーミングにしました。ゼクーは、色即是空の「是空」、ギギは「巍々」、ロガは「露岩」、ゲウは「夏雨」に由来しているんですよ。

パネルの跳ね上げにより多様にアレンジができる「ギギ-1」¥39,800+tax
パネルの跳ね上げにより多様にアレンジができる「ギギ-1」¥39,800+tax  

――確かに、「ゼク-M」や「ギギ-1」しかり、唯一無二の美しいデザインに圧倒されたアウトドア愛好家はたくさんいると思います。アイデアはどんなふうにして生まれているのでしょうか?

頭の中でどんどん削ぎ落す作業をしていますね。機能とデザインって少し違う次元にあるので、あるときは機能面、あるときはデザイン面でずっと考えて。すると、いつか重なり合う瞬間があるので、それまでは延々と考えています。

――アイデアを絵におこしたりはしますか?

頭の中で形になるまではスケッチしません。スケッチすると具体化してくるので、そうならないように、考えて考えまくります。アイデアを忘れるようなことはありません。もし忘れることがあったとしたら、それはどうでもいいアイデアってことなので(笑)

小杉さんの手書きによる「ゼク-M」の仕様書。形は頭のなかで出来上がっているため、一発書きだそう
小杉さんの手書きによる「ゼク-M」の仕様書。形は頭のなかで出来上がっているため、一発書きだそう  

――すでに新しいモデルの構想もあったり?

今ある4つのモデルでは全然網羅できていないので、あることはありますね。登山用のテントとか。とくにテント・タープは自分の好きなジャンルなので、そこは充実させたいです。それに、価格が高騰しているアウトドア市場に対して貢献するという意味でも、色々なギアを出してみたいと思っています。

――小杉さんが作るファニチャーとか、すごく興味あります。きっと、すごいモノが出来上がるんじゃないかって。

それ色々な人に言われるんですけど、妙にハードルが上がってしまって、すごく出しにくいんですよ。気軽に出そうかなと思っていたけど、これじゃ納得しないかも、とか思っちゃって。だからあまり期待しないでください(笑)。

***

「座して半畳、寝て一畳」という、ことわざがあります。これは、起きているときは半畳、寝ているときは一畳もあれば事足りるという意味で、必要以上のものを望まず、満足することが大切であることの教えです。

登山やスピードハイクを通して、精神論や禅に興味を持っていた小杉さんは、この「座して半畳、寝て一畳」という言葉と出会い、”ZA(座)”と”NE(寝)”を取って『ZANE ARTSゼインアーツ』と名付けたといいます。

これは彼の座右の銘でもあり、まさにゼインアーツの根本的な部分を体現している言葉。
「経営面でも、決しておごらず、富にこだわるわけでもなく、人のために尽くしていきたい」―。そう語る小杉さんの言葉がすごく印象的でした。

そして、待望の3rdロットが近日発売予定(詳しい情報は、決まり次第公式サイトにて発表)。2020年には、製品を実際に見ることができる出張イベントを随時開催予定とのこと。気になった方は、ぜひ足を運んでみてください。きっと、小杉さんのモノ作りにおける想いを感じ取れるはずです。

ZANE ARTS ゼインアーツ
Websaite:https://zanearts.com/
Instagram:https://www.instagram.com/zanearts_official/

(写真:茂田 羽生)

関連記事一覧