長野アウトドアカルチャーの発信地。クライマーが営む「NATURAL ANCHORS」
国内未入荷のレアアイテムが手に入るお店
長野県長野市の善光寺界隈。地元の人しか通らないような路地裏に「NATURAL ANCHORS」はあります。一見すると雑貨店のようなこのお店。実はアウトドア好き・ギア好き垂涎の山道具やウェアを扱う、知る人ぞ知るお店なのです。
レトロな扉を開けて入ってみると、クライミングのホールドが付けられた天井や、ワクワクするようなディスプレイに目を奪われました。
キャンプや登山用のアイテムに加え、タウンユースもできるワークウェアを取り揃えているのもこのお店の特徴。しかも、日本では入手困難なFeathered Friends(フェザーフレンズ)のダウンジャケットや、軍および法務執行機関向けブランドで店頭で一般販売しているお店が少ないArc’teryx leaf(アークテリクス リーフ)など、驚くようなお宝が並んでいることも。
「白馬に登った帰りとか、これから登るという人も来てくれますね。県外からのお客さんは全体の2割ぐらいかな」
そう話してくれたのは、店主の戸谷悠さん。Patagoniaの日本未入荷モデル(Tシャツ、ボトル、カップなど)を入荷した際には、お客さんの反響がよく、あっという間に完売してしまったとか。そういった珍しい商品のほとんどは戸谷さんが年に2回ほどアメリカやカナダに買い付けに行き仕入れているそうです。ディスプレイはアパレル出身の奥様の晶子さんの意見も取り入れてレイアウトしています。そもそも、戸谷さんはどうしてこのお店を立ち上げたのでしょうか?
土台は、ロッククライミング。
「10年ほど前に長野に帰って来て、これだけ山が近くにあるのに、山道具を扱ったり、山の情報を発信しているお店が少ないなぁと感じました。大型店はあるにしても、個人経営の山道具屋さんはなくなって来ていて、欲しいものはだいたいネットで買う感じ。自分が実際に使ってみていいと思ったものを扱って、お客さんとゆっくりコミュニケーションできるお店を作りたいなと思って始めました。」
長野生まれの戸谷さん。高校生までは山やアウトドアには全く興味がない文化系男子だったといいます。しかし、大学時代の偶然の出会いが、その後の人生を大きく左右することに。
それは、たまたまアパートの近くにあったというクライミングジムでした。暇つぶしのつもりでボルダリングを体験した戸谷さんは、パズルのように頭を使って進むそのスポーツにすっかり夢中になりました。
「ジムのオーナーが日本でもトップレベルのロッククライマーで、“バイトしてくれればジムを使っていいよ”と言われて」
バイトをしながらトレーニングを重ね、ジムの常連さんに連れて行ってもらい、ロープクライミングの面白さも覚えたという戸谷さん。ある程度登れるようになってくると、”結果を残せるように”という欲求が芽生え、大学卒業後は、海外へ渡りました。
クライミングの聖地・カナダで、語学学校へ通いながら世界レベルのクライミングを体感した戸谷さん。その探究心はますます高まり、翌年にはワーキングホリデーのビザを取得し、ニュージーランドへ。1年間、日本食屋さんで働きながら休みの日に岩と向き合う生活を送りました。
そんな海外経験を経て、“いつかは山に関わる仕事をしたい”という想いが生まれたと言う戸谷さん。28歳の時に帰国し、一般企業に就職したものの、その想いを消すことなく温め続け、ついに2014年、故郷長野市でNATURAL ANCHORSをオープンしました。
地域に根ざし、自然とともに生きるアンカー
現在、開店から5年目を迎えたNATURAL ANCHORS。冒頭でもご紹介したハイクオリティな品揃えもさることながら、戸谷さんの経験に基づいた的確なアドバイス、そして温厚な人柄が、着実にお客さんの心を掴んでいるようです。
店内で、そんな戸谷さんとお客さんのつながりを感じられる棚を見つけました。
「お客さんの中には、使わなくなったリュックやウェアなどをどうしようという人が結構いて、それなら持ってきてもらって、状態を見て、USEDとして扱ってみようということで試験的に始めたんです。中には市場に出回っていない珍しいものもあるので、好評ですね」
また県内のクラフト作家の作品や、長野市にアトリエがあるワークウェアのブランドfutten のウェアを扱うなど、“故郷長野を応援したい”という戸谷さんのハートの温かさは、商品セレクトからも伝わってきます。
さらに、長野県内で行われるアウトドアイベントに出店し、パラコードを用いたリストバンドのワークショップを行ったり、善光寺界隈の珈琲店や宿とコラボしたアウトドア体験のワークショップイベント「sotoclass(ソトクラス)」を主催するなど、戸谷さんの活動はお店の中にとどまりません。
自分のやりたかったことを実現できてありがたいと感謝する戸谷さん。一番の楽しみは、やはり休みの日に外へ遊びに行くことだと言います。クライミングの競技人口を増やそうとか、ビジネスのためではなく、あくまで自然を楽しんでもらえる人が増えてくれればと、休みの日にお客さんと外に出かけることも。
「長野はフィールドが近いので、日帰り登山もできるし、お店の開店前にスキー場へ行って一滑りするとか、気軽に楽しめるのがいいところです。」
店名のNATURAL ANCHORSとは、クライミング用語“ケミカルアンカー(ボルト)”と対義する自然の岩に傷をつけない支点のこと。
「アンカーには支え、よりどころという意味もあるので、自然を愛する人たちの情報発信の支点・拠点という意味もかけています」
そんな想いを込めたお店は、たくさんのアウトドアラバーズの拠り所となり、まさに、長野の自然に根ざす拠点となっていました。
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掘り出し物のウェアやギア、長野の自然とクライミングを愛してやまない店主との会話を楽しめるNATURAL ANCHORS。長野駅を基点とする登山や観光の前後に、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょう?ちょっと道に迷ったとしても、そこは、わざわざ来る価値のあるお店です。
(写真:and craft 臼井亮哉)
<住所:2020年6月3日から移転しています>
長野県長野市鶴賀緑町1607−12 シンリョービル1F
<TEL>
026-217-8512
<営業時間>
11:00am〜18:30pm
<定休日>
毎週火曜日
<ウェブサイト>
http://naturalanchors.com/
信州を拠点に山と暮らす人々のなりわいと温もりを伝えます。
野鳥好きな両親の影響で、幼い頃から奥多摩や秩父の野山で遊び、大学時代は、北アルプスの山々を眺められる松本市で、山登りの楽しみを覚える。出版社、編集プロダクション、観光協会勤務などを経て、ライター・編集業を生業に。
現在は、長野市戸隠在住。二児の母として、今後は親子で登山が楽しみ。