うっかりだけど、前回に続いてまた「外輪山」のトレイルに思いを馳せている。好きなのだから仕方がない。縦走もピストンもいいけれど、外輪山とか尾根周回とか、なぜだか“ぐるり”と周ってスタート地点に戻ってくる山歩きが、とても好きなのだ。

そういうコースを思い返すと、鳥海山は外輪山をぐるりと周って歩くコースがとてもよかった。登山口は山の東西南北にあって、それぞれのコースから岩だらけの頂を目指すのだ。山頂部は新山といって、周囲を七高山、行者岳、伏拝岳、文殊岳といった峰々が囲むように連なっている、いわば外輪山のフォーメーション。西には弓なりに伸びる日本海と沿岸部の広がりを、東には奥羽山脈の山々や霊峰月山の深みを、存分に眺め歩くことができる。その道、まるで雲上の回廊のごとし、である。

鳥海山は独立峰のような山容をしているけれど、実は「出羽山地」の一座であり、標高2236mの新山がその最高地点。大物忌神という謎の多い神が祀られる霊山で、出羽富士とも称えられる美しい姿は、地元のみならずハイカーからも親しまれている。

麓の山形県遊佐町から眺める鳥海山は神そのものだ。紅葉のころになると緑の山肌を赤い帯のようなラインが数日かけて麓に下りてきて、新緑のころには鮮やかな緑のラインが少しずつ山頂に向かって押し上がっていく。そんなあたり、まさに神の仕業である。こういう自然の営みを町から眺められる暮らしは、日本ならではの四季の移ろいを実感できる。都会にいると、そういう自然のシグナルに対する感度が鈍くなる。だからぼくは頻繁に山に通うのかもしれない。

健脚なら日帰りでもチャレンジできる鳥海山だけれど、これだけ体躯の大きな山だから、山頂直下にある大物忌神社の小屋に宿泊する1泊2日の行程が理想だろう。日本海に沈みゆく真っ赤な落日と、こぼれ落ちてきそうな圧倒的密度の星空を、漆黒の特等席で独り占めできる。ぼくは何年も前にこれをやって、あまりの美しさに人生観が変わったほどだ。

あの日、夜が明けると、山形の広大な領域を雲海がびっしりと埋め尽くしていた。その“海上”から月山や奥羽山脈の名峰たちが浮島のように頭を出している特別な光景は、今なお忘れがたい。そんなスペシャルな眺めを雲上の回廊から気ままに楽しめるのが、この外輪山トレイルのいいところなのだ。

雲の白と空の青の間を、山の緑が美しくとりもっている。気持ちのよい稜線をスキップする気分で歩けば、目に入る真っ青な日本海に、そのままジャンプして飛び込みたくなる。それほどこの稜線の道は軽やかになれて、山と海を間近に感じられる。

稜線についたひと筋に道を辿ると、七五三掛で御浜小屋からの登山道と合流し、やがて鳥海湖に出合う。あまりの気持ちよさに夢中で下山してきてしまったころ、ふと振り返ると、もう山頂部も外輪山の稜線も見えなくなっていた。海岸線も、もう見えない。

儚い夢から目覚めたように、ぐるりと下山して駐車場に戻ってきたころには、なんだか喪失感がとても大きかったことを覚えている。「これはまた来なきゃなあ……」と、胸に誓いを立てるのだ。

忘れがたい雲上の回廊、鳥海山の外輪山の道。きっとまた、同じ道を歩きに行く。

<アクセス>
登山口「鉾立」から歩く象潟口コースが一般的。秋田県にかほ市の象潟駅から鳥海ブルーライナーバス、山形県遊佐町の遊佐駅から乗合タクシーを利用して鉾立口へ。自家用車可(開通期間あり、要確認)
大内 征

低山トラベラーです。山旅は知的な大冒険!

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大内 征

物語の残る低山里山、ただならぬ気配を感じる山岳霊峰を歩き、日本のローカルの面白さを探究。文筆と写真と小話でその魅力を伝えている。NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー、著書に『低山トラベル』『とっておき!低山トラベル』(二見書房)がある。自由大学「東京・日帰り登山ライフ」教授、.HYAKKEIオフィシャルパートナー。

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