12 山を見る 〜野川かさね エッセイ〜
山登りをはじめるまで、
山は眺めるものだと思っていた。
連なる山々を遠くの場所から望み、
あれはなんという山なのかと
名前が記してある看板とにらめっこをしていた。
「山」はただ「山」というひとつの固まりだった。
でも、いまは違う。
天気が悪く、山の全容が望めなくても
たとえその山を歩いたことがなくても、
山のなかにあるだろう風景に思いをめぐらせ、
あたまのなかの山歩きを楽しむ。
シャクナゲやイワカガミの花が咲き、
ウソやホシガラスが飛びかっているのだろうか。
登山道の雪はまだ残っているのだろうか。
そんな風に想像することで
「山」はただの「山」ではなく
多くの生き物たちや光景を包み込んだ
存在として私の目の前にたちあがってくるのだ。
写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。