Moonlight Gear千代田さんが辿り着いた“ちょうどいい、高尾”の山麓暮らし
(※こちらは2020年4月20日に公開された記事です)
高尾山口駅舎の立て替え、温泉施設やショッピングセンターの開業など変わりつつある高尾エリア。
新宿から電車で1本と言っても、そこは山の麓。アウトドアに魅了された人なら一度は憧れる山の近くの田舎暮らし。でも、住みやすさや暮らしやすさはどうなの?と思う人も多いでしょう。
高尾に住まいを持ち、暮らし、感じたこととは? 千代田さんが見ている景色を覗きにいきました。
もくじ
普通のサラリーマンが踏み込んだアウトドアの世界
日本のハイキングシーンでまだUltra Light Hiking(ULハイク)が定着する前から日本では無名な海外ブランドを直輸入して注目されてきたアウトドアショップ「Moonlight Gear」。OMMやSixmoon Designなどのヒットブランドを開拓し、遊び方やスタイルを提案するギア紹介は、UL好きギアフリーク達の心をくすぐります。
創設者の千代田さん、実は数年前まで人材系の企業で働いていました。初めての山は、友人に連れて行ってもらった埼玉、秩父の日帰り登山。それまで趣味にしていたマウンテンバイクに比べてなんだか地味な印象だったと言います。
しかし、テントを担いで縦走登山を始めてから一変。さらに道具好きが高じて、日本ではあまり知られていないマニアックなものへと、人とは違うギアを探し求め経験を重ねる度にどんどん詳しくなっていく。
今は共同で会社を経営する大学時代の友人の小峯さんから「その知識はユーザーに取ってすごく魅力に写るんじゃないかって俺は思うんだ」と言われ、今のMoonlightgearは生まれました。
「会社には6~7年ほど勤めていたんですが、最後の2年間は会社に内緒で副業をしていたんですよ。もう時効かと思うんですが。Moonlightgearのウェブショップのオープンが2010年、そこから法人化するまでの2年間はまだサラリーマンでした。あの頃は1ドル80円くらいだったので、日本でまだ代理店のないUL系の海外のアイテムの輸入を主軸にしました。お金もないし、サラリーマンだし、基本的にはメールで交渉と仕入れをしていましたね。今はもうずいぶんと人気になった「Sixmoon Designs」を口説いたのもその頃のことです。」
2013年に法人化し岩本町に路面店を開くことになった時のエピソードは、ラッキーな千代田さんを象徴するようなものでした。
「共同経営の小峯とぼくは2人とも結婚していた。会社を辞め法人化するならやっぱりそれぞれが家族を養えるだけの会社の成長を見込まなきゃいけない。そう考えると個人ショップだけでなくて海外ブランドの代理店で卸し販売をやるべきだなと考えていました。
ちょうどその頃、海外ブランドとの交渉時に英文の相談に乗ってくれていたカナダ人の友達から「仲間に入れてほしい」という話があり、じゃあ代理店がやりたいからまずはこのブランドを口説いてくれないかな?と。その中の一つにOMMがあった。そしたらすぐ「OKだって!」と連絡がきて。
その翌日に、会社で辞令が出て「次は課長だ 頼むな。」と言われたんですよ。ああ、これは運命だなって。それをきっかけに会社を辞めて法人化に踏み切りました(笑)」
ヒトやモノがひしめく都会から、フィールドへ一歩近づく
会社員時代の住まいは、高円寺。東京生まれの東京育ち。なぜ都会暮らしを手放したのでしょうか。
「山の近くに住みたいという憧れは前からあったんです。以前住んでいた高円寺はすごく道が狭く、ひしめいている感じがありました。それに、震災の後、心境の変化があったんです。この窮屈さはまた同じような災害があった時に不安だなって。」
まず、千代田さんは高尾ではなく西八王子に引っ越しました。
「こっちのエリアがどんなもんかな、と探る感じでした。オシャレな物件が出て、奥さんを半分騙すような感じで決めちゃいましたね。高円寺では35平米に2人で住み、10万以上の家賃を払っていたんですが、西八王子の物件はそれよりもずっと安くて80平米だったんですよ。」
都心から山へ少し近づいた暮らし。それでも、登山口まで5kmという距離に「ちょっと遠い」と感じるように。子供が小さくて、家を自由に空けるわけにもいきません。
「できればスキマ時間に山に行けるくらい近ければいいなぁと思いながら、なんとなく賃貸じゃなく「家」を探し始めたんですよね。」
“田舎暮らし”は自分にはまだ早い、ちょうどいい郊外暮らしへ
アウトドア業界には地方へ移住する人も多い。山を持っている人や、丹沢などの山麓に身を置いて仕事をする人。千代田さんにとっても、その姿は憧れでした。でも選んだのは「高尾」。
「高尾は、田舎暮らしじゃないんですよね。車社会だけど、生活や買い物が不便すぎない。いい意味で”郊外暮らし”が今の自分には向いてるなって思うんですよ。畑や大きな庭もいいけれど、年中やるのではなく、まだもっとライトでいい。
今は仕事も楽しいし、サバイブしている感じもまだまだある。子供とも遊びたい。田舎暮らしにも憧れはあったけど、本格的な山暮らしは自分にはまだ早い。郊外暮らしなら無理なくできるなって。薪割りと庭の小さな菜園が、唯一の田舎暮らしさですかね(笑)。」
家を買うという大事なタイミング。環境もコスト面ももちろん重要。
「都内の建売の金額で、高尾なら注文住宅を建てられる。土地・環境の選択肢とコスト低く自分の望むものを建てられるという両方が叶えられる場所でした。」
災害時でも安心と言葉を続けます。
「高尾は、関東平野の端なので、都心のギュッとした中にいるよりもある意味天地災害が起きた時に逃げやすい場所かなと個人的には思っています。普段は圏央道を使って東名も中央道も行ける、下道でも国道をまっすぐ走れば山梨の方にも行ける。あと、このあたりの地盤が強いのもポイントでした。」
仕事環境としても“ちょうどいい”と語る千代田さん。
「ここは、よし山に行くぞ!って構えなくても良いんですよ。ふらっと出かけられる。山の上で商品のレビューを考えることが多いので、この商品、汗抜けどうかな?と思った時に、「よし、ちょっと行ってこよう!」とギアをすぐ試せるのはめちゃくちゃいいですね。」
頭の中でレビューの構成を描き、言葉を紡ぐ。家に戻りパソコンの前に向かう。外に出たり、家に戻ったり、仕事にメリハリが付くため、家でも仕事はしやすいと言います。社員は皆住んでいるところが離れていて、打ち合わせもオンライン。ショップのある岩本町も、高尾駅から中央線の特快で1時間です。
「都心に出る時は、自転車で駅前まで行くこともありますけど、だいたい歩きですね。家の裏山を越えて駅まで行くんです(笑)。」
高尾に住みながら、根を張らないスタイルでビジネスをしたい
今のところ死ぬまでここで暮らして行こうと思っているという千代田さん一家。でも、ノマディクスは「根を張らずに色んなところに旅をする」がモットー。高尾暮らしという生活と自由なビジネススタイルを両立させていきたいと話します。
「最近社用車を格安で買ったんですよ。高尾で面白いお店をやりたいと考えた時、それがハンバーガー屋なのか、moonlightのショップなのかガイドのイベントスペースなのかはわからないけど、場所を構えるとなれば、昔ながらの地元の方々とのお付き合いや観光地としての難しさもある。そういうことを高尾に住んでみて身近に感じて、それならば土地を借りたり場所を借りたりするよりも、「動けるもの」で「なんにでも化けられる」バンを買いました」
せっかくだから面白い車にしたいという千代田さん。調理もできて、移動販売もできて、薪ストーブも入れられて、泊まることもできる。屋根にルーフ付けてウッドデッキを設置してテントを張れるようにする。夢は広がるばかり。バンを眺めながら目を輝かせる姿はまるで“新しいおもちゃ”を手に入れた少年のようでした。
最後に、どうやってこの場所を見つけたのかを聞くと、素敵なエピソードを教えてくれました。
「この場所に出会ったのは本当に偶然だったんです。高尾の破線ルートを探索していて、たまたまこの家の裏の登山口に出たんですよ。バーンと景色が広がっていて「何ここ!」って。夕暮れ時で、夜景が綺麗な日でした。実は、若い頃に奥さんとカナダを旅した時、バンクーバーの夜景が綺麗に見える友達の家に泊まって「夜景が綺麗だね。いつか丘みたいなところに住みたいよね」って言っていたんですよ。まさかそれがいま高尾の山麓で実現するなんて、不思議ですよね。」
山好きならきっと憧れる、山麓暮らし。でも、田舎暮らしや移住に転職となれば一大決心が必要。でも、高尾なら今の生活をほんのすこし変えるだけで、大好きな自然のすぐそばで暮らせる。高尾山のあるエリアゆえに山や田舎のイメージがあるかもしれないけれど、そこはベランダからビル群が見えるくらいの身近な東京郊外の街。都会との繋がりも持ちながら、山麓で暮らす“ちょうどいい距離感”が高尾の魅力なのかもしれません。
Moonlight Gear
WEB SHOP https://moonlight-gear.com/
Instagram https://www.instagram.com/moonlightgear_chiyo/
Facebook https://www.facebook.com/MoonlightGear/
Youtube https://www.youtube.com/user/moonlightgear
店舗:東京都千代田区岩本町2-8-10 ロクマルビル 1F
TEL :03-6884-8143
営業時間 : 12時~20時 ※火・水曜定休
(写真:Hao Moda)
旅や自然が好きすぎて“趣味が高じて”アウトドアライターに。登山やトレイルランニングの取材・執筆を中心に、年間100日以上山に通う。1,000kmを越える国境縦走やロングトレイルが好き。国内外の長距離トレイルランニングレースにも出走。山でも街でも、酒と肴が必携品。