.HYAKKEIをご覧のみなさま、こんにちは。ライターの田中嘉人です。
そして……
母です(本物です)。
突然の乱入、申し訳ありません。簡単に経緯をご説明させてください。
前回は山梨県のJR身延線井出駅から六地蔵公園を越え、徳間という集落まできました。
今回徳間から再び静岡県入りを目指すのですが、今回の目標予定地点がなんと実家の近所でして。そのことを母に伝えたところ「一緒に行ってあげようか」と……。
一応「大変かもしれないよ」とは話したのですが、「ほぼ毎週JRとかが開催しているウォーキングイベントへ行っているから大丈夫だ」とのことで……。
まぁせっかく実家の近所だし、母との思い出づくりになるかもしれないし、そういえば会社を辞めるときにちょっと言い合いになってからあんまりちゃんと話してないな……というわけで、今回はふたりで歩いてみようと思います。
変な感じかと思いますが、どうか最後までお付き合いいただけますと幸いです。
<今回のコース>
徳間→奥山温泉→田代峠→西里
というわけで、スタート地点は徳間のバス停。普通は南部町営バスか徒歩でしかここまで来られないのですが、今回は実家パワーをいかんなく発揮しました(送ってもらった)。それにしても、母とふたりで写真を撮るなんていつ以来だろう……。
右手には福士川。その奥には前回歩いてきた上徳間の集落が見えます。すっかり冬ですねぇ。
林道はこんな感じ。ゆるやかな登りが続きます。まず目指すのは、奥山温泉。本来なら「ここでひとっ風呂」といきたいのですが、冬の時期(12/1〜3/31)は休館中。長風呂にぴったりのぬる湯が特徴の奥山温泉。興味をお持ちの方は、公式サイトで詳細をご確認ください。
東海自然歩道の看板を発見。母親からは「仕事はどうなの?」と。
「まぁ、おかげさまでぼちぼちやってるよ」と僕。母親は「そう」とひと言だけ。どことなくぎこちない……?そんなふたりの前に、アスファルトはひたすらに続くのでした。
途中、東海自然歩道と「奥山温泉まで4km」の看板が。「どうせ温泉には入れないしねぇ」と母親。このあたりで雨もパラついてきました。そういえば前々回も雨だったなぁ。
小雨のなかをひたすらに進んでいきます。わかりづらいかもしれませんが、このアスファルト道が意外とハードな上り坂で、じわじわと効いてきます。「もし雨が降ってきたら奥山温泉で今日は終わりにしよう。無理はよくないから」と僕。「うーん……」と母親。
こちらの不安をよそに幸い天気は崩れることなく奥山温泉まであと1kmのところまで。ようやく上り坂が落ち着いてきました。
途中、滝らしきスポットを発見。チョロチョロと水の流れる音が静寂のなかに響きます。
山梨県側のコースを記した巨大な看板が。「もうすぐだね」と母。こっちはアスファルト道を歩き続けてちょっとダメージを受けているのに、母はまだまだ余裕がある様子。おそるべし……。
小規模ながら渓谷が。地味だけどこういうスポットが嬉しいものなんです。
そうこうしていたら案内看板に「大平・田代峠」の文字が。そう、大平は今回のゴール方面。田代峠は今回のコースで最も標高が高いポイントです。「雨も止んだし、一気にクリアしよう!」と僕。「何言ってんの?当たり前でしょ。そんなことより、あんたさっき帰ろうとしてたでしょ?まったく……なんのために来たの?根性ないんだから」と母のお説教が……。そ、そうだけど……。
母に圧倒されているうちに奥山ふれあいの森に到着。ここまで来たら奥山温泉はもうすぐです!
ふと目をやると「山蛭(ヤマビル)注意」の看板が。そういえば前々回、ヤマビルで痛い目に遭ってたんだった……。幸い真冬ということで今回は遭遇しませんでしたが、雨上がりの日や梅雨時などジメジメしている時期は注意が必要だと思います。
「山蛭(ヤマビル)注意」の看板の脇にはトイレもあるのですが……
残念ながらキャンプ場利用者専用とのこと……。出発地点の徳間のバス停にはトイレがあるので、事前にそちらで用を足しておくことを強くおすすめします。
トイレを横目に進むとすぐに奥山温泉の看板が。思いの外ハードなアスファルト道だったけど、おかげで体はだいぶ温まりました。
やはり冬期は休館中。立ち入り禁止って書いてある……って、ズンズンと進んでいく母。もう怖いものとかないんだろうなぁ。
なるほど、田代峠・大平方面への看板が出ていたみたいです。他に迂回路も見当たらないので、立ち入り禁止を乗り越えて進んでいくことにしましょう。
この渋い建屋が奥山温泉の施設。実は地元だけあって一度来たことがあるのですが、露天風呂が広くてなかなか快適でした。本当にぬる湯なので、夏にキャンプがてらに立ち寄るのがいいのかも。宿泊もできるみたいです。
ここからはいよいよ山梨静岡の県境越えです。道もいよいよ本格的に。天気も持ちそうなので、小休憩もほどほどに前進したいと思います。「止まってると体が冷えるから早く行こう」と母。強いな、おい。
……と、思ったらいきなり通行止の看板に出鼻をくじかれる。
でも、通行止の看板の右側にあるのは紛れもなく東海自然歩道の看板。田代峠の文字が刻まれています。ここを乗り越えて進んでいきましょう。
そしてもうひとつの看板には「遭難事故多発」の文字が。自分だけならまだしも(いやだけど)、母を巻き添えなんて最悪すぎる……緊張感……。ちなみにコースとゴールの到着予定時間は父親に連絡済みです。田中家総出だなぁ……。
行く手をふさぐ大きな岩。こんな岩が落ちてきたらひとたまりもない……。僕はどうにかこうにか乗り越えたけど、母は身軽にひょいっと飛び越えてました。どうなってんだ。
ちなみに足場はこんな感じ。アスファルトよりは当然不安定なんですが、足へのダメージは少ない気がする。「さっきより歩きやすいね」と母も言ってます。
やけに見晴らしのいい広場があったので、写真を一枚。バックに見えるのは、おそらく今まで歩いてきた山のどれかでしょう。
足場が少し変わりました。さっきまでは石がゴロゴロしていましたが、気がついたら土がメインの道に。足への負担もなくなり、だいぶ歩きやすくなってきたぞ。
基本的に一本道なので迷うことはなさそうですが、看板があると安心する。このあたりでようやく母の口数が少なくなってきました。やっと疲れてきた?
斜面からツララが生えていました。地下水が凍ったってことなのかな?そういえば標高も高くなってきたので気温が下がったような気がします。
地面もカッチカチに凍ってました。最近いい靴を買ったので「俺の靴なら大丈夫だと思う」と自信満々で氷の上に乗ったところ瞬時にツルっ!転倒はしませんでしたがかなり焦りました。そしてそんな僕を母はこの氷のように冷ややかな目で見ていました……。
細島峠との分岐点を発見。しかし我々が進むのべきは東海自然歩道ただひとつ。目もくれずに進もう……と思ったら「ヘビ(マムシ)に注意」の文字が……。マムシもいるのか。
滝のような沢のような……でも水は凍ってました。このあたりは峠の北側なので、日も当たりんだろうなぁ。
小さな東屋(あずまや)を発見。母に「休憩する?」と聞いてみたのですが「まだ大丈夫」とひと言。体力どうなってるんだ……。
道中で自生しているミツマタの木を発見。「これで和紙つくるんだよね。知ってた?」としたり顔で聞くと、「当たり前でしょ。あんたの幼稚園でよくつくってたじゃん」とクロスカウンター一閃。恥かいた。
「それにしても幼稚園児に和紙をつくらせるなんて……」なんてことを考えていたら田代峠の文字が。この木の右側にも獣道がありますが、案内にしたがって迷わないようにいきましょう。
しばらく歩くと謎の小屋が。「誰がこんなところに建てるのかねぇ」と母。僕は怖くて中は覗けませんでした。こういうところって夜「そういえば、今の時間あの小屋はどうなってるんだろう」とか想像するとマジで怖くなります。そのことを母に教えてあげたところ「それは怖いね」と言っていました。
怖い小屋を後にして、緩やかな登りが続きます。足場もふかふかで比較的歩きやすい
坂道の先には休憩ゾーンと案内看板が。手元の地図によると、ここからがいよいよ本格的な山道に突入します。
山梨県の看板もこれで見納めか。のんびり休憩していると体が冷えてしまうので、軽く水分補給だけして先を急ぎます。母に「まだ大丈夫?」と聞くと「全然余裕」と力強い答え。
僕らを待ち受けるのは結構急な山道。少しペースは落ちますが、転倒したら大変なのでゆっくり進んでいきます。
……と、思ったら母が転倒!木製の通路のうえにあった石を踏んでしまったらしい。しかしすぐさま立ち上がってストレッチ。「あーびっくりした(笑)」とどこか他人事のように笑ってます。幸い足をひねったり、擦りむいたりってことはなかったので、慎重に先を進みます。
日当たりが悪いせいかコケも多い。コケは滑りやすいので、生えていないところを選んで歩いていきます。
ほんの少し、ほんの少しだけどもののけ姫っぽくないですか?え?そんなこと全くないって?そ、そうですか……すみません……。
そういえば、山道に突入してから母はトレッキングポールを装備。最初は使い勝手がわからず戸惑っていましたが、ほんの数m歩いただけでマスターし、気がついたら山道を縦横無尽に駆け巡っていました。なぜこの母の運動神経を受け継げなかったのか……。
森はますます深まっていきます。もちろん坂も急に。ひとりだったらちょっと怖いやつ。
手元の地図と案内看板を頼りに進んでいきます。唯一ありがたいのは足場がフカフカな点。勾配が急なのでしんどいことはしんどいんですが、足への負担はさほどありません。疲れがたまらないって結構大事なんだな。
今度は木製の橋が。ここで転倒したらひとたまりもないので、慎重に進みます。
川沿いの道に出ました。木が生えていないので、明るくて嬉しい。
それにしても母のペースの早いこと早いこと。60過ぎとは思えない健脚ぶりでついてきます。
苦手(?)な木製の橋もなんなくクリア。「こんなところまで来てこういう橋をつくった人がいるんだねぇ」なんて言いながら先人への感謝の言葉を伝える余裕も。すごいな。
川を離れ、再び森のなかへ。さぁ、田代峠はもうすぐだ!
ちょっと道がわかりにくいですが、中央の木に案内看板があります。
字が消えちゃってるけど、とりあえずこのピンクのリボンを手がかりに進んでいけば大丈夫でしょう!
ほら、道っぽくなってきたし!「お、もうすぐ峠じゃん」とまだまだ元気な母。
あ、ベンチらしきものが見える!!ということは……??
田代峠到着〜〜!!やったぜ〜〜〜!!!
案内看板にはついに故郷・清水の文字が。山中湖から富士山麓、そして天子ケ岳から田代峠と二回にわたってお送りした山梨ともいよいよここでお別れです。
母とベンチに座ってお昼タイム。汗も拭いてのんびり……といきたいところでしたが、峠ということで遮るものが何もなく、冷たい北風がビュンビュンと吹き込んできます。あまりの寒さに「よし、さっさとゴールしよう」と決断。15分ほどの休憩で、山下りに臨みます。
先ほどから看板に見かける「大平」という地名。ですが、今日のゴールは大平ではありません。大平の少し先にある西里というところまで行きたいと思います。なぜなら……?
西里には「やませみの湯」という温泉があるからです!登山で冷えて疲れた体に温泉……想像するだけでヤバくないですか……?後の至福に胸を踊らせて、下山していきます。
田代峠から下るとすぐに林道が見えてきます。実はこちらがフェイント。
林道を歩くと、眼下に東海自然歩道があるのがわかります。オーマイガー!
やむなく引き返して、看板を見つけながら進んでいきましょう。
田代峠から大平までの東海自然歩道ですが、ところどころ通行止めになっているみたいでした。やむなく迂回しながら歩いていきましょう。
山梨県と比べて案内看板の地図が詳細で、かつ所要時間も記載されているのでわかりやすい!ただ、個人的に静岡県の案内看板に記載されている所要時間は甘めな設定なので、いつも「大幅に巻き返せるな」と思っています。のんびりな県民性の現れか?
途中、すごく素敵な休憩スペースを発見。思わず写真を撮りました。
しばらくするとまたしても本コース通行止めとのこと。ひたすらに林道を歩いていきましょう。
林道からは大平の集落が見えます。この景色の左側の山の向こう側で僕は育ちました。「ここはなかなかの絶景だね」と母。
林道なのでスリルもなければ、自然とのふれあいも少ない。
ひたすらに淡々と下っていきます。「味気ないねぇ」と母。
東海自然歩道の看板を発見。先ほどの通行止めだった本コースを進んでいくと、ここで合流できたということなのでしょう。
コースの奥にはなかなかハードな雰囲気の木製階段が、顔をのぞかせていました。いやー、行きたかったけどなぁ!事故に遭ってからじゃ遅いからなぁ!残念だなぁ!
本コースを歩けなかったことを悔いながら、味気ない林道を下っていきます。
そうこうしていたらフェンスにぶつかります。左側に人が出られるスペースがあるので、そこから越えましょう。
フェンスの奥にはかなりアンティークな鳥居が。「こういうところを夜想像しちゃうと確かに怖いね」と母。理解してもらえた!!
途中、川のなかを横切るようなコースになっていました。大雨の後とか増水するかもしれないので、そういうときは止めたほうがいいと思う。
振り返って一枚。こんな感じの林道をひたすらに下ってきました。足場がゴツゴツしてきてそろそろ足が痛くなってきました。
そうこうしていたら養鶏場を発見。「こんなところに養鶏場があるんだねぇ」と母。地元の人でもなかなか知らない養鶏場を右手に見ながら林道を下っていきます。
基本的には下りだからスピードが出ちゃうんだけど、あんまりスピードを出すと足が痛くなるのでそのあたりのバランスが難しい……。
途中で案内看板を発見。徳間峠へのコース案内も出ていますが、東海自然歩道のコースではないので、ひたすらにやませみの湯を目指します。
道中、右手にやけに巨大な岩が。通称・軍艦岩。軍艦の形を模した岩とのことで、地域の子どもたちが名付けたそうです。「どこが軍艦なんだろうね?」と母に聞くと「まぁ見ようによっては見えるよね」と理解を示していました。
軍艦岩の先に河原に出られるところがありました。足の疲労が溜まっていて、気温もだいぶ上がってきたためここでお昼休憩にします。だいぶ下ってきたおかげで風もないし、気温もそこまで低くない感じです。
「コンビニのおにぎりがこんなにうまいなんて」とふたりで感動しながら食べました。食事が済んだら入念にストレッチも実施。僕は以前モモ裏に疲労がたまりすぎてギックリ腰になってしまったため、モモ裏を重点的に伸ばしました。30分ほどの休憩で、再びスタートです!
しばらくすると茶畑ゾーンに突入。THE・静岡な風景です。
このあたりのコースを記した巨大な案内看板が。情報量が多いのはありがたい。
するとやけに小洒落た建物が。実はこちらドッグラン併設のカフェとのこと。残念ながら立ち寄ることはなかったのですが、いつかサンドウィッチマンとかにバスで来てほしい。
気がついたら足元はすっかりアスファルトに。終盤のアスファルト……結構ダメージ大きいんだよなぁ……。
気がついたら集落に入っていました。振り返ってパシャリ。このいずれかの山を越えてきたんだと思うと、妙な充実感があります。
でも、ゴールはまだまだ先。ペースを落とすことなく歩いていきましょう。そして、このあたりから母の口数が一気に減りました。ペースは全然落ちていないので、疲れてはいない様子。どうしたんだろう?「大丈夫?」と声をかけても「……うん」と力ない声。
次回のコースのメインである穂積神社の文字が。ちゃんと前進できていることを実感できて嬉しいです。
そうこうしていたら大平のバス停に到着!すると母が静かに語り始めました。「ちょっと前まではバスが来ていたんだけど、乗客が少ないから最近予約制を導入した」とのこと。つまり事前に予約しないとバスに乗ることはできないみたいです。なんとまぁ……!詳細はこちらのサイトをご覧ください。
そんなわけなので川沿いを再び下っていきます。気がついたらすでに母は先に行っていました。
それにしても母のペースがすごい。体のわりに大股でどんどん進んでいきます。そして表情にも鬼気迫るものが……!
さすがに心配なので「本当に大丈夫?」と聞くと、返ってきたのは「と、トイレ……!」とひと言。「は?」と僕。「だ〜か〜ら〜、トイレ!!」と言葉に力が込もる母。そう、母は田代峠の寒さにやられ、トイレ行きたいモードに入っていたのでした。
「さっきのカフェで借りればよかった〜!」と悔しそうに歩いています。……がんばれ!母ちゃん!
岩の上にやぐら?がありました。なかなか不思議な風景。しかし、ぼんやり写真を撮っていると母に置いていかれてしまうので、すぐに向かいます。
バス停をいくつも越えて進んでいきます。でも、トイレは全然ない!
わかりにくいですが「わさび」の文字が。このあたりではわさびも栽培されており、わさび漬けなどの商品もつくられているみたいです。
川沿いをひたすら歩くと、矢印の向きが変わります。
どうやら「この道を行け」ということみたい。地図を見る限り川沿いを歩くよりもショートカットできそうなので願ったり叶ったり。
今回のコースで初めての自販機がありました。もし田代峠越えで水分を切らせてしまった場合はこちらで購入しましょう。
数百m歩けばもう一台あるので、こちらで購入してもよいでしょう。
集落を抜けると再び川沿いの道に合流。ゴールの西里はもうすぐです!母ちゃん!もうすぐだ!
「話しかけないで!」と、驚異的なスピードで突き進む母。ときおり小走りで追いかける息子。
ここを右折して……
あ!温泉のマークだ!!
というわけで、到着!!
「いや〜無事到着できてよかったね!お疲れさま!」と母を労おうとしたところ、一目散にトイレへ消えて行きました。確かに、コース全体でトイレが少ないのが注意点かもしれません。特に峠越えをするとめちゃくちゃ冷えるので、カフェでコーヒーをいただきつつトイレを借りるなどしたほうが賢明かもしれませんね。
なにはともあれ無事ゴールしたことには変わりありません。まさか親子で歩くことになるとは思ってもいませんでしたが、やってみればココには書けないような話もたくさんできて結構楽しかったです。何よりいい思い出になりました。温泉も最高だった。
「母ちゃん!ありがとうね!」
最後まで読んでくださった読者のみなさまにも感謝いたします。お付き合いいただき、ありがとうございました。それでは、またお会いしましょう!