登山情報

新しいトレイルを探す旅、「ジョージア」で1番美しい湖 -前編-

小さな村のとある家庭にて

日本では猛暑が続いていた8月下旬、私はジョージアのKvedaTsvirmindiという小さな村のとある家庭にお邪魔していた。

トレッキングのゴール3km手前の村を通り過ぎようとした時、通りかかった地元民に「コーヒー飲むか?」と聞かれ、おずおずとこの家の門をくぐったのだ。主人自家製のチーズを食べ、少し甘いジョージアンコーヒーを飲みながら、しばらくの間、会話とも言えないコミュニケーションを続けた。ここの住人たちは英語を話せない。もちろん私はジョージア語を話せない。

彼らの生活を感じ、十分に満足したので、そろそろここを出ようと思った。これまで様々なトレイルを歩いてきたが、道中に地元民の温かいおもてなしを受けた時は、疑心暗鬼にいつもこう聞く。「いくら?」と。しかし、彼らは間髪入れず「No」と答えた。チーズやコーヒーだけでなく、トマトとパン、ヨーグルト、ベジタブルパイもごちそうになったのに。彼らの気持ちがとても嬉しかった。せめてものお礼にと、私は折り紙の鶴を渡した。

なぜジョージア?

ジョージアは東ヨーロッパと西アジアの挟間に位置する国だ。コーカサス山脈の南側に位置し、かつてはグルジアという名で呼ばれていた。毎年夏休みを利用して海外のトレイルを歩いているのだが、マイナーなトレイルを探し求めてこの国にたどり着いた。「ジョージアのアラスカ」と表されるエリアに、この国で最も美しい湖がある。日本語の情報は見つからなかったが、英語ではある程度情報がある。行ってみないと分からない楽しさ。インターネットが普及し、トレイル情報は簡単に手に入る。昔の旅人が羨ましいと常々思う。

マイナーなトレイルを探しながら、つくづく私は旅人だと思う。危険な場所を求める冒険家、ストイックに自分の限界に挑むトレイルランナー、定住して質を高めるキャンパーに憧れを抱くも、私は山旅を楽しむハイカー的旅人だと思う。

トレッキング開始

登山口がある村、ムクリに到着したのは日本を出発して48時間以上経ってのことだ。初めは林道歩きが続く。すぐに飽きてしまい、ヒッチハイクをして10kmほど移動するが、林道はまだ続いている。迎えた翌日、ようやくトレイルらしいトレイルを発見する。

標高の割には広葉樹林ばかりが目立つ。なぜだろうか。そんなことを考えていたら山小屋を発見した。ドアが開いていて、覗くとおじさんがチーズを作り、外ではもう一人が馬を連れている。彼らの生活が垣間見られる。「トボワチキルに行くのか」と聞くので、「そうだ」と答える。

右手を私が進む方向へ向ける。「こっちに行け」というジェスチャーを何度も何度もしてくれる。ずっと独りで歩いていると、言葉が伝わらないコミュニケーションでも満たされる。

コースサインは白と赤のペンキでマーキングされ、とても分かりやすい。国旗を意識しているのだろう。

この日は頑張って歩き、トボワチキル手前のTsashkibulish湖で泊まる。

トボワチキル湖

3日目の朝はゆっくりと起きて、出発する。Tsashkibulish湖を背にし、峠を越えていく。12時には今回の旅のハイライト、トボワチキル湖に到着した。

別名シルバーレイクと呼ばれ、標高2,637m、北緯42.78462、東経42.24172に位置する。パタゴニアのような山容を見せ、ヨセミテのようなアップダウンがあり、ヒマラヤのように山岳民族が住み、スウェーデンのトレイルのように水が豊かな場所だ。唯一の違いは野生動物の気配がしないことだ。

午後は半休のため、すぐにテントを張る。ジョージアのスーパーマーケットで買ったコーヒーを淹れ、本を読んで、散歩をして、湖に入り、稜線を目でなぞり、絵を描くように脳に風景を焼き付けていく。

そのうち、何かをすることがもったいないと感じて、何もしないことにする。18時ごろに3人組みのイギリス人ハイカーたちがやってくる。独り占めの時間が終わったが、静寂なトボワチキル湖が続く。19時を過ぎてようやく日が暮れた。

後編につづく…。

新しいトレイルを探す旅、「ジョージア」で1番美しい湖 -後編- – .HYAKKEI[ドットヒャッケイ]

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ライター:
白井 康平

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