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俳優・田村幸士の若旦那と山登り対談|#3江戸小紋「廣瀬染工場」廣瀬雄一(後編)

こんにちは、田村幸士です。
「伝統工芸・産業×自然」第三弾(後編)です。

前編では、昨年100周年を迎えた廣瀬染工場を訪れ、四代目雄一さんと「江戸小紋」の魅力に迫りました。

俳優・田村幸士の若旦那と山登り対談|#3 江戸小紋「廣瀬染工場」廣瀬雄一(前編)

後編では、廣瀬雄一さんと共に山に登り、自然との関わりや伝統を「継ぐ」重みをお伝えします。

もう一つの顔。ウィンドサーファー、廣瀬雄一。

ウィンドサーフィンを楽しむ廣瀬さん(提供写真)

じつは廣瀬さんは、ウィンドサーフィンの選手だったのです。
小さい頃からウィンドサーフィンを始め、大学時代にはナショナルチーム入り、大学4年のときにはシドニー五輪の代表選考に残るほどの腕前。房総の海はウィンドサーフィンで頻繁に来ており、馴染みのある場所です。

今回は廣瀬さんにとって身近な海からスタートし千葉県・烏場山山頂へ向かって歩きながらお話を伺いました。

(左)俳優:田村幸士 (右)廣瀬染工場 四代目 廣瀬雄一
南房総にある千葉の山は海との距離が短く、砂浜から歩くこと約15分で、登山道に入れます。
登山道に入ってすぐに綺麗な渓流があり、一気に空気が変わります。
そしてすぐに黒滝へ到着。迫力があり、美しい。

いつのまにか育まれていた伝統工芸継承の意思

田村:
「江戸小紋を継ぎたいという気持ちは、どのようにして生まれたのでしょう?」

廣瀬:
「自宅の敷地内に工場があるので、小さい頃から当たり前に父や祖父の働く姿を見ていましたし、祖父母から“継ぐものなんだよ”みたいな刷り込みはあったと思います。いつのまにか、僕も“継ぐと祖父母が喜ぶんだろうな”と思っていました」

田村:
「学生時代はウィンドサーフィン選手として活躍していましたが、いつから家業を継ごうと考えてました?」

廣瀬:
「漠然と20代で競技をやりきって、30歳で江戸小紋を継ごうと勝手に思っていたんです。

忘れもしない大学4年の2月。ウインドサーフィンの大会で海外遠征に行く前に、父から“最後の試合になるからな。頑張ってこい。”と言われ、“あれ、どういうこと?”と思いながら出発しました。

帰ってくると“大学を卒業しすぐに始めないと職人として使えない”と祖父に宣言され、卒業後、家業を継ぎ、職人としての修行がはじまったのです。

今思うと、見えない糸でコントロールされていたんですね(笑)。」

山の風、海の風

ウィンドサーフィンで日本の頂点まで登りつめた廣瀬さん、急登でも余裕。時折、木々の間から見える海を眺め、「風が気持ちいい」とつぶやきます。

廣瀬:
「海から山頂に近づくにつれ、徐々に風が変わっていくんですね。海は少し重い風、山はドライな軽い風。面白いですね。」

田村:
「やっぱり風が気になるんですね。」

廣瀬:
「自然のなかに入って、風が吹くとついウィンドサーフィンを思い出します。

普通のサーフィンは波と一体になれるかが大切ですが、ウィンドサーフィンは風と一体になれるかが大切。

自分をいかに風にゆだねられるか。ウィンドサーフィンは自分の力で風を引っ張ろうとすると可笑しいくらいに全然進まないんですよ。

風を支配するのではなく風と向き合い一体化する、それがウィンドサーフィンの難しい部分でもあり、一番の醍醐味ですね」

田村:
「ウィンドサーフィンは海のスポーツ。山と同様、自然を相手にする限りリスクもあると思います。どういうリスクがあり、そのリスクをどうやって判断するのか、教えて頂けますか。」

廣瀬:
「沖に連れていかれる風や波はウィンドサーフィンにとって大きなリスクですね。岸に戻れなくなりますから。

まずは、
〇西から風が吹いてきたら、その後、思いっきり吹き上がるので岸に戻るようにする
〇海が曇っているときは風が少なく、雲がなくなると一気に風が吹く

のように風の基本的な知識はきちんと知っておくことが大切です。

海に入る前に、海面の波の立ち方も見ます。
海上に出ると”音”も大事ですね。」

田村:
「”音”ですか。」

廣瀬:
「はい、地上からの音がどう聞こえるかも“風”を判断できる一つの要素になります。たとえば風力発電の風車が風を切る音。地上にいると聞こえにくいのですが、海上いるととわりと聞こえるんです。大きく聞こえる場合は岸から海への風が強いんだなって判断する根拠になる。」

自然の中にいることが、江戸小紋にも生かされる。

田村:
「ウィンドサーフィンが、職人の技に活かされる部分はありますか?」

廣瀬:

「染職人とウィンドサーフィンは大きな共通点が一つあります。

それは道具を使うこと。

江戸小紋に必要な道具は、染め台、板、型紙、箆(へら)、染料、糊など。
身体だけでなく、道具を使って表現しているのです。

ウィンドサーフィンもボードがあってフィン、ポールがあってセイルがある。
そのひとつひとつのチューニングによって、風の捉え方が変わってきます。
ビーチで海と風を感じ、それに合わせてチューニングして最高のパフォーマンスを表現する。

染めの技術も道具のチューニングが必須です。
使い方だけではなく、管理やメンテナンスをしっかりやることで職人としての腕も上がる。

道具に対するこだわりや道具を大切にすることの重要性を教えられたのはウィンドサーフィンのおかげですね。」

田村:
「現役を引退してからも、自然の中へ入りますか?」

廣瀬:
「休みの日、フラっと海に行きます。ウィンドサーフィンをする訳ではなくただ眺めているだけのときも。

職人の仕事はアウトプット。ひたすらアウトプットが続くと、自分の中がカラカラになり、次に生み出したいものがなくなってしまうんですよ。

ひとりで海に行くと、海からインプットをもらい、次の仕事にまた挑もうと思えますね。

江戸小紋の表現は脳で考えるのではなく、丹田(気力が集まる体内の場所)のあたりで感じたものを形にするよう心がけています。

海に行くことでナチュラルになり、作りたいものがどんどん湧き出てくるんです。」

田村:
「今日も、海と山で一緒に過ごすことができてとても楽しかったですね。これまでは街中でしか会ったことがなかったから。」

廣瀬:
「やっぱり自然の中では心を開いて話せますね。

他のジャンルの方と出会い時間をともにすると何かが生み出されていく感じがします。

もっと新しい商品を出すことで、もっと多くの人に会いたいですね。」

日本橋や銀座の三越では自然で得た感覚で作り上げた広瀬さんの作品に出会えます。
江戸小紋の魅力を知りに一度お出かけしてみてはいかがでしょうか?

廣瀬染工場
http://www.komonhirose.co.jp

<コモンストールの販売>
・日本橋三越4階 華結び売場
・銀座三越7階 ジャパンエディション売場

(写真:村上岳)

【田村さんの今日の一枚】
田村さんが撮影したお気に入りを紹介
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ライター:
田村 幸士