【第1回】旅するように、日々を暮らす|“Discover Another Kyoto”

「山」の京都

これから「京北」という、「もうひとつの京都」の話を中心に書いていきたいと思います。

ほとんど、誰も知らない山奥です。読み方は、けいほく。北京とは、あべこべです。JRバスに乗り、京都駅から北へ1時間半ほど、そのうち、山道を揺られること40分。すると、私が2年半前より住むこの地に着きます。ここで2年前より、 “Discover Another Kyoto”と題して、外国人ゲストに向けた里山の体験型プログラムを提供し始めました。

縦横それぞれがほぼ20キロという大阪市と同じ大きさに、現在人口が5000人ほど(大阪市は260万!)、京都市右京区の一部を成します。しかし風景は、いわゆる「古都の京都」と大きく異なり、93%が森林という山間部です。聞くところによれば、鹿は8000頭と遥かに人口を凌駕し、日々増殖しているとか。半径15キロには電車の駅もチェーン店もなく(コンビニは1軒)、昔ながらの暮らしが残る、まさに里山です。

毎晩、鹿王国。自宅より徒歩20秒

この地域は、北山杉、という木材が全国的に有名な杉の産地。京北は、そこを流れる上桂川(かみかつらがわ)が、嵐山の桂川にまでつながる水源域。その川の流通を活かして、平安時代より木材やたくさんの食材を供給してきました。

一方で京北は、高齢化・過疎化が進み、空き家も増加する課題先進地域。そこで、半年間限定で地元のNPOで働き、その後定住して起業してくれる人募集、というプロジェクトを、京都の友人づてに聞いたのが私でした。事前には地域の情報はwikipediaくらいしかなかったのですが、足を運んでみて、すぐに決断。

最初は、NPOの雇用が終わっても京都が近いので、都市でフリーランスの仕事があるだろう、くらいに思っていました。ところが、地元の人たちと一緒に働きながら、地域の手つかずで豊かな観光資源に触れることで、これはマスツーリズムとは違う可能性があるなと着目しました。また、こちとら5言語をサバイバルに話し、現在はロシア語まで学び中の言葉狂い。やるならば、ぜひとも海外ゲストを呼び込みたいと思ったのです。

冬の京北

生業について

それまでこの地にやってくる「海外旅行客」はほぼゼロでした、それが今ではのべ700人以上のお客さんが、アジア、欧州、アメリカ大陸、時折エジプト人やらブラジル人まで、世界40ヶ国以上から訪れ、すこぶる満足した顔で帰っていきます。一見わかりやすい「見世物」があるわけではない京北なのに、例えばアメリカの「旅する学校」の生徒たちが到来したり、インドネシアのカップルがハネムーンではるばる再訪してくれたのも最近です。

みんな過ごし方は、シンプルです。もと空き家であった、地域の茅葺きの家に宿泊しながら、一緒にトレッキングをしたり、時にクッキングをしたり、ほとんど貸し切り状態の皇室ゆかりのお寺でゆったりしたり、地元の酒蔵や職人たちのギャラリーをめぐったり、ゲストの希望に応じてプログラムを練ります。

友人の家での鍋パーティーに一緒に行って、飲めや歌えやのこともあれば、日付変更線を超えるまで相手の国や日本について、個人的には、政治も宗教もどんどん話し、それが一番盛り上がります。いわゆる「旅行」とか「宿泊」という意識よりも、友人を迎えるように、時間をかけて一緒に過ごす、という感じの毎日で、それをゲストも喜んでくれているような気がします。もちろん、ほとんど「労働」という感じはありません。

そもそも、なぜ?

僕自身は、大学時代より長く東京に住み、もともと、世界一周をするクルーズ船で英語の通訳をしていたり、旅行会社が出版する雑誌の編集者として働いていたりと、「旅」に関わる仕事をして、気づけば訪れた国も70を超えました。ところが逆に、京北に移住した一年は、一切日本を出ることなく、世界中からのお客さんを40ヶ国近くから受け入れて、ひたすら夜な夜なゲストと語り合うことで、見えてきた新たな世界があります。

「旅とは、物見遊山ではなく、暮らしや出会いを共有することなのではないか」

日々、自分自身がゲストと呑めや歌えや、熱く語れやな素敵な時間を過ごしながら、そんな思いを強くしています。 自分自身が旅をしても、スタンプラリー的に観光地を訪れて写真を撮って終わるのは、何かが違う。それよりは、そこで出会う人と関わり、旅を通して自分が変わり、またそこに戻りたくなるような拠点が欲しい。そういう、自分が「あったらいいな、できたらいいな」な場を、うちに来るゲストには提供したいと思い、手探りながら進んでいます。

イギリスからのゲストと、滝又の滝へトレッキング

ゲストにも。読者の皆さんにも。

四季折々の「季節」に、日々の暮らしと仕事が幾重にも重なり合う、この美しい京北へとようこそ。

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ライター:
中山 慶