「山は大自然美術館だ」白山一筋40年、坂次功輝さん

飛騨エリアに暮らす方々のアウトドアライフを覗き見する本連載。今回は白山一筋40年。岐阜県白川村で暮らす坂次功輝さんにお話をうかがいました。

山との距離感、楽しみ方、そして山にかける想い。
坂次さんの山への愛がひしひしと伝わる素敵な言葉の数々に、ぜひ注目してください。

感じるために、忘れていい

中学校の頃に先生に連れて行かれたことがきっかけで、登山に開眼したという坂次さん。以来、全国の山や自然を楽しんできたという坂次さんが考える、山の楽しみ方とは何なのでしょうか。

「こっちに戻ってきてからは白山ばかり登ってる。にぎりめしを持って日帰りが基本だね。夜中の12時から日の出を目指して登るんだ。満月の日や流星群の日なんか最高だよ。登るときは基本的にはひとり、他人に気を遣うと感性が鈍っちゃうからね」

そう語る坂次さんは、10日おきを目安に天気の良い日に白山に登り続けています。同じ白山を期間と時間をズラして登ることで、表情の変化などを楽しんでいるんだそう。

「登った時の景色は写真には残してるけど、頭の中では忘れちゃってるよ。でもそれでいいんだ。感じるために忘れてる。毎回感動するんだ」

快晴のもと撮影した、白山を包む雪と紅葉(写真提供:坂次さん)

山は「大自然美術館」

その時その時の目の前の情景を大切にする坂次さん。それでも、印象に残っているものはあります。2006年10月10日、雪と紅葉が同居する白山が夕日に照らされたとき。あの光景はすごかったと言います。

「行くたびに色が違う、太陽の技っていうのはすごいよね。俺は山を『大自然美術館』だと思ってる。どの山登った、頂上に立った、ではなくて『美』を感じてほしいと思うね。心を開放して感性をみがく、山が俺を育ててくれたと思ってるよ」

印象に残っているという白山を照らす夕日(写真提供:坂次さん)

「冬もさ、星とブナの木のダイヤモンドフラワーが素晴らしいんだよ、都会のネオンなんて目じゃないんだ。他人が良いって言ってるものじゃなくてさ、そこで自分がいいと感じたものが真実だよ。行った人にしかわからないものがあるんだ」

ダイヤモンドフラワーはまさに自然が生み出した芸術だ(写真提供:坂次さん)

山を大親友に

坂次さんは50歳の頃に入院したのを機に、一日一日を大切にするようになりました。無理をしない、ゆとりを持って危なくない程度に攻めるようにしているそうです。

「白山は今年で開山1300年だろ?なんでそんな長い年月続いたんだろうって考えたらさ、流行りを追いかけずに自分のペースでゆっくり進めばいいって思えたわけ。山は着飾らないでしょ?」

そう、白山は開山1300年。
その間多くの登山客を魅了し続けているわけですが、そこにあるのは草木。あとは季節に合わせて花を咲かせたり、緑に色づいたり紅葉したり、雪に包まれたり。変わらずそこにいても、様々な感動を私たちに与えてくれています。

「山は逃げないよ、山を大親友にするんだ」

そう最後に話してくれた坂次さん。山に魅了され、白山を愛し続けるその姿勢は、移ろいがちな社会に対して多くのヒントを与えてくれているような気がします。ひとつの山を登り続け、そこで自分が感じたものを大切にする。そんなライフスタイルを実践する坂次さんは、これからもまた新しい感動を求めて白山へと足を運びます。

(写真:藤原 慶

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ライター:
羽田裕明