※こちらは2019年3月6日に公開された記事です
ログハウスを自分で建てて、ソーラーパネルで自家発電。外には五右衛門風呂。ウッドデッキにはワンコと猫ちゃんが2匹ずつ。冬は裏の森から拾ってきた薪で暖をとる。
食べているのは自家菜園でできた新鮮なお野菜。広い敷地では奥さんが小さなカフェを営み。そこは地域のおばあちゃんや子どもたちが集う場所。旦那さんは一生を旅に生きる紀行作家。小さな旅人小屋だってあります。
自然が好きなアウドドア派であれば、一度は夢見たことがある。でもなかなか実現には踏み出せない。そんな一つ一つを全て現実にしてきたご家族がいます。そして、その軌跡に触れられるお店があります。そのお店の名は「チームシェルパ」。
ご主人はアウトドア雑誌の愛読者にはお馴染みの「シェルパ斉藤」こと斉藤政喜さん。著作は30冊を越えます。お店を切り盛りしているのは奥様の京子さん。
斉藤さん一家がここ南八ヶ岳の山麓、山梨県北杜市に引っ越してきたのは23年前。それ以前は東京での小さな賃貸マンション住まい。
京子さんはまちづくりコンサルタントとして「机上で」理想のまちを追い求めていく中で、自分たちの「手で」家をつくり、地方での豊かな暮らしを「実践」したいと考えていました。
一方で、フリーランスの紀行作家として軌道にのりだし順風満帆だった政喜さん。地方へ引っ越すことで京子さんの収入を失うことや、ライターとしてできなくなる仕事もあることに不安を感じ、なかなか、地方での「自分たちの手での家づくり」へと踏み出せませんでした。
都会暮らしが続く中で、京子さんは二度流産をしてしまいます。政喜さんは空気の汚い窮屈な都会の環境に原因があるのではないかと、都会生活に疑問を感じ始めました。
「家族をもったオスは巣をつくって家族を守るでしょ。人間にも同じことが言えるんじゃないかな。」
京子さんのこの言葉に背中を押され、政喜さんは移住を決意。
移住後、この地にログハウスを自分たちの手で建て、2人の子どもを育て、地域に根ざしていく京子さんと政喜さん。子育ても一段落した2005年、仲間達が集えるカフェづくりに着手しました。
カフェは太陽光パネルがのったガレージの屋根を利用。お店の名前は「チームシェルパ」。自宅のログハウスやお店を一緒に作ってくれた仲間への感謝が込められた名前です。
チームシェルパで京子さんは大切にしたい「暮らし」「空間」「子どもたちの遊び場」を作り、政喜さんは世界中の旅でお世話になった方々へのご恩返しの場を作りました。
京子さんは「アーミッシュ」の暮らしに憧れていました。「アーミッシュ」とは、アメリカの中西部やカナダに住む、電気も車も使わない昔ながらの生活を厳格に守る人々のこと。家を作るときは親戚中の男衆が集まり、みんなの力で家を建て、女たちはみんなで機織りや縫い物などの手仕事と男たちのために料理を用意する。「アーミッシュ」は、そんな暮らしを送っています。
斉藤さん一家のご自宅はログハウス。7人の中心メンバーと一緒に建てた家。後にできる旅人小屋やカフェ、竪穴式住居も自分たちの手で作りました。
「チームシェルパ」では月2回、機織り、糸紡ぎ、染め物のワークショップを開催。地域の女性たちと手仕事を楽しんでいます。その名も「八ヶ岳スピンドルクラブ」。
建物を仲間と一緒に建て、女性で集まって手仕事をする。京子さんは自分の大切にする価値観と地域の女性たちとの交流を大切にしていたら、いつの間にか憧れの「暮らし」が現実になっていたのです。
京子さんが一級建築士としてまちづくりに携わっていた時、大好きだった空間はイタリアの古い街の中心にある「広場」。
「広場」は立派な石造りの建物が囲んでおり、住民の大切な集会が行われ、子どもからお年寄りまで人が集まり交流する空間。
京子さんの「広場」。
周りには森の木々と川と自家菜園と五右衛門風呂とカフェと旅人小屋とワイン樽ハウスとシェルパークがあり、地面は土に覆われ、真ん中には竪穴式住居があります。
京子さんの「広場」には人が集まる仕掛けもたくさん。
カフェの片隅には駄菓子コーナーがあり、近所の小さな子どもたちが集まります。ベーゴマ大会や、パチンコやフェルトを作るワークショップも開催するそう。
家にこもりがちな大人のために、「えるひなカフェ」という広場を開放する活動もしています。ここに来た大人たちは「ワイン樽ハウス」で静かに本を読んだり、竪穴式住居の中で焚火をしながらゆったりと過ごします。
京子さんが「子どもたちの遊び場」として大切にしたい要素は、「火」と「水」の魅力と大切さと怖さに触れられること。「生き物の気配」を感じられること。そして、学校と家以外の第三の安心できる場であること。
京子さんは、毎週水曜日、アウトドア学童「放課後シェルパクラブ」の活動の場として「シェルパーク」を地域の子どもたちに開放しています。
「シェルパーク」で子どもたちは焚火をしたり、遊具を使って遊びます。最近は子どもたちだけでポップコーンを作りました。夏は敷地の隣を流れる小川の上にハンモックを張って遊びます。
「チームシェルパ」の憲法もありました。このフィールドでみんなが楽しく遊ぶための約束を子どもたち自ら制定するなんて素敵ですね。
「チームシェルパ」には中学生や高校生も集います。不登校でも成績優秀でも関係ありません。親や先生には言えないことをここに集う大人たちには話せるのだそうです。
世界中を旅してきた政喜さん、行く先々で人情あふれるもてなしを受けてきました。その方たちへのご恩を少しでも返そうと、自宅のログハウスと共に小さなゲストハウス「旅人小屋」を建てました。
「旅人小屋」の料金設定も、世界中を旅してきた政喜さんならでは。歩いて旅する人はなんと無料。自転車の旅人は500円。乗り物を使う旅人は排気量が小さければ小さいほど安い設定。清貧な旅行者にほどやさしいゲストハウスです。
旅人小屋のすぐ前には五右衛門風呂。
竪穴式住居「イオ」では雨の日でも焚火が楽しめます。ここにだって泊まれるんです。
カフェの壁には日本地図。床には地球儀。「チームシェルパ」に来た旅人たちがどこから来たかわかるようシールが貼ってありました。
カフェに展示されているランタンやガスストーブは全て政喜さんの私物。売り物ではありません。天井にはテントや寝袋、マットも並んでいます。全て政喜さんと旅を共にした道具たち。
ランタンの隣には「シェルパ文庫」が。政喜さんの全著作と、友人たちの旅、山、アウトドアの本、ノンフィクションや不朽の名作が揃っています。
作家として生きる政喜さんと、等身大で地域に貢献するカフェを営む京子さん。2人の丁寧な暮らしぶりとその実現の軌跡がこのお店では見られます。そして、それは多くのアウトドア派の憧れの生活。できれば著作「シェルパ斉藤の八ヶ岳生活」「野宿の達人 家をつくる」「ライフ ウィズ ドックス」を読んでから訪ねると、その軌跡がより豊かに楽しめることでしょう。
――どんな人に来て欲しいですか?
京子さん「なるべく少人数で来て、ゆっくりと過ごしてほしいですね。ここで私たちの生活を見て、何か一つでも生活がよくなるヒントや希望を持って帰ってくれたら嬉しいです。」
もしあなたの大切なパートナーが自然を愛する人なら、ぜひ一度、一緒に訪れてみてはいかがでしょうか。
みなさんの漠然とした憧れが、少し具体的なイメージになって実現に近づくかもしれません。
(写真:羽田裕明)