身体が芯から冷えていく
歩いても歩いてもどんどん体温が下がっていくのを感じる
容赦ない横殴りの雨、氷河から吹き荒れる台風並みの強風
全身ずぶ濡れになってからもう何時間たっただろう
赤く腫れ上がった手の感覚はとっくにない
このまま進んだら死ぬかもしれない
人生で初めて死を意識した
日本にいるときにまったく興味がなかった登山に興味をもったきっかけは世界一周の旅でした。
せっかく世界一周するなら世界中の綺麗な景色をこの目で見てみたい。そんな軽い気持ちで始めた海外登山。
旅に出てから現在まで約2年。日帰りトレッキングからガイド・ポーター付きの登山ツアー、テントや食料を担いで国立公園を自力で歩きまわった1週間に渡るトレッキング。様々な難易度の登山に挑戦し、世界中の絶景を見てきました。
今回、そんな登山初心者のぼくが実際に経験した海外登山での失敗を紹介したいと思います。
初めて本格的な登山をしたのは南米のベネズエラ。ブラジル、ガイアナとの国境付近にあるロライマ山というテーブルマウンテンでした。
切り立った壁のような壮大な山。
参加したツアーは5泊6日の日程でガイド兼シェフ付き。ポーターはオプションで約40ドル程追加すれば付けられるという説明を受けていました。
「どんな山か分からないしポーターは雇った方が良いかな。」
そう考えていると、目の前にいた同ツアーグループのドイツ人女性2人がポーターは要らないと言い始めました。
女性が不要と言っている状況で、ぼくがポーターをお願いするなんてカッコ悪すぎる・・
見栄を張ったぼくはポーターを雇わないことにしてしまったのです。
荷物は自分の分と食料・燃料の計約20kg。レンタルしたバックパックのペラペラのベルトが肩に食い込んでしまい、出発前から後悔することに。
ただただ辛い前半をなんとか耐え、食料や燃料が徐々に減ってきた頃になってようやく景色を楽しむことができたのでした。
チリ南部・パタゴニアにあるパイネ国立公園は中南米の旅で一番楽しみにしていた場所。季節は秋。友人と2人でテントや食料を背負い、紅葉を満喫しながら進んでいきました。
心配していた天気もなんとか持ち堪え、予定していたルートを3泊4日で歩ききりました。そして更なる絶景と達成感に欲が出たぼくたちは、予定を変更して公園内を一周するコースに向かうことに。
天気は小雨。レンジャーから「雨、風ともに強くなるので危険だ」と注意を受けましたが、ぼくたちは先へ進んでしまいました。風は思った以上に強く、時折前に進むのも難しいほど。午前中いっぱい歩いて、中間地点の有人キャンプに着きました。
ぼくたちの目的地はこの氷河のさらに上にある無人キャンプ。レンジャーから、
「必ず2人一緒に歩くこと。寝袋を絶対濡らさないこと」
と再び注意を受けます。
登り始めてすぐに強まってきた雨。
ぼくのカッパは台風並みの突風でめくれ上がり、
貧弱な装備だったこともあいまって全身ずぶ濡れに。
氷河から吹き上げる極寒の風を受け、体温がどんどん下がっていくのを感じました。
懸命に歩いても寒いと感じるのはこの時が始めての経験。止まることがない身体の震え。2時間ほど登った頃には、このまま進んだら死ぬかもしれないとさえ考えるようになっていました。
そして何より心配だったのは、感覚を失い赤く腫れ上がった手の状態。
大雨、極寒の強風、無人キャンプ、ずぶ濡れの服、防寒着や寝袋すらも濡れてしまっているかもしれない・・・・
雨で増水した川が現れたところでようやく引き返すことを決めました。
パンツの中に感覚が一切無くなった手を交互に突っ込んで温め、なんとか有人キャンプまで下山できたのは出発してから5時間後。ぼくたちは憔悴しきっていました。
赤くパンパンに腫れ上がった手をすぐにお湯につけて温めると、何も感じなかった手に次第に伝わるジンジンする感覚。凍傷の心配が無さそうであることを確認し、シャワーを浴びて服を着替えたところでやっと生きた心地がしました。
この夜はこれまでと比べ物にならない程ひどく冷え込み、テントの中には夜通し冷風が吹き込んできました。
もし次のキャンプまで進んでいたら・・・
想像してゾッとしたのを今でもはっきり覚えています。
「天空に浮かぶ島」と地元で呼ばれる南部アフリカ・マラウィ最高峰のムランジェ山。
現地在住の知人と一緒に、通常2泊3日かかるところを1泊2日の強行日程で頂上を目指しました。
1日目に山小屋まで登ってこの日は早めに就寝。
翌朝早朝に目を覚ますと外は土砂降りの雨。この日は5時に出発してピークまで登って一気に麓まで下る予定でしたが、土砂降りでは当然出発することができず、ようやく雨が止んだのは既に9時頃。
このままピークは諦めて下ろうかと話し合っていたところ、空が明るくなってきたので急遽予定を変更し、ガイドに相談して最低限の夕食だけ確保してピークアタックに向かいました。
クライミングのように岩山をよじ登っていくと、そこには絶景が。
ところが頂上に近づくにつれて徐々に天候が悪化。また雨が降ってきました。
「過去数回の登山で雨が降ったことがなかったから」
という理由でレインジャケットを持っていなかった知人はここでびっしょり濡れてしまうことに。
なんとかピークへ到着したものの、頂上は突風、極寒、おまけに視界不良。
寒さに耐え切れず5分間のみの滞在ですぐに山小屋まで下りました。山小屋で夜を明かし、ぼくたちは翌日空腹がピークに達した状態で麓に到着したのでした。
・ポーターの要否は慎重に検討する
・レンジャーのアドバイスには従う
・スケジュールは余裕をもって計画する
・雨対策、行動食などの準備を怠らない
上記の失敗は海外登山だから起こったものではなく、いずれも日本の登山でも起こり得るものでした。裏を返せば、日本の登山での注意事項にさえ気をつけていれば、どれも失敗にはならなかったということ。基本的な注意事項は海外登山だろうと変わりません。
ぼくのような登山の初心者でも簡単に挑戦できる海外の山は世界中にたくさんあります。日本での登山経験者であればもっと気軽に登れることでしょう。
そしてそれらの多くの山で、日本とはスケールの違う壮大な景色を楽しむことができるのです。
写真ではなく実際に目の当たりにするこれらの景色は格別です。
次の長期休暇に海外登山に出かけてみませんか?