様々なアウトドアスタイルが生まれ、それと同時に、独自の世界観を持ち確かなギアを生み出すことで注目を浴びているガレージブランド。中でも、近年のアウトドアブーム以前から木材を用いたギア作りをしているのが、ペレグリン・デザイン。二人三脚でモノづくりを行う見城さんと阿久津さんに、その想いやプロダクトへのこだわりをうかがいました。
——本日はよろしくお願いします。まずお聞きしたいのが、見城さんは今もプロカメラマンだそうですね。カメラマンである見城さんが何故このようなガレージブランドを立ち上げられたのでしょうか?
見城さん(以下見城):今でこそ、沢山のメディアがアウトドアに関する特集を組んで取り上げるようになりましたが、そうなる前からアウトドアが好きで、キャンプや登山などをしてました。
その頃、アメリカのByer(バイヤー)というアウトドア家具のブランドが、主に広葉樹を使ったアメリカ産らしいどこか大らかで優しい風合いの家具を作っていたんです。知人が使っていて、いつか自分も欲しいなと思っていたんですが、バイヤー社がアメリカでの家具の生産をやめてしまって、アメリカ産の気に入っていたものが手に入らなくなってしまっいました。
それと同じ時期に、同じくアメリカ製のカーミットチェアというバイク乗りのための組み立て式の椅子に出会ってしまいまして、これがまた風合いも良くてほんとうに良く出来ていたんですよね。本当に感激して、色んな人に勧めてました(笑) で、日本製で似たようなものがあるかなって思い、調べてみたんですが、日本のものでそういう外遊び用の木の家具みたいなものが全然見つからなかったんです。日本は国土のほとんどが森林なのに、どうして作っているところがないんだろう?と思っていました。
それで、『無いのなら自分で作ってみよう』という考えに至ったのが作り始めたきっかけでした。当時登山などをしていて、荒れ果てた里山とか森林を見て気になっていたので、植林された針葉樹も使って作れないものかな、という想いもありました。
——立ち上げは見城さんお一人で行ったんですか?
見城:最初は僕1人の趣味みたいなものでした。何の知識もコネクションもないので、ホームセンターで購入した木材などを使ってベランダで作っていました。それで「こんなことしたいんだよね」と周りに話しているうちに、友人から家具製作の経験もある阿久津くんを紹介してもらったんです。
阿久津さん(以下阿久津):無垢の木材を使った家具は好きだったし、日本の森林の問題ももともと頭にありました。だから想いにはすぐに共感したのですが、何よりも、精度はさておき既にプロダクトの形としてはできあがっていたので、見城くんの“勢い”を感じました(笑)
——かなり「ビジョン重視」の立ち上げだったんですね。ブランドの遍歴ってどういったものだったのでしょうか?
見城:2008年頃からはじまったのですが、始めはサークルみたいなノリで「世の中には無いけど、こういうのあったら面白いよね、というところから始まりました。テレビで圧縮杉を知って色々調べて、取引を始めるにあたって飛騨高山の工場まで皆で見学に行ってみたり、 阿久津くんの知人の茅ヶ崎の大工さんの工房に、片道2時間くらいかけて通って試作品を作ってましたね。2009年に、まだ試作品しかなかったのですが、目黒にあるホテルCLASKAさんのイベントで展示してみない?と友人に誘われまして。そこが外部への露出デビューだったと思います。
阿久津:2010年にはこれまた知人に誘われて、河口湖のPICAさんでのイベントでテーブルを展示させて頂きました。そこで初めて実際に購入してくれた方とかもいて。 そうやって外部に出来上がったものを露出していくのと同時進行で、量産が可能な工場を探しました。
見城:阿久津くんは、本職が建築とか店舗の内装のデザイン・設計・施工なんですが、以前は家具作りもやってたので、家具の工場周りにも色々とコネクションがあって本当に助かりました。
——ブランド名である“ペレグリン・ファニチャー”の由来って何だったのでしょうか?
見城:“ペレグリン (Peregrine)”は、鳥の“はやぶさ”という意味があるんですが、他にも、放浪する・さま よう・ぶらつく、といった意味もあって。中学生の頃になんとなく辞書を眺めるのが好きで、その時にこの言葉を知ったんです。で、その時いつか何かに使えたら良いなぁと思っていたのを、ふと思い出しまして。キャンプって、言ってみればノマドスタイルに近いと思うんです。毎週末に、違う方角の違う気候の、違う眺めの場所へ行って寝泊まりが出来るっていう。
阿久津:前に行ったことのあるキャンプ場にまた行ったとしても、同じ場内でもどこが良いかな?って、 また違う場所を探したり。移動しながら場所にとらわれない自由なスタイルなんですよね、キャンプって。
見城:そのための家具や道具を作りたい。それで覚えていた“ペレグリン”っていう言葉がぴったりだなと思い名付けました。キャンピングカーもすごく流行って来ていて、そういう移動しながら生活する自由なスタイルって、日本でも結構認知されてきていると思うし。 因みに、本当はペレグリン・ファニチャーではなくて、ペレグリン・デザインなんですけどね(笑) すっかりファニチャーが市民権を得てしまいましたが。。
——お2人の役割分担ってどうなっているのですか?見城さんが企画を考えて、阿久津さんがデザインをするのでしょうか?
見城:僕1人で考えていても煮詰まって行き詰まるので、その都度阿久津くんに相談するようにしています。違った角度から新しいアイデアを出してくれることもあるし、その道のプロだったので、先ず実現可能かのジャッジメントと実現方法を考えてくれます。素人の考える絵空事を具現化してくれると言うか。
でも、素人目線を忘れてしまうと新しい物は生まれない、と思っているので、それは忘れないように心掛けてはいます。
阿久津:ただの真似ではなく、ありそうでなかったものとか、ちょっとした新しさを付け加えられたらな、 とはいつも考えています。木という材料と、折り畳みできるという機能って、世の中に出尽くされているのでそこにどんな新しさを加えられるだろうか?と。
見城:木と革って、太古からずっと使われてきているものだから、広げられる幅、余白というのが本当に少ないよね。僕達みたいな小さなメーカーだと尚更。だから、0から1を生み出すことは到底できないので、できるだけ色々なものを見て、アイデアやギミックをストックしておいて、いつでもつなぎ合わせられるように、とは思っています。
——その上で、ペレグリンファニチャーの“らしさ”というとどういったものになるのでしょうか?
阿久津:国産、日本発というのはひとつあります。冒頭にも話があったけど、日本の森林資源を活かせたら良いな。木を使って良い循環を生み出したいという気持ちがあるので。植えられた木を使い、地域にお金が回って、また木を植えて、、、と、そういう循環です。
見城:日本の里山に多く植林されている杉という木は、 とても柔らかいので本来は家具には向いていないんです。だから圧縮杉という特別な加工が施された杉を使っています。この圧縮杉は、まだ使っているところも少ないですが、僕たちは積極的にプロダクトに採用しています。たとえばこの鍋敷き( Star Podstand)なんかがそうです。
見城:圧縮杉を家具に使おうとするとすごく手間がかかるんです。先ず、圧縮する工程に時間とお金が掛かるし、針葉樹だから急に割れたりしますし、バリやささくれも出やすいから、切れ味の良い刃を使わないといけない。だから原価はすごくかかっていますが、それでもこだわりとして使っています。木目も独特で綺麗ですし、やっぱり日本杉って日本にしか無い木なので。オリジナルですしね。
——近年のアウトドアブームで、様々なスタイルが生まれていますが、時代に合わせてブランドとして何か提案していこうとしていることはあるのですか?
見城:キャンプとかアウトドアって、もう流行り廃りではなくて、好きな人は一生やるんだろうなと思っています。それだけ面白くて価値のある遊びだと思うし。文化として定着したというか。だからあまり流行りを追う気はないです。木や革を使っている時点で、流行り廃りではないのかな、と。いくら合理的な素材が出てきても木の家ってなくならないじゃないですか。それに近いというか。
デザインは、機能的でミニマルなデザインを考えています。木はそれだけで優しい質感だから、 あまりデザインで細工をしなくても杢目から味わいとか表情が立ち上がって来るような気がするんです。 それとやっぱり木でできたものって自然の中に無理なく溶け込んで見えるし、手に取った時もアルミとかの金属と違ってヒヤリとしなくて温かいのも良いですよね。
阿久津:アルミ製の安いギアから入って、そのあとで色々なギアを知って、だけどだんだんと飽きて物足りなくなって来て、もっと他とはちょっと違う、長く使えるものを求め始めて手にしたくなる。そんな立ち位置なのかな?だけど正直、今では木でできた似たようなもので安いものもいっぱいありますからね〜。。だから自分で探して見つけてくれた人たちが買ってくれたら、こんなに嬉しいことはないですよね。
——ものすごく手間をかけて作られていると思いますが、どうしてそこまでするのでしょう?
見城:やっぱり僕らはマスブランドではなくてガレージブランドと言われるような、小さなブランドなので、他にはないもので勝負するしか無いですもんね。
阿久津:もともとデザイナーなので、周りに誇れるものを作りたいというのはあります。
見城:モノ作り自体が好きなんでしょうね。バイトも含めて色んな仕事をしてきましたが、結局ずっと何かしら作っている気がします。
全く新しいものなんてないと思うんです。いつの時代も、先人の知恵とか経験の積み重ねの上に新しいものが生まれて来るのかなって。アップルのiPhoneも中身の技術は既にあったもので、それを集めてパッケージにしたものがとても新しかった。ペレグリンファニチャーとして最初のプロダクトであるウイングテーブルも、形としては昔からありましたが、それを木で作ったことが新しかったのかな?もちろんその他の細部にもこだわってますが。そこまで気付く人がいるのか?と言われると分かりませんが、でも「語ってくれ」と言われたら平気で1時間以上語れますよ(笑)。それくらい試行錯誤して作りました。
阿久津:小さなブランドなので、できることは限られてくるんですが 、材料や部品、細工など新しい技術を色々と融合してものづくりをしていきたいと考えています。家具だからそれなりに強度があって、それでも手の届く範囲の金額に抑えないといけない。かつその条件で工場でも作れないといけない。そうなってくると本当に細い糸をたぐり寄せていくことになるんです。そうしていくうちに偶然の産物も生まれたりします。端材で生まれた、このコースターとか、iPhone用のスピーカーとか。
見城:本当にそう。色々考えて試行錯誤していると、たまに点と点が繋がって線になって、更に線と線が繋がって面になって行く時がある。それは部品や素材といったものもそうですし、僕が阿久津くんと繋がったように、出会うひとの話でもあります。そうやって、いろんな人達と繋がることで最近は色んなブランドとのコラボレーションのアイテムも作れるようになってきました。
——将来の具体的な目標というのはあるのですか?
阿久津:まだ何か成し遂げた感覚はなくて、乗りかかった船だと思っていますが、MOMAとかに置かれるようになったら嬉しいかなぁ(笑)
見城:高級なインテリアショップなんかにペレグリン・デザインのものが置かれるようになったら面白いですね。そしてインテリアデザイン雑誌に阿久津くんの顔が出れば面白いなぁ。 でも基本的に僕らは裏方だと思っているので、プロダクトが目立ってほしいと思っているし、 買ってくれた人の楽しい思い出の中に、ペレグリンのプロダクトがあれば嬉しいです。具体的な目標というものは置いてはいませんが、これからもノマドスタイルとしてのものづくりをしていって、自分たちが楽しんで、面白いと思えるものを作り続けて行けたら、と思っています。
熱い好奇心と想いからスタートしたペレグリン・ファニチャー。自分たちが欲しいギアを作ってきた彼らのギアが、今では海外からも問い合わせが寄せられる等その活躍の場を広げています。文字通り、彼らのギアが放浪の旅に出て、お客様とともにノマドスタイルを生み出していく。そんな共感の輪がどんどん広がり、また新しいギアが生まれてくることにこれからも期待大です!
*ペレグリン・ファニチャー
http://www.peregrine-f.com
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