3日目の深仙小屋。
雨がやまない夜、シュラフのなかで寝付けずにいると…
小屋を叩きつける雨の粒の音のほかに、
明らかにリズムの違う…、いや、
あまりにリズミカルな音が混じっているのを感じました。
何か楽しそうに太鼓を叩く音。
この世でないものの気配。でも、不思議と怖くはありませんでした。
その音に耳を傾けているうちに、冷えた足先がふわっと温まり、
大峯を漂う闇に吸い込まれるように眠りました。
あれは何だったんだろう…
翌朝は快晴!
真っ赤な朝焼け。
大雨の翌日の空は、空のずっと向こうまで透けて見えそうなほど澄んでいます。
朝日に照らされる深仙小屋。こぶりでかわいい。
昨晩までの嵐をよくもちこたえてくれました。ありがとう。
最初のピークハントは大日岳(1,568m)。頂上付近に見えている岩場は行場(修行をするところ)です。
行場は本来、死を覚悟して挑む神聖な場所なので、単なる登山客である私たちは、巻き道から登ります。
天気もよく、ゴキゲンな大日如来座像。
肩越しに見えているのは釈迦岳のピークです。
プシュッ
ガクン!
ブワンブワンブワン!!
シュワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワア!!
突然、
何か機体の発射音のような、
はたまたコーラが勢いよく溢れ出すような音が、
北西側の谷底から響いてきました。
「え?」「今のナニ?」「なんか発射したよね」「こんなところに飛行場があるの?」
地図を確認しても、それらしき場所は見当たりません。
飛行機やヘリコプターらしきものが飛びたつ姿もありません。
あれはやっぱり…
太古辻より先は、南奥駈道。標高は下がっていくものの、起伏は激しくなる一方。
まるで波打つ龍の背を歩いているような、アップダウンの繰り返し!(泣)
すっかりくたびれて、当初の予定より手前の「持経ノ宿」で休むことにしました。
小屋には、持経ノ宿、平治ノ宿、行仙宿山小屋の3棟の山小屋を、維持および管理されている「新宮山彦ぐるーぷ」のメンバーの方がすでにいて、運のいい私たちは精がつくというウツボのお鍋をごちそうになりました。
朝起きると、メンバーの方が早くから火をおこし、私たちのずぶぬれの登山靴を温めていてくれました。
汚れた靴を小屋のなかに上げるのは申し訳ないと遠慮していたので、心遣いがありがたくて、なぜか言葉をつまらせてしまいました。
山小屋は営業小屋から非難小屋まで形態もさまざまですが、非難小屋の多くは、その山域に縁のあるボランティアの方々が管理されているようです。
使用するときは、来たときよりもきれいにして、しっかり維持管理費用をお支払いして、お礼の気持ちを伝えたいですよね。
この日は、のんびり行程。
あっという間に行仙小屋へ着いたので、小屋でゆっくり過ごします。
薪がたくさん積んであって、そのいくつかを大事に使わせてもらいました。
山域のイラストマップ、水の備蓄、毛布に挟まった湿気取り。
そこかしこに管理人の方の心づかいが感じられて、不思議と思いやりのなかに包まれているような心地がしました。
山がご神体だとか、木や葉に宿る神様とか、そういうものと誰かの愛情によって息づく小屋の雰囲気というのは、実は似たようなものなのかもしれない、なんて思いました。
最終日は、これまででもっとも長い行程を一気に歩きます。
笠捨山をすぎ、槍ヶ岳や地蔵岳の付近ではえぐ〜い鎖場が盛りだくさん…。
いままで、ここで何人もの登山客をはげましてきたんでしょうね。
「拝み返し」をすぎ、一気に下っていきます。
どんどん標高が下がり、規則正しく並ぶ杉の間をサクサク歩きます。
とにかく急がなければ。
何度か林道へ合流し、玉置山展望台につくころには日が暮れかけていました。
麓の十津川村はすでに夜がはじまっています。
玉置神社についたのは、ジャスト17時。
私たちが拝殿で手を合わせた直後、神主さんによって戸が締められました。
ぎりぎりのお参りでした。
駐車場にテントを張り、崩れるように就寝。
翌朝、もう一度お参りをしました。
「熊野三山の奥之院」とも呼ばれる、玉置神社。
麓から車で40分近くもかかるほどの山中にあります。
せっかく歩いていくなら、ゆっくり参拝したい。
そんな私のわがままで、こちらをゴールにさせてもらいました。
境内は、軽やかで柔らかな朝の光で満たされていました。
当初の予定では吉野山から山上ヶ岳まで往復し、再び阿弥陀森から入る行程でした。そこから、変更に変更を余儀なくされたロングトレイルでした。
ひとたび山に入れば、そこは私たちの領域ではありません。それはふしぎな力がうごめく、温かで大きな空間でした。“なんだか思い通りに進めない”そんなときは、いっそ身を委ねて、不思議な巡り合わせを楽しむのも一興。山を旅するように歩く縦走が、私は大好きです。
※この縦走は12月前半に行ったものです。2015年度は暖冬のため積雪がほとんどありませんでしたが、例年は数メートルの雪が積もる山域です。冬期に縦走を計画される場合は、必ず事前に役場などにお問い合わせください。