場所

黒部源流の秘境に一番近い道、幻の伊藤新道 [前編] 歴史とロマンのアドベンチャールートが復活

ルートマップとリンク

出典 :kumonodaira.net

三俣山荘〜伊藤新道〜湯俣 ルート紹介:kumonodaira.net

高瀬ダムへのアクセス:長野県大町市公式観光サイト 信濃大町なび

秋めく高瀬渓谷から湯俣へ

登山の起点となる麓の信濃大町から、マイカーで七倉へ。無料駐車場に車を停め、タクシーに乗り換えて高瀬ダムへ向かいます。

※七倉山荘~高瀬ダムは東京電力の管理用道路のため、許可を受けたタクシーに乗り換えが必要 (タクシー15分、徒歩1時間)

高瀬ダムでタクシーを降車し、湯俣までは川沿いの林道。秋が深まり、伊藤新道の水量が落ち着いて通行に最適な時期には、高瀬渓谷の紅葉も楽しめます。

林道の終点、車止めがある広場からは緑の中へ。

ここはその昔東京電力のトロッコ列車が走っていた道とのことで、アップダウンが少なく歩きやすい道が続きます。

右奥に槍ヶ岳が姿を表すと、湯俣はもうすぐそこ。少し行けば湯俣の山小屋、晴嵐荘が見えてきます。

晴嵐荘の手前には以前は吊り橋が掛かっていたそうですが、現在は流されてしまったため小屋に入るには渡渉が必須。(2021年秋現在)

この日の水量は足首ほどまでで、流れも緩やか。濡れてもいい靴に履き替えて、川を渡ります。

今回お世話になる、晴嵐荘に到着。荷物をデポしてひと息ついたら、すぐに出発です。

右岸には休業中の湯俣山荘がありますが、こちらは伊藤新道の開通に合わせて再開業する予定とのこと。後ほど立ち寄らせていただくので、詳しくは後述しますね。

伊藤新道のはじまり、第一吊り橋跡

早速橋の工事に取り掛かるため、職人さんたちと共に伊藤新道を歩いていきます。

山の神の鳥居が見える分岐点は、右手に行くと伊藤新道の湯俣川。左手は槍ヶ岳のクラシックルート、北鎌尾根へと続く水俣川。

吊り橋を渡った先には山の神を祀る鳥居があり、ここで登山の安全と工事の無事を祈願します。

山の神からの下降は、フィックスロープが頼りの岩場。その先もスラブ状の岩壁や急斜面の笹藪など足元が不安定な箇所が出てくるため、慎重に足を進めます。

水面から湯気が湧き上がり、辺りには硫黄の香りが立ち込めています。川の中にポコポコと湧いているのは、天然温泉!

熱い所では90度近くの高温とのことなので、火傷にはご注意。

道中、森の中にデポしてあった橋の建築資材を手分けして運びます。

関係者の方々が2日間掛けて、なんと総重量350kg (!) を歩荷されたとのこと。

微力ながらお手伝いをさせていただきました。

たった1枚の床板でも、岩場でバランスを取るのが難しい。歩荷には相当な経験と体力が要るようです。

「歩荷は慣れとコツですね」と話す、水晶小屋スタッフの野澤さん。相当な量を担いでいるらしく、置いた荷物がドシンと地響きを立てた時は思わずギョッとしてしまいました・・・。

今回新しい吊り橋を架ける地点、第一吊り橋跡が見えてきました。材料も揃い、いよいよ工事が始まります。

ゼロからの橋作りスタート

橋作りを担う河東工業の職人さんは、高所作業のスペシャリストたち。

善光寺の屋根など文化財の修復も手掛けるなど、長野県内で一番の腕前を持っているのこと。

社長の若林さんは「仕事は、ご縁。自分が生まれた65年前に架けられた橋を、同い年の自分が直すことに縁を感じる」と、今回5年ぶりに自ら現場で作業に当たります。

工事が始まりました。川を挟んだ両端の岩盤に穴を開け、支点を作り、ワイヤーが張られます。

対岸から声を掛け合い、見事なチームワークで順調に進む工事。到着時には何も無かった場所に、少しづつ橋のかたちが作られていきます。

橋の基盤となる4本のワイヤーが張られたところで、初日の工事が終了しました。

「夢にまで見た吊り橋が、こんなにあっという間に架かるなんて」と興奮ぎみに話す圭さん。

なんと自ら強度チェック。下はゴウゴウと音を立てる激流ですが、そんなことはお構いなしの綱渡り(!)を楽しんでいるようです。

初日の工事が順調に進んだことと、最終日の悪天候の予報を受け、合計3日間の予定だった工事予定が短縮されました。驚いたことに、明日には橋が完成して渡れるようになるとのこと。

夕方、晴嵐荘に戻って来ました。

腹が減っては仕事は出来ぬ、というわけで美味しいご飯で英気を養い、明日の長い1日に備えます。

《後編に続く》

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ライター:
Saki Aoyama