前編のTAKIBISMとしての初の商品である火吹き棒「ブレス・トゥ・ファイヤー」に続いて、彼らの焚き火哲学から生まれた焚き火台『直火台』へと話は広がる。
一目で他の焚き火台とは一線を画すということが認識できるこの『直火台』。
『直火台』を通じて世の中にどんな新しい提案を試みているのか。
TAKIBISMの寒川さん・槙塚さんに話を聞いてみると、返ってきたのは新しさとはある種真逆の、”焚き火の原点回帰”だった。
ーービジュアルのインパクトが目を引きますが、焚き火が世間的にも注力を集めている中、どんな想いでこの焚き火台を開発されたのでしょうか?
寒)焚き火台は焚き火における本丸です、火吹き棒とはわけが違います。だから焚き火台の開発は僕のなかでは封印していたようなものなんです。ものによっては批判が出てくる可能性もあるし、ここに手をかけるというのは相当な覚悟が必要でした。
寒)焚き火台として個人的にリスペクトしているのはスノーピークとモノラルの焚き火台です。スノーピークは購入して以来15年以上使いつづけて感じる『堅牢性』と『組立不要』なところ、モノラルのワイヤーフレームは初めて海外(北極圏)での焚き火を実現できた『携帯性』と『美しさ』を備えた焚き火台です。スノーピークは焚き火台という定義を作ったようなオリジナリティーがあり、モノラルはザックに入れてどこにでも持ち運べる焚き火の世界を広げたエポックメイキングな存在感があります。
ただ両者の不満点として『足元が温かくない』 もっと足元が温かく、ぼくらの焚き火の原点に極力近づけるような焚き火台が作れないものか、と強く考えるようになりました。
ーー確かに、焚き火をしていても足の底が寒くて、足を火のほうに持ち上げることもしばしばあるように思いますね。
寒)それを解決する方法は、焚き火台を「低くする」しかないんです。
直火に対して厳しくなって久しいですが、ぼくらが20代の頃は焚き火台なんて世の中にない時代だから焚き火といえば直火だったんですよね。今となっては”焚き火をするのに焚き火台を使わないのは非常識”というのが世の中の認識になっています。
だけど、僕らは直火からはじめているから、焚き火台に対して違和感が当初からあったんです。もし今、自分が直火と焚き火台を自由に選べるんだったら直火を選びます。地面から熱がくる温かさ、そして自在性。人が増えたときや料理をしようとなったときに拡張できる。これは焚き火台では叶わないんです。
ーー直火OKのキャンプ場で焚き火をするといつも以上に焚き火を楽しく感じるというか、身も心も火の温かさが染み込んでくる感覚があります。
寒)焚き火台には”焚き火台の焚き火”、直火には”直火の焚き火”、平行線で交わることはありません。焚き火台にはそれ自体の文化ができてきていて、あれはもはや家電に近いと思うんです。より誰でも簡単に燃やせたり、ペタンコになるくらいの携帯性を追求したり。
でも、ぼくにとってはそんなことは必要ないんですよね。
焚き火なのになぜ温かくないのか、という本来的なところに疑問を抱かないのはどうしてだろう。最近の動きを見ていると”道具のための焚き火”、みたいな逆説的な傾向を感じるんです。
そんな考えがあって槙塚さんに作ってもらったのが、背の低いハット型の焚き火台です。燃やす部分は直径40センチなんですが、これは市販の薪が入るくらいのサイズでちょうどいいだろうと。
ーーすごく無骨で存在感のある焚き火台ですね。
槙)最初に寒川さんから送られてきたスケッチ通りに作ってみたんですが、板の部分が歪んでしまう等、溶接上問題が色々あるんですよね。それで、私なりに改良版を合わせて作って寒川さんに見せたんですよ。
寒)見せてもらって、これはいいなぁと。ワイヤー部分もデザイン性に優れていますし。
槙)原案では取手がないから熱くて持てないし歪みやすいため、その通りにするメリットがありませんでした。それに対してこれは外周部分は熱を持たないんです、それまでに放熱してくれるし、隙間があるから軽量化にも繋がっています。
寒)一般的な焚き火台って、五徳や拡張機能もオプションで次々と追って出てきますよね。でもそういうオプションって本来はオプションではなく必須なんです。だったら最初からその機能が合った方がいい。この焚き火台はそれを兼ね備えているんです。
そして何より温かい。
これは実際に体験してほしいと思います。
一般的な焚き火台は「地面に近づかない」という命題が必ずあるから、低くするっていう発想自体がなかったのではないかと思いますね。そして、この焚き火台は低いがゆえに焚き火を見る角度も他とは全然違います。他の焚き火台は焚き火の上の部分しか見えないけれど、これは焚き火の全容がすべて見えるんです。
ーー般的な焚き火台は、料理での使い勝手も考えられていることも多いと思いますが、この焚き火台はどうですか。
寒)熱を溜め込まず放射するので、そのままではあまり調理には向かないとは思います。でもそのことをマイナスポイントだと思ってはいません。あとで詳しく説明しますが、石などで囲ってしまえばよいのです。
この焚き火台には必須とも言える空気穴もないんですよ。穴があるということは灰や細かな炭が地面に落ちるし、また穴が詰まったりとメンテナンスが大変ですからね。その代わり、カーブの緩やかさと、手で叩いて作ることで生まれる適度なボコボコ感が、空気の道を作ってくれるんです。穴がなくてもこれで十分でした。
ーーそれも狙って生まれた結果だったんでしょうか?
偶然の産物でもありますね。直火の時、ぼくは穴を30〜40センチくらい掘ってそのうえで焚き火をするんです。そうすることで熾火が下にできるし、空気の対流が生まれるんですが、それに近いことがこの焚き火台では生まれているのではないかと思ったんです。そういうことを考えていくと、これは直火に肉薄する焚き火台だなと。はじめは”低く低く”としか考えてなかったけど、次第に「直火」というものへの近さを感じたんです。
ーー低さに加えて、この外周のデザインが特徴的ですよね。掴む以外に何か有効活用できるのでしょうか?
寒)外周にはぼくは周りで拾ってきた石を置いているんですけど、そのサマはまさに直火なんですよ。
オプションは用意しないけど、アドリブでその場に落ちてる石や薪など自然物で囲ってしまって焚火台が見えないよう、まるで直火のようにカモフラージュする楽しみがあります。自然界とのセッションですね。
しかも、置いた石がどんどん蓄熱して、発熱するんです。昔の人が焚き火の周りに石を積んでいるのはそういう意味もあったんだと気づかされました。この石が絶妙で、例えばケトルとかを上に置いても沸騰はしなけど冷めない。石もどこの石かによって、どんな形状かでも熱の帯び方が違うんですよね。そういう楽しみ方ができてくると、かなり自然に近い形で焚き火が楽しめるのではないかと。
ーー作り手としてはどうですか?焚き火台ってかなり酷使するものだと思うのですが、どのあたりにこだわりを持って作られたのでしょうか?
槙)フレーム部分の溶接部分はフル溶接という方法で接合しており、強度的にはかなりの耐久性があります。火床は一枚板を手打ち鍛造しており熱による変形に強い歪な湾曲構造を形成しています。収納や変形のギミックも考えたんですが、そうやって構造を複雑化すると使っていくうちに必ず不具合が生まれるのでそれはやめました。
わたしは合理性を突き詰めてこの形にしていっているんですけど、ものづくりは作りながらデザインしないといけないなと思います。はじめから平面図で完璧なものができるかっていったらそんなことはないんです。
寒)このサイズだと8人で囲んでも大丈夫。円形っていうのはそこが優れているんですよね。当初は小さいかなと思っていたけれど、ぜんぜんそんなことはなかったです。
ーー改めて、この焚き火台を通じて、どのように焚き火を楽しんでほしいですか?
寒)この商品は’JIKABI(直火)’と呼んでいます。直火台なんてものは存在しないけれど、その矛盾点をあえて突いています。アウトドアの原点回帰というか、道具がどんどん複雑化していく流れのなかで、楽しかった頃の焚き火に立ち戻る。説明書がないと使えない道具なんて嫌なんです。
寒)この直火台は2サイズ展開です、ソロ用にも作ってもらいました。手前にワイヤーが開けている部分がコックピットみたいなもので、「ここに座ってね」というメッセージです。焚き火というのは人が加わって初めて成り立つもの。火と人は必ずセットですよね。その人の存在を感じさせるのがこのコックピットなんです。
ーー火と人の関係がデザインに落とし込まれているというのがおもしろいですね。
寒)焚き火というのは人で囲った方が温かいですよね。それは人が壁になって反射熱が生まれるからで、これも人がいて焚き火が成り立つということの一つでもあるんです。
「火を囲む」とはまさにそういうこと。人も焚き火に対して重要な要素。原始の頃に人で囲んだ方がより温かいって気づいたんじゃないですかね。ソロ用モデルは人がいて初めて完成する、もう一方のモデルは人が囲んで完成する、そんな焚き火の原点を具現化しています。
槙)これは寒川さんなりの哲学ですよね。火吹き棒も含め、そんな哲学を反映したこの一連のプロダクトにブランド名をつけたんです。それがTAKIBISM。TAKIBI+ISM。哲学がここには宿っているんです。
寒)この焚き火台は、その人の焚き火スキルが向上するはずです。人の手を加えないとうまくいきません。30cmの直径は市販の薪のサイズよりも小さいですから、常に世話をしてあげないと火がうまく立たないんです。
槙)決して入門者向けではないですよね。焚き火台が勝手に燃やしてくれるわけではないから、最近の家電化した焚き火台に飽きてきた、そんな人たちにはぴったりかなと思います。焚き火そのものを純粋に楽しむ道具。放っておくと本当に火が消えてしまうから、火吹き棒を使って、火を楽しむ。そんな焚き火台です。
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2人の哲学がギュッと詰まった「直火台」。
今では業界内外から注目される焚き火というものにひとつの提言をするこの意欲作が、焚き火をより楽しく、クリエイティブなものにしてくれるはずだ。
0212TAKIBISM_jpUHD from 株式会社アンプラージュインターナショナル on Vimeo.