便利で格好良いギアが欲しいけれど、どうやって探せば良いのかわからない。目新しいのも気になるけれど、みんなが持っていないものも手に入れたい。アウトドアマン達はきっとユニークでこだわりの逸品を持っているに違いない。
今回、お気に入りの道具を教えてもらうのは、アウトドアクラフトマン尾崎光輝さん。ガレージブランドを立ち上げ、雑誌の連載などでも活躍。みんなにジャッキーと慕われる人気者です。彼を知る人ならばお馴染みのマシンガントークでギア愛をたっぷり語ってもらいました。
「サコッシュだと体の前でぶらぶら揺れるでしょ。だから、腰の部分で安定するようにベルトを付けて、それからポケットには貴重品が落ちないようにポーチを入れられるようにして。あと、内側のポケットにはこうやって手を入れると落ち着くじゃん?」
次々と出てくる言葉は、彼自身がアウトドアのフィールドで感じたこと。自分自身が外に出て、ひらめいたことを形にしているから、説得力たっぷり。
「10年前はさ、こんな風にして山に囲まれた高尾でギアを作って生活しているなんて思いもしなかったよね」
尾崎さんがミシンを踏み始めたのは、まだ会社員だった頃。UL(ウルトラライト)スタイルが今ほど世間に知られていない頃からいち早く興味を抱き、海外のカルチャーを自分なりに真似てみたり、既製品の道具をアレンジしたりするところから始まりました。
裁縫などほとんどしたことがなかったけれど、やればやるほどハマっていき、作って はフィールドで試し、試しては作るというトライ&エラーの繰り返し。ついには会社 をやめてウルトラライト・シェルター・メーカー’ローカスギアの企画、製作、そしてキューベンファイバーシェルターのボンディング(接着加工)技術等を確立しました。
仕事でものづくりをするようになり、ますますアイディアはあふれていきます。とにかく次から次へと出てくるオリジナルギアの数々。愛犬のリードや折りたためる水飲み用のケースまで手作り。
ローカスギアから離れた後、再始動したJindaiji Mountain Worksのアイテムもまだまだ作りたいものがあるそうで、とにかく尾崎さんの発想力とひらめきは底なしです。
そんな尾崎さんが紹介してくれたIN⇔OUTな道具たちはクラフトマンシップに溢れたモノでした。
“アウトドアクラフトマン”が作るのはギアだけではありません。クラフトマンシップは、料理でも発揮されるという尾崎さん。山や沢では、簡易的な山食ではなく、本格的な料理も楽しむそうで、それは自宅でも同じ。
「まずは、ハーブ自給率100%を目指しているんだよね」という自宅の庭には、バジルや大葉が活き活きと葉を広げています。らっきょうを漬けたり、自家製味噌を作ったりもするそう。
扱いの難しい立派な中華鍋を慣れた手つきでゆする手には何やらグローブらしきもの。ただの軍手のようにも見えるグローブはFirlarという耐熱手袋。耐熱、耐刃に優れた防火繊維と両面に施されたシリカゲル素材で、最高800℃もの耐熱効果があるというもの。
そんなもの、どこで買えるんですか?と驚いて聞くと、「これ、ネットで調べれば、たくさん出てくるよ」という意外な答えにさらにびっくり。バーベキューが日本よりも盛んな海外ではよく使われているものだそうですが、登山用品店では見かけたことがなく、取材メンバーの誰一人知らないものでした。
「ホームセンターでもアウトドア用品店でも焚火用のトングとか、革のグローブとかあるけど、このグローブの方が耐火・耐熱性があってパッキングもしやすいんだよね。」
鉄鍋を直接掴んでももちろん熱くなく、鍋敷としても柔らかい素材とシリコンのおかげで安定性があって一石二鳥。
フィールドに出ればその万能性をさらに発揮します。焚火のために木を集めたり切ったりする時の保護としての役割はもちろんのこと、焚火台の薪を組む時も、火が付いた炭もそのまま掴めるので手際よくあっという間に火を起こせます。
2,000円以下で、簡単に手に入る、レアでもないもの。それなのにハッとするギアを知っているところがさすが!尾崎さんが持っているとなんだか格好良くて特別な感じがするからまた不思議。
尾崎さんの自宅のインテリアは、自作のものが多く、ぎっしりとお気に入りのギアが並んだ壁面収納は、2×4材とパンチングボードなどを組み合わせて作ったそうで、インテリア雑誌で特集されるほど。
尾崎さんがDIYに使うノコギリは、スウェーデンのブランドBAHCO(バーコ)の携帯用ノコギリ「ラップランダー」。欧米のブッシュクラフトシーンでは、カルト的人気のハンドソーだそうです。ホームセンターなどで見かける携帯ノコギリに比べて、スタイリッシュな見た目が印象的。
「道具ってすごいよね。それがあるだけで可能性が広がる。例えば、できあいの棚を買ったとしたら、その棚以外の使い方ってできないでしょ。でもノコギリと木材さえあれば、色んな物が自分の好きなように作れる。」
テーブル横のわずかなスペースに合わせた棚や、「仮で作っただけなんだけど、案外よかった」という照明も素敵。角材の切れ端を棚に繋げただけとご本人は言うけれど、なるほど!と真似したくなるアイディアです。
ラップランダーはグリップが良く、刃物で有名なスウェーデン製だけあって切れ味も良い。軽量でコンパクトなので、バックパックに入れてアウトドアに持ちだす時の携行性も抜群。同サイズの日本ののこぎりに比べて刃が固くぶれにくいので、女性がDIYをする時にも使いやすいと言います。
「女性はあまり持っていないかもしれないけど、大きな段ボールをゴミに出す時にハサミでは切れなくて困るでしょ。そういう時にもノコギリが1本あるといいんだよ。」
ひとり暮らしの家にも1本あると良いと言われると、もうこちらはすっかり買う気分に。
「BACHOラップランダー」はもちろんアウトドアでも大活躍。落ちている大きく太い枝を焚き火用に細かくする時に特に役立ちます。刃長が28cmのものなら、冬山の雪洞づくりでも活躍することでしょう。
Firlarの耐熱手袋も、BACHOのノコギリもアウトドアブランドのものではありません。
2つとも、ウルトラライトカルチャーをきっかけに、自分にとって必要な道具のあり方を追求し、より深く自然と楽しむためにはどうすればいいのか模索し続けてきたクラフトマン尾崎さんを象徴する道具。
インドアでもアウトドアでも、より私たちの可能性を広げてくれるもの。
既製品をただ買い集めるだけではなく、自分にとって本当に必要なモノをゆっくり考え、それを自分の手でつくる。そのプロセスこそが本当の「ゆたかさ」と言えるのではないか。そんなことを教えてくれた一品でした。
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