山を登り、写真を撮りはじめたのは残雪の季節だった。
それから、春、夏、秋とそのあいだの季節も
手探りで山を歩き、写真を撮りつづけていた。
何がそれまでに山に魅力があるのか、と
他人に問われると答えに困ってはいたが、
あきらかに私は山の虜になっていた。
はじめての雪山は
以前も何度か訪れたことのある山。
慣れない冬山の装備に四苦八苦しながら
展望のよい場所まで辿りつく。
眼に映るのは眩しく、真っ白な雪の山。
写真に収めようとカメラを構えると、
眼で捉えているものと、頭の中のイメージが交錯する。
集中しようと目の前の風景をじっくりと見つめるほど、
その2つの像がダブって見えた。
私の頭はどうにかなってしまったのかもしれない。
そんな風にも思えた。
その戸惑いに負けずになんとか写真を撮り、
カメラをおろしてじっと山を見つめる。
頭の中に浮かんだそのイメージは
同じ山の違う季節の山の姿だった。
その風景の持つ別の季節や時間が
眼の前の風景の中にくっきりと浮かびあがっていた。
この感覚を知ってから、
私はさらに山へと足が向かうようになった。
何度も同じ場所に行き、シャッターを切る。
出来上がった写真には一体何が映るのか、
時には自分でもわからないままに。