秋の牧場は少しノスタルジック。
広大な草原はすこし枯れはじめ、涼しげな緑色から寒々しい黄土色に変わる途中。
ミニチュアのように遠く散らばる牛たち、延々と広がる森が見わたせた時、愛実さんはふと呟きました。
「あれ、なんか涙出てきた…」
このチルトレイルには、たしかに心を揺さぶる風景があったのです。
今回ご紹介するチルトレイルは、八ヶ岳の東側、広大な裾野にあります。
太古の昔、富士山よりも高かったと伝えられる八ヶ岳。火山活動を繰り返し、高さこそ富士山よりも低くなりましたが、東西に広く、南北に長くのびる裾野は富士山以上の雄大さ。その姿は多くの人を魅了し続けています。
このチルトレイルを教えてくれたなるさんも、八ヶ岳を愛してやまない一人。
なるさんは、登山GPSアプリ「YAMAP」の会員の中で最も南八ヶ岳エリアに詳しいと評されるファストハイカーなんです。
今回のチルトレイル仲間（左）なるさん（中）綾子さん（右）愛実さん
「この道は牧場の中を歩けて、草原の向こうにそびえる赤岳や権現岳の姿がとっても美しいんです。」
普段なら1時間少しで歩いてしまうこの道を、ゆったりと眺望を楽しみながら歩くのもいいかもしれませんねと、提案してくれたのもなるさんでした。
秋晴れに恵まれたこの日、アースカラーに広がる大自然の姿が僕らの足を止め、心をからっぽに。
このチルトレイルの魅力は、裾野から望む山の姿だけではありません。
清らかに流れる沢だって、僕らの遊び場。
水の冷たさを確かめていると見つけたのは小石の間を流れる泡。そして、泡に差し込む光が、水底に映し出すちいさな影。
泡と影は一緒にゆらゆらと流れた後、はかなく消えていきます。
光と水のアートは、延々と繰り返され、でも一つとして同じ動きはなく、ずっと見ていられます。焚き火をじっと見つめているときのような、あの感覚。
取材したのは、紅葉真っ盛りの日曜日。有名な観光地であれば、多くの人で溢れているはず。でも、このチルトレイルにはほとんど人がいません。
そんな中でも、お逢いできたのが八ヶ岳の麓に住む庭師さん。
「ふらっと、一人で散歩にね。」
だそうです。なんともナチュラルな佇まい。現地の方との一期一会。これもチルトレイルの魅力。
トレイルに広がる多様な木々との出逢いも僕らを魅了しました。
黄金色に輝くカラマツが青空に浮かぶ針葉樹の森。
クヌギやコナラの黄金色の葉が、地面までも黄色く染めてしまいそうな広葉樹の森。
森からのギフトには、綾子さんのアンテナが一番敏感に反応していました。
山頂には山頂の、裾野には裾野の景色があります。それはどちらが上というものではなく、どちらが絶景ということではなく、どちらも美しくいまここに在るもの。優劣をつけるのは景色を見る人の方。眼の前にある美しさに気づけるかは僕らの感性にかかっています。
ぜひ、このチルトレイルには仲間と出かけてください。多くの自然からの贈り物が隠れています。そのギフトを見つけるには多くのアンテナがあった方がいい。そして、ギフトを見つけたら、ぜひ仲間と共有してください。
次々に宝物が見つかり、まったく歩が進まないこと請け合いです。それほどまでに魅力がつまったチルトレイルでした。
レストラン：
まきば公園
お肉が絶品。
ヤギ、羊、牛、うさぎと遊べます。
温泉：
（車の場合）スパティオ小淵沢 延命の湯
（公共交通機関の場合）アクアリゾート清里「天女の湯」 清里駅からタクシーで6分
①チルトレイルとはいえ、整備された道ではありません。ハイキングシューズやランニングシューズなど多少の悪い道でも歩ける靴で歩きましょう。
②最後の笹の森を下るルートへの入り口は小さな看板が目印。見落とさないように気をつけてくださいね。
③お出かけ前に天候や現地の状況を確認し、自分達の技量で行けそうな状況かご確認くださいね。
車を2台出すのがオススメ。2台でゴール地点の東沢大橋展望台駐車場へ向かい、この駐車場に1台をデポし、もう1台に全員乗り込んでスタート地点の天女山駐車場へ向かいましょう。（※冬期は天女山駐車場手前のゲートが閉鎖され、駐車場まで上がれません。ご注意ください。）
◯車：
中央自動車道小淵沢ICを降り、県道11号を22分で東沢大橋展望台駐車場に着きます。
◯公共交通機関：
中央本線の小淵沢駅にて小海線に乗り換え清里駅で下車。タクシーで天女山駐車場まで。
下りのルートは牧場の中を通る道に変更して、まきば公園でゆっくり遊んでから、帰りのタクシーを呼ぶのがオススメ。
高根タクシー：0551-48-2211
山梨交通清里サービスセンター：0551-48-2000
八ヶ岳観光タクシー：0551-48-2025
清里観光タクシー：0551-48-2021
（写真:藤原慶 / 案内:成嶋裕功 / モデル:武石綾子,杉浦愛実）