山好きの両親の影響で、東京から長野県原村に移住し、現在は隣の富士見町で手作り石けん屋さんとして活動している小古間かずささん。
彼女がこだわっているのは、「地産地消」。町の特産ひまわり油や、1年のなかで2週間ほどしか採取できないシラカバの樹液を原料にした石けん作りにトライしています。
――東京からの移住、抵抗ありませんでしたか?
「縁もゆかりもない土地だったので、最初はどうしようと思いました。移住したのは、山好きの両親がきっかけです。『八ヶ岳のふもとに移住するぞ! これからは自分の好きな場所で生きる!』っていきなり宣言されて(笑)。小さい頃から、両親は事あるごとに『八ヶ岳、八ヶ岳』と言うほど八ヶ岳が大好き。だから、移住の話をされた時は“とうとう住んじゃうのか”って思いましたね。反対するというよりは、やっぱり山が好きなんだねって。」
――山には一緒に登っていたんですか?
「はい。家族旅行と言えば、もちろん山。子どもの頃はあまり泊まりで行けなかったので、東京から日帰り圏内で行ける山梨あたりが多かったです。でも、子ども心にはなんの面白味もなくて(笑)」
――実際、移住してみてどうでしたか?
「窓を開けたら森だし、徒歩圏内にはお店が一切ない。ここで私は一体何をしたらいいんだろうと、移住して2か月くらいは迷いがありました。ある時、そうだ、東京でやりたかったけどできなかったことをこっちでやってみようと思ったんですね。それで、“あ、石けん作ろう!”と。そういえば、わたしって石けんが好きだし、作り方の本を持っていたので。」
――石けんって、最初からうまくできるもの?
「作ってみたら結構上手にできたんですよ。基本的に作り方はそんなに難しいわけじゃないんです。苛性ソーダ(*1)の扱いに注意する必要はありますが、材料を混ぜて、固めて、型から出す。とてもシンプルなんです。」
(*1)毒・劇物取扱法や薬事法で劇物と指定されている薬品のこと。石けん作りには欠かせない材料。
――小古間さんは貴重な<シラカバ樹液>や<ひまわり油>の石けんを作っていますよね。めずらしいなと思いました。
「こんな石けんあったらいいなぁという、自分の好みをひたすら追いかけて試作し続けました。洗いあがりがすっきりする炭を入れてみようとか、好きなハーブ入れてみようとか。そうする中で、町の特産品で作りたいという想いが生まれていきました。シラカバ樹液は採れる場所が限られているし、ひまわり油は富士見町の特産。移住してここの土地柄を知って、こんなにいい素材があるのに、これを使わない手はないな、と。」
――シラカバはよく山で見かけますが、樹液が石けんにも応用できるんですね。
「シラカバの樹液は、1年のうちに2週間くらいしか採取できない貴重なものなんです。雪解けの時期に幹が水分を吸い上げるその時期だけ。それを逃すと1年間手に入りません。知り合いのおうちの庭から頂戴して、自分で採取しています。」
――ひまわり油の存在もはじめて知りました。
「石けんに使っている人はあまりいないと思います。ほかの油に比べて、ひまわり油は値段が高いんですよ。地元の農家さんたちが仕事の合間にひまわりを収穫して搾油しているので、大量生産とまではいかないんです。」
移住がきっかけで、自分が本当にやりたい!と思うことに没頭できるようになった小古間さん。もっと多くの人に、富士見町やひまわり油の魅力を伝えようと、So-net(ソネット)が行うサービス「いきつけの田舎touch」を介して、「やってみよう、ひまわりの収穫体験と地元素材の石けん作り」を開催します。
――ひまわりにまつわるイベントを開催していますよね。次回の「やってみよう、ひまわりの収穫体験と地元素材の石けん作り」は、どんな内容ですか。
「5月のイベントではひまわりの種まきをやりましたが、今度は自分たちの手でひまわりを収穫します。
午前中に収穫をして、ランチは、地元のお弁当屋さんで働くお母さん達が地元の食材で作ったお弁当をみんなで食べます。そして午後は、地元のハーブやハチミツ、天然のエッセンシャルオイルで石けん作り。富士見町の魅力を存分に感じられる体験です。」
――小古間さんは石けんやさんですが、どうしてひまわり畑の種まきや収穫も体験内容に入れているんでしょうか。
「ひまわりを育てて油を作っている「ひまわりの会」の方と縁あって出会い、そこから『いきつけの田舎touch』でのイベントが生まれました。「ひまわりの会」は、富士見町の立沢(たつざわ)地区の女性の方々によって運営されていますが、現在は高齢の方が多くなり、次の世代になかなか繋げられていません。体験してもらうことで、そういった活動を知ってもらえたらいいなという願いがあります。
ですが、石けんができるまでの過程も大切にしたい。そもそも石けんを作るには素材(材料)なくしては成り立ちません。畑というベースがあって、種をまいて、育てて、収穫して、また種ができて。そのプロセスを含めて、石けん作りを体験してほしいと思うんです。」
――油ができるまでを体験する機会って、なかなかない気がします。
「日ごろ油そのものは見ていても、油ができるまでを知れる機会ってあまりないですよね。わたしは石けん作りと『いきつけの田舎touch』のイベントを通して、この町に根差した活動や、その活動をしている人たちを多くの人に知ってもらいたい。それが叶えられたときこそ、わたしがこの町に来た甲斐があったと実感できるのかな、と。」
――参加される方、参加を考えている方に、何か伝えたいメッセージはありますか。
「種まき、収穫など募集は1回ですが、たとえば種をまいた人たちに、また『行ってみようかな』って思ってもらえたらそれはもう本望です。来れなかったとしても、いつかどこかで畑を見たときに、『あの畑今どうなっているかなぁ』とか、『そろそろ花収穫かな、種採れるかなぁ』とか、畑やこの町を気にかけてもらえたら嬉しいですね。それこそが、『いきつけの田舎touch』で体験イベントを開催する意義かもしれないな、と思っています。」
石けんを愛し、移住した町を愛し、その町で活動し続ける人たちを愛し応援している小古間さん。そんな彼女が作るオリジナル石けんは、「原村高原朝市」や小古間さん主催のイベントで購入できるとのこと。また、ひまわり油は、町内のスーパーなどで買うことができます。
完成したものももちろん魅力的。ですが、それらが誕生するまでのプロセスを垣間見ることによって、石けんを使う時、ひまわり油で料理する時がもっと楽しく、充実した時間になるはず。
知らなかったこと、驚き、新しい発見。こういった体験は、子どもでも大人でもいくつになっても、人生を豊かにしてくれる実りある素材かもしれません。
(文:山畑理絵 / 写真:茂田羽生)
■「さわる ふれあう 感動する」 いきつけの田舎touch
9月9日 (日) 「やってみよう、ひまわりの収穫体験と地元素材の石けん作り」
9月の体験一覧:
https://www.so-net.ne.jp/touch/feature/#select-month9
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