伊豆半島はなにやら特別な雰囲気があって、好きな山がたくさんある。もともと太平洋の海底火山で、溶岩の巨大な塊が海上に現れて“島”となった。それが少しずつ北上し続けて日本列島に衝突し、伊豆“半島”となったのだ。
日本ではこの伊豆半島、そして伊豆諸島と小笠原諸島が、北上するフィリピン海プレートの上にある。そのためか、南方地域の香りがする独特な植生を身に纏い、魅惑の半島たらしめているのだ。
素晴らしき伊豆の山々。
その“伊豆ならでは”の木々花々を縫う小径に、ぼくは心をぎゅっとつかまれている。伊豆といえば海のイメージが強いけれど、半島そのものを形作っている巨大な山塊にこそ、他の地域では味わえない要素が詰まっている。そのひとつが「笹」の道だ。一度歩いたら忘れられないほど、かっこいい。
登り始めは、絶景で知られる仁科峠。ここまで車で来くることができるから、登山をしない人でもドライブがてら絶景を手に入れられる。なべ石と呼ばれる巨石の丘が展望台となっており、笹の原についている一筋の道が印象に残る。その道を目で辿って目線を上げると、正面に秀麗な富士山の姿を認めることができる。これがまた最高だ。
なべ石の先へと歩を進め、猫越岳の山頂を目指す。ブナなどの木々が取り囲む防火帯のような芝道は、歩くだけでワクワクする。ふかふかして、すごくいい。何度も振り返っては、道の良さを確かめる。
そうしてテクテクと歩いていると、ときおり、木々の間から日本一高い富士山が雄姿を現し、日本一深い駿河湾も負けじと水面を煌めかせている。そんな素晴らしい眺望は、ハイカー歓喜の瞬間だ。カメラを持っている人は、シャッターを押す指が止まらなくなるだろう。
やがて天然記念物のモリアオガエルが産卵する神秘的な池を経て、展望のない猫越岳の山頂となる。ここまでの芝の道、クマザサの道、ブナの樹林、木組みの階段……そのすべてに気分が上がったなぁと、山に道に感謝する。
ふたたび仁科峠に戻ると、そのクライマックスで再びなべ石の上に立ちたくなる。山を這うように続く笹道が見える。その向こうには、やはり富士山が聳えて待っていてくれる。
西日が染め上げる笹の原が“金色の野”となって風にうねる様子は、この世のものとは思えないほど美しい。ここは高山のような難しさがなく、初心者でも“金色の野”に降り立つことができる。アクセスはやや難ありだけど、クセになる道だ。きっとリピートするに違いない。