新潟県・燕三条。言わずと知れた、日本のものづくりの聖地。それはアウトドアにおいても変わりはない。そこに、業務用や家庭向けの調理器具の製造をルーツにし、長年愛されるアウトドア用品を作り続けるメーカーがある。
アウトドアマンなら誰もが知る、UNIFLAME。それを生み出した、株式会社新越ワークスだ。
燕三条に根ざしたものづくりを体現する彼らには、彼ら流のものづくりへの誇りとこだわりがあった。
好評を博したSOTOに続く、工場潜入レポート第2弾。MADE IN JAPANの真髄に迫る。
30年以上続くUNIFLAMEは、そもそもラーメン屋などで使われる湯切りのザル製造(市場シェアは70%を占める!)をメインに置く株式会社新越ワークスのアウトドア事業の部門だ。
つまり、もとは金網の会社だった中で、東京から戻ってきたアウトドア好きの現2代目社長の意向により、アウトドア事業がスタート。その頃は市場も大きくなく、外部の会社から譲渡されたガストーチの製造がはじまりとなったが鳴かず飛ばずだったという。UNIFLAMEとは「ユニーク+炎」の造語で、炎はこのガストーチが一つ目の商品だったからに由来する。
その後、業界初となるカセット2バーナーを開発。コーヒーバネットなど数多くの大ヒット商品を世に送り出し、徐々に人気ブランドの座を獲得していくわけだが、驚くことに当事者である田瀬さんたちは、「ブランド」というものには一切の興味がないという。
「まず製品があってUNIFLAMEが乗っかっている。良いなぁと思って買ったらUNIFLAMEだった、それで僕らは良いんですよね。だから、いまだに売れている商品でもロゴが入っていないものだってあるんです。たとえば「ファイヤーグリル」はどこにもUNIFLAMEのロゴは入っていません。最近でこそロゴを入れるようにはしていますが、それは海外からの要望なんですよね」
アウトドア好きの中ではUNIFLAMEのことを知らない人は少ないだろう。それほどに名の知れたブランドにもかかわらず、このお話には正直驚いた。ベテランキャンパーなら誰もが知っているであろうユニセラも数年前まではロゴは入っていなかったそう。古いUNIFLAME製品をお持ちの方は是非確認してみてほしい。
「安く作るのって難しいんですよ。良い品質のものを高く作るのは簡単なんですが、それは工芸品。僕らは工業製品を作っているんです。良いものを安く、かつ大量に作るのは本当に大変なんですが、それがうちの醍醐味ではありますよね」
自分たちが作るものを「工業製品」と断言するのがとても清々しい。そこに、アウトドアマンが安心してUNIFLAMEを使い続けることができるものづくりの精神がある。
「僕らのものづくりの3本柱は『品質・価格・供給』。これを徹底しています。それを突き詰める上でやらないこともあります。業界的には珍しくSNSも宣伝も自社販売もせず、顧客データも持っていないんですよ。僕らのような製造業はものづくりをちゃんとすることが大事。そこに真摯に向き合っていればお客様はついてきてくれます」
※偽物のfacebookアカウントが存在するそうなので、ご注意ください!
「そのかわり、カタログしか媒体を持っていないので、売れるようになるには時間がかかります。だいたい新商品をリリースしてから5年はかかりますね。利益率の上限なども設定していないから、無駄に価格を上乗せすることもないですし、モデルチェンジもしません。ユニセラやファイヤーグリルなどの人気商品も一度も寸法を変えていないんですよ。だからスペアパーツはしっかり用意できています。工場だから同じものを大量に作るのが最も効率がいいですし、品質も上がりますから」
UNIFLAMEの製造現場も案内していただいた。UNIFLAME製品はすべてここで作られ、日によって製品を決めてラインを入れ替えているそう。そしてこの日は日本で見ることのできない、2バーナーの台湾モデルが作られていた。
終始柔らかく気さくに話していただいた田瀬さんだったが、不本意ながら製造におけるミスが発生している、というお話をされた時だけは非常に厳しい口調だった。それだけ、先述の3本柱に対して正面から向き合っているということだ。「丈夫で故障もしにくいから売り上げ的には悩ましいんですけどね」と冗談で語る田瀬さんだったが、細かなミスも許さないチェック体制は使う側にとっては何よりも安心感に繋がる。
企画部が存在しないというユニフレーム事業部。あるのは営業部と製造部だけで、商品のアイディアなどは全社員がその場で出している。
「償却の計画とか金型がいくらだとか、そういうことは考えてもしょうがないという思想で動いています。だからスピードは速いですよ。でも、新商品はほぼほぼ失敗します。失敗しながらどんどん商品が強くなっているんです。出荷用に詰めた箱を解体する、集めた部品を廃棄する、そんなのはしょっちゅうですから、成功に向けた儀式だと思ってやっています」
田瀬さんや先代の社長も含め、アイディアマンがUNIFLAMEには存在する。冒頭にもお伝えしたUNIFLAMEの「ユニーク」の部分は、「真似はされても真似することはない」というものづくりへの考えが反映されているのだ。
「アイディアを口で言うことは簡単なんです。でもそれをドライバーも握ったことがない人が言ってもダメで。ものづくりの現場の人間だからこそ実現できるものがありますよね」
田瀬さんのアイディアから生まれたというネイチャーストーブ。非常に薄い金属でできた作りであるがゆえ、固い材料を使い、金型も良質なものを用い、端面にバレル研磨を施しているという。作業も素手で行っており、それにより薄くても手が切れない作りになっているそうだ。
日本のものづくりの聖地とも言われる燕三条。「会社の目的は雇用と納税」という社長の考えのもと、UNIFLAMEはこのエリアの職人と連携しながらものづくりを行っている。
「燕三条にはその道のプロがたくさんいます。でもそれだけでは製品はできなくて、僕らみたいなコーディネーターが必要なんです。それもこの地の、この地の人の特性を理解したコーディネーターが必要。東京から発注書を持って来て製品ができるかって言ったらそんな簡単なものではないんですよ。だから僕らは同業のOEMだって多数手がけているんです。技術を持った燕三条の特徴ですよね」
この地域はものづくりとしては別格であると語る田瀬さん。スキレットなど毎回の調理で酷使するような商品もモノ持ちが良いが、それは燕三条が横持ちの技術を有しているからだという。「溶接・スピニング(ヘラ絞り)・塗装」といった工程がその道のプロの職人によって仕上げられているからこそ、安心して長く使うことができるのだ。かつ、UNIFLAME事業を展開する新越ワークスは調理器具を作る会社。スキレットやダッチオーブンなどは得意領域だというわけだ。
燕三条の職人と共存・共栄。自分たちだけでなく地域の発展も目指すUNIFLAMEには、自分たちはメーカーであり工業製品を作っている、という考えが根幹に流れていた。
我々ユーザーの中にはUNIFLAMEファンが存在し、愛用しているユーザーが確かにいる。ブランドとしても広く認知されているのだ。ただしそれは、UNIFLAMEの製品を使い、その製品の品質に心奪われたことによって生まれたもの。決してプロモーションやイメージ戦略等のブランディングによるものではない。メーカーとして「品質・価格・供給」の3本柱を徹底し愚直にものづくりに向き合い製品でユーザーに応えてきた結果として、生まれたブランドの価値と言っていいだろう。
「これからも黒子でいい」と最後に語った田瀬さん。燕三条という地域を巻き込み、私たちが安心してアウトドアを楽しむことができる製品を供給し続けるUNIFLAMEは、きっとこれからも長く愛される製品を生み出すにちがいない。