2016年の3月から5月にかけて、四国一周歩きお遍路の旅をしてきました。きっかけはささいなことでした。テント装備を担いでとにかく自分の限界まで長い距離を歩いてみたい。そんなとき動画サイトでお遍路の映像をみて、1200キロのロングトレイルを歩くお遍路に興味を持ち、ちょっと歩いてみようかなぁと思ったのが始まりでした。
お遍路とは、四国に点在する弘法大師ゆかりのお寺八十八ヶ所(札所と呼ぶ)をお参りすることです。四国八十八ヶ所巡り、四国遍路、四国巡礼などといいます。
八十八ヶ所の寺院を結ぶ遍路道は全長は約1200kmです。順番に歩いていくとちょうど四国を一周することになります。
お遍路というと特殊な人がやるものと思われるかもしれませんが、実際はそうでもありません。信仰的な側面もありますが、若者からお年寄りまで、日本人、アジア人、欧米人など国籍、年齢、性別を問わずたくさんの人が遍路道を歩かれています。
お遍路はなぜそれほど多くの人を惹きつけるのでしょうか?
お遍路さんが1日に歩ける距離は、20~40キロくらい(体力・荷物の重さによる)と言われます。遍路道1200キロを歩き通すのが、過酷であるのは間違いありません。
横に長い高知では札所間の距離が長く、次のお寺にたどり着くまでに数日かかることもあります。なかなか減らない残り距離を前に、本当にたどり着けるのだろうか?と毎日絶望するかもしれません。
そんな過酷な道のりを、車やバイクなどの乗り物を一切使わず、ただひたすら歩く。自分の足が唯一の移動手段であり、距離を測る物差しになります。1200キロというロングトレイルを歩くことへの挑戦、これが最高に楽しいのです。四国一周を自分の足で歩き切ることで、大きな達成感を味わうことができます。
お遍路では、毎日が食べて歩いてお参りをして寝る、の繰り返しです。朝起きてごはんを食べ、次の札所(お寺)を目指して歩き出します。お昼になればごはんを食べ、また次の札所を目指して歩きます。日が暮れる前に寝る場所を探し、夕ごはんを食べたら、あとは寝るだけです。「食う寝る歩く」をただひたすら続けていくのがお遍路といえます。そのシンプルな営みの中で余計なものが削がれていく感覚はとても気持ちいいものです。
お遍路をしようと思い立った人なら、誰でもお遍路さんになることができます。四国の方が受け入れてくれることがとてもありがたく、うれしいものです。実際に遍路道には人種、国籍、性別、年齢、社会的地位を問わず、多種多様な人たちが歩いています。社長もサラリーマンも国会議員もスポーツ選手も学生も無職の人も、お遍路をしている限りは何者でもない、ただのお遍路さんなのです。
美しい山、川、海、自然豊かな四国を堪能できるのもお遍路の魅力です。同じ四国でも猛々しい太平洋と穏やかな瀬戸内の海では全く違います。四万十川の美しい青色にも感動しました。山頂にあるお寺から見下ろす景色も素晴らしいです。そんな大自然を眺めて歩くのはとても気持ちが良く、自分の抱えてる悩みがとてもちっぽけに思えてくるものです。
お遍路では普段は歩くことがないような道を歩くことができます。町中、山の中、海辺はもちろん、人の家の庭先、路地裏、農道、あぜ道など、ときには牛舎の横を牛に見守られながら歩くこともあります。普段なら入っていけないようなところでも、そこが遍路道であれば歩くことができます。そんな多彩な遍路道を歩くのはとても楽しいです。
四国をぐるっと一周することになるため、あちこちでその土地の名物や美味しいものに巡り合うことができます。徳島ラーメンや阿波尾鶏、藁焼きの鰹のたたきや鍋焼きラーメン、手打ちうどんや鯛めし、伊予柑など、各地の名物からB級グルメまで。道の駅、地元の食堂、市場、無人販売所などで四国の食文化を味わうことができます。
お遍路をしていると必ずお接待を受ける機会があります。炎天下の中、自販機もないようなところを延々と歩き続けていたときに、目の間で急に車が止まり出てきた方が「よかったら飲んでください」と飲み物をいただくことも。お遍路休憩所ではお接待の飲み物や食べ物が置いてあるところもあります。お遍路さんのための無料の宿(善根宿)もあります。時には家に招かれてお接待を受けることもあるかもしれません。他の土地では考えられないような温かいお接待の文化が四国には根付いているのです。あまりのお接待に最初は戸惑うかもしれませんが、感謝の気持ちを忘れずに、お接待の文化を体験してみるといろいろな発見や感動があると思います。
温泉は歩き遍路の癒やしです。毎日長時間歩くことにより、どうしても足に疲労がたまります。がんばりすぎて足を痛めることもあるでしょう。そんな歩き疲れた先にみつけた温泉で、ゆっくりと浸かるのは最高にぜいたくであり、体に沁み入る気持ちよさです。遍路道沿いにはたくさんの温泉があるので、温泉を探しながら歩くのもまたお遍路の楽しさと言えるでしょう。
お遍路生活に必要な衣食住のすべてを背負って歩く、野宿お遍路が楽しいです。寝る場所も食べるものもすべては自分次第。食堂の営業時間や旅館のチェックアウトの時間にも縛られることもありません。地元の方や他の人に迷惑なるような行為は厳禁ですが、ルールをきちんと守った上であれば、自分を縛るものは何もありません。
過酷なお遍路をする人が後をたたないのはなぜでしょうか?それは四国一周1200キロのロングトレイルを歩くお遍路が、最高に楽しくて、美味しくて、気持ちいいものだからだと思います。
お遍路の扉は誰にでも開かれており、誰もがお遍路さんになることができます。もしお遍路をしてみたいと発心した方は、旅立つ準備をはじめてみてはいかがでしょうか。