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日本一新しく、日本一〝不便″なキャンプ場『炭焼の杜 明ヶ島キャンプ場』がオープン!その理由とは?

3つの難条件を押し出す『炭焼の杜 明ヶ島キャンプ場』

静岡県掛川市にある「炭焼の杜 明ヶ島キャンプ場」。
東名高速道路の「森・掛川IC」を降りた後、うっそうと茂った樹木の間を縫うように、くねくねと細い山道をひたすら登りきった所に、この場所はあります。

「アクセスが悪い、携帯電話が通じない、高規格でない」。
今年の4月にリニューアルオープンした際に、プロデュースした松山拓也さんが掲げたのは、この3つの難条件を前面に出した「不便さ」というコンセプトでした。

不便だからこそ、自分の時間を過ごすことができる

―グランピングなどの高規格キャンプを打ち出す施設が多い中、一線を画すようなコンセプトですが、お客さんの反応はいかがですか?

「ゆっくり時間を過ごせた」と喜んでもらえることが多いです。今は外国でも携帯が通じちゃう時代でしょ。休みのときでもメールが入れば仕事ができちゃうし、案外心から休めない。ここはその点、電波が入らないから本当に自分の時間と向き合えるんです。

―確かに、来る前は「携帯が通じない」ってことが不安でしたけど、その分「ここに来る前に絶対仕事終わらせて真っさらになってから来るぞ」と気合いが入りましたし、休みを十分満喫できている気がします。

Youtubeを見たり、オンラインゲームをしたりできないから、電子機器を持っていても遊べないしね。

―子どもたちもその分、川遊びをしたり、虫取りをしたり、「何をして遊ぼうか?」と頭を働かせて、一生懸命遊んでいるように思います。こういった構想は実際、多くの方に支持されていますか?

リニューアルオープンして3カ月(取材時は7月)だけれど、9月までの予約を含めるとすでに900人ほどが来場することになっています。1年で700~800人くらいの人が来てくれたら良いと思っていたんですけど、目標を超える人数で。多くの人が首都圏から来ていて、すでにリピーターも出てきている状況です。

放置されたキャンプ場からの、再建

―ここに至る経緯を教えて下さい。

このキャンプ場はもともと、掛川市が昭和53年にオープンしたもので、アウトドア好きの人が始めたというよりは、地域貢献の一環みたいな感じで始まったんですよ。だからコテージが6棟、あとはトラロープで何区画か分けて作っただけ。近くのヤマメの養殖場のおじさんが管理人という形で、夏の間だけオープンする小さなキャンプ場という感じだったみたい。もちろん人は来ないし、管理もうまくできない。そんな中、台風被害もあって1年半くらい放置されることになっちゃったんです。

―そんな中、どうして松山さんが再建に関わることに?

僕はデザイン会社の経営が本業なんだけれど、アウトドア歴は30年以上。本業のかたわら、地域貢献の一つとして「アウトドアの学校」というものを掛川で主宰していて、初心者向けに道具の選び方や風景写真の撮り方なんかを教えていました。そこで市の担当者とも話すようになったのが始め。キャンプ場の指定管理者を探しているけど、どう再建したら良いかわからない、という悩みに合致したのが僕だったんでしょうね。

引き算の美しさを知ってもらいたい

―高規格でないことに周囲の理解は得られたんですか?

建設会社の人と話をする中で、「携帯が通じないから、電波が届くように工事しないと」とか「暗いから、電灯をもっと増やさないと」という意見も出ました。でも、「ちょっと待って。一緒にキャンプをして考えよう」と言って一晩過ごしたら、暗いからこそ星がよく見えるとか、携帯が通じないからゆっくり過ごせるとか、いろんなことに気づいてもらえました。そうやって施設を最小限に留める一方で、ゆっくり一杯のコーヒーを楽しんでもらうために、宙に浮かぶウッドデッキを作ることにしたんです。

―あのデッキ、素敵ですよね。川のせせらぎが聞こえて、美しい木々をバックにビールも美味しくいただけそうです。

そう、そのために作ったんです。実は、生木にデッキを渡してあるから、数十年後はデッキの位置が高くなっているはずなんですよ。このキャンプ場のこだわりです。

穏やかなることを、学ぶ

―キャンプ場のテーマである「STUDY TO BE QUIET」には、松山さんなりのアウトドアの哲学があるのでは?

これは、作家のアイザック・ウォルトンが『釣魚大全』の中で記した言葉ですが、まさにこのキャンプ場で実現したい思い。僕はいろいろなキャンプ場を回ってきて、高規格で楽しいキャンプはもちろん良いと思うんだけれど、一方でお花見感覚の騒がしいグループに心が落ち着かないことも今までにあったし、隣との距離が近すぎて自宅以上に遠慮する場面もありました。だったら、静かで大人なキャンプ場だってあって良いんじゃないかな、と思ったんですよね。

―なるほど。確かに、ここではそういった光景は見られませんね。

僕は、日本のアウトドア文化はまだまだ発展途上だと思っているんです。バーベキューは本来ホームパーティーの一部であって、キャンプ=バーベキューで賑やかに過ごすということではないはずです。キャンプは本来、自然の中でする旅の一部であり、食事も自分が食べられる分だけシンプルに料理をするもの。大勢で集まって楽しくバーベキューということに重点を置きすぎると、自然に対する敬意が薄れて、紙皿や紙コップを使って、油でギトギトになったグリルを合成洗剤で川に洗い流す、ということにもなりかねません。だから、このキャンプ場はそういう過ごし方をする場所ではないですよ、とちょっとハードルを上げている部分もあるんですよね。

―キャンプ場も高規格一辺倒ではなく、そういった選択肢が増えることは良いかもしれませんね。今後はどんな施設になっていく予定ですか?

キャンプ場を流れる川に管理釣り場を作って、キャッチ&リリースのフライフィッシングができるようにする予定です。生態系を守りながら釣りを楽しんでもらいたいので、漁協から魚を仕入れるのではなく、あくまでもこの川の魚で。獲っても川に帰して、川を守るための管理釣り場になれば良いなと思っています。

【炭焼の杜 明ヶ島キャンプ場】

〒436-0337 静岡県掛川市炭焼33-2
TEL:0537-25-2507

■営業時間
チェックイン時間:12:00~16:00
※到着は15時を目安に

■アクセス方法
新東名「森・掛川IC」より車で約30分
≪動画≫キャンプ場へ向かう山道
https://youtu.be/_pmvPPjMO6M

■ウェブサイトURL
http://www.bt-r.jp/smc/

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ライター:
植松 玲奈