アウトドア好きな方の人生観やアウトドアライフに迫る「自然ビト」。第6弾は、数々のアウトドア雑誌でライターを務める、.HYAKKEIライターの山畑理絵さん。
昨年夏にセルフビルドで完成したというログハウスから、慣れ親しんでいる山に登ってお話をうかがいました。
——これが新しく作ったログハウスですね、完全にアウトドア部屋になってますね!
仕事の作業場でもあるので、山に行かない時は1日のほとんどをここで過ごしています。ギアもこの部屋にすべて集約していますね。シングルバーナーとかカセットコンロも持ってきてしまったので、ご飯もここで作って食べますよ(笑)。一品作るくらいなら十分ですからね。もはや一人暮らしのワンルーム状態です。あとはトイレと冷蔵庫があれば完璧なんですけど(笑)
最近マイブームなのが、山とかアウトドアっぽいモチーフにしたグラスを集めることなんです。飲み物を入れると山のマークだけ色が変わるグラスとか、飲み物の色によって赤富士とか黄金富士山になるグラスとか。これもログハウスを建ててからはじめたんですよ。
——今は、アウトドアライターとして活躍されてますが、もともとは何をされていたんですか?
よく驚かれるんですが、すごくインドアな家庭で育ったんですね。学生時代は吹奏楽部に入っていたんですけど、かなりの強豪校だったのでずっと部活漬けで。そこで大会とか色々出る中で「裏方のおもしろさ」に気づいて、演者ではなく音楽のイベントを制作する道を志すようになって。専門学校を経て音楽制作プロダクションで勤めることになりました。
——今とは全然違うことをやっていたってことですね。そこからアウトドアの道にはどうやって入ったんでしょうか?
その頃はとにかく仕事に追われていたので、疲れた気持ちとか寂しさとか、そういう感情を紛らわせるためにクラブとか雑多なところに遊びに行ってたんですけど、何か違うなぁとは思っていて。音楽は好きだったんで、ストレス発散場所としては夏フェスがあったんですよね、当時は夏フェス全盛期で、みんなでワイワイ過ごすのが楽しくて。そこでキャンプをしたのがアウトドアの入り口でした。
夏フェスで裏方の仕事を見ていてすごくやりたい気持ちがあったんですけど、今の会社だとそれは難しいのかもなって思って会社を辞めました。そのあと、半年くらい日本中をフラフラとしてから埼玉の実家に戻りました。
そしたら近所にアウトドアショップがオープンしていて、たまたま覗きに行った日に、竹材で箸と器を自分で削って作って流しそうめんを食べる!っていうイベントをお店の駐車場でやってたんですよね。それを見て「何ここ、面白そう」って思ってアルバイトに応募したんです(笑)。夏フェスでキャンプをしていたので、キャンプやその周辺のアクティビティとかにも詳しくなれそうじゃん!っていう安易な気持ちでしたね、当時は。
でも、そこでの経験が大きかったんです。
お店に入って、担当になったのが登山用品の売り場だったんですけど、お店に来るお客さん来るお客さんがすごくキラキラしてて、楽しそうに山の話をしてくれたんですよね。何でそんなに楽しそうなんだろうって思って。それで山に興味が湧くようになったんです。最初に登った山は先輩に連れて行ってもらった三頭山でした。
——かなり偶然というか、周りの環境がそうさせたんですね。実際に登ってみてどうでしたか?
はじめての登山以来、平穏を保てる場が山に変わりました。昔はお酒とか音楽を大音量で聞いたりして満たされていたのが、山のあの気持ち良さでガラッと変わりましたね。なんだ、答えは簡単だったんだって。そこからたくさんの山に登りました。職場には山に詳しい方がたくさんいたので、アドバイスもらったり、雑誌などから知識を得たり。それに、気になったアイテムは自腹で買って、実際に山で試すことも度々ありました。
——ハマりはじめると、平穏以外の気持ち、例えば「この一帯の山を制覇してやろう」とか「このギアを使いたいから山に登ろう」とか、そういう気持ちに変わったりはしなかったんですか?
それはなかったですね、今もないんですよ。低くても高くても、何したっていいんです、山に入れば。極論、登ったり歩かなくてもいいんです。
車で20分くらいの近所に日和田山っていう低山があるんですけど、そこにはしょっちゅういたし今も月に2~3回は登ります。仕事に詰まった時とか、リフレッシュしたい時とか、アウトドアショップに勤めていた時は出勤前とか。日和田山からは市内の人々の営みが見えるんですよね。山にいながらそういうことを感じられるのがすごく好きです。冷静に日々の生活を省みることができるっていうか。
——アウトドアライターの仕事されているので、なんとなく北アルプスみたいに絶景や標高が高い山が好きなんだと思ってましたが、そうでもないんですね。
そうですね、北アルプスや南アルプスみたいな岩稜地帯よりも、奥秩父みたいな地味で森深い山の方が好きですよ。
以前、山梨の瑞牆山荘から奥多摩駅までの80kmくらいをテント泊しながら歩いた時があったんです。それで、雨のひどい日に甲武信ヶ岳と国師ヶ岳の間を歩いてたんですけど、そこでの景色が今まで体験したことのない原生林を感じたんですよね。苔や緑がすごくて、きっとここが奥秩父の核となる場所なんだって。見えるものすべてがキラキラしてました。その体験から、私にはこういうところのほうが合っているなって思うようになったんです。
——ということは、ピーカンの山よりもガスっていたり、雨が降っていたりする時のほうが好きってことなんでしょうか。
もちろん晴れた日も好きですし、登るなら晴れてて欲しいなぁとは思います。けど、雨で鬱蒼としている山も好きなんです。山はそれ自体が特別なものですけど、雨の日の山はより特別に感じるっていうか。雨って世界を一瞬で変えるじゃないですか。だから雨の日は常に宝探ししている気分なんです。雨の山の魅力を知れて、自分は幸せ者だなって思います。
——ガスがかった風景って都心では見ることができないので、山ならではだし、自然の凄みを感じたりしますよね。
雨は山に限らず、地上でも好きですよ。普段は明るくワイワイしている街が、雨になるとガラッと変わって鬱々とした姿になりますよね。そういうところを見ていると自分が落ち着くんです(笑)。
——実はすごく根暗なんですね(笑)。でも山畑さんはキャンプや登山以外にも、クライミングやトレラン、自転車など、アウトドアアクティビティは偏りなく楽しんでいる印象があります。
登山をはじめたきっかけと同じように、やってる周りの人が楽しそうに話すんですよ。そういう姿を見てたら味わってみたくなるじゃないですか。好奇心と探求心ですよね。あとはもともとインドアで運動とかあまりしてこなかったので、体を動かすこと自体がすごく楽しいっていうのはあると思います。
——アウトドアアクティビティ以外でも、アロマセラピストの資格も持っていらっしゃいますよね。
はい、植物や自然が持っているものには理由があるんですよね、そこに思いを馳せるのが楽しいんです。それに、アロマも山も、もとを辿ると原点は自然。同じ舞台です。それなのに別のものとして思われているのが勿体ないなと思います。アロマについて勉強して植物に詳しくなれば、山に行っても楽しみ方が増えますし。
——私は初登山が屋久島だったんですけど、ど初心者の友人グループで登ったんです。屋久島って珍しい植物とかいっぱい生息しているのにそのあたりの知識がなくてただ登って写真撮って帰っただけでした。そういう意味でも、もっとガイドさんと一緒に登ったら面白い発見がありそうですよね。
まさにその通りです。もっと日本でもガイドさんと一緒に登っていろいろな山の楽しみ方を知ってほしいなと思っています。
——今後やっていきたいことは何かありますか?
私自身、アウトドアを知って変われたことが多いので、今後私がやりたいこととしては、エントリー向け、縁がなかった人にもっときっかけを作れるような仕事がしたいなと思っています。今まではメディア媒体に寄稿することが多かったんですけど、それだけではなくて、自分発信の何かを作っていけたらなって思っています。
——それは今すぐにでもぜひやってほしいですね。アウトドアが好きな方は、本当に考え方や生き方が素敵なので、もっとそれ以外の方にも知ってほしいなって思います。
星野道夫さんの言葉で、「僕たちが毎日を生きている瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい」というフレーズがあるんですけど、私はこの言葉に救われましたし、本当にそうだなって思っているんです。
こうして話している間も、山では山の時間が流れてますし、山を登っている時も地上では人々が営んでいる。日常生活だとどうしても目の前のことでいっぱいになっちゃいますけど、その時、必ずどこかで違う時間が流れているんです。それに気づけると考え方はガラッと変わってくると思います。
——これからもフリーで一人でやっていく予定なんですか?
私は結構人見知りしてしまう性格で、だからこそ、というのもありますが、それを払拭するためにもなるべく一人で行動するようにしています。一人であれば、自分から積極的に動くしかない。こうしてフリーのライターとして働くようになったのも、天文現象にはまって奄美大島へ一人旅に出た時に、アウトドア雑誌の「ランドネ」を編集している女性と知り合ったのがきっかけでした。
「百見は一体験に如かず」
というのが自分のポリシーです。「百聞は一見に如かず」という言葉がありますが、見るよりもさらに体験することが大事。行動あるのみ、行動すれば世界は広がるものだと思っています。
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