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個人の「利他の想い」が、育ち故郷のアウトドアを盛り上げるーWESTSIDE OUTDOOR FESTIVALー

桜も開花し、いよいよ今年もアウトドアイベントのシーズンが到来。

ここ数年、春から夏にかけて毎週のように各地で行なわれているアウトドアイベントですが、まだまだ開催地域は偏り、限定的。最新・選りすぐられた情報を得たくても得られない地域があるのです。

そこには、ちょっとした’おとなの事情’が見え隠れ。

けれども、そんな事情をある「個人」が変えます。

2017年4月1日〜4月2日、岡山県としては初となる、記念すべき大規模アウトドアイベント「WESTSIDE OUTDOOR FESTIVAL」が開催されました。

来場者数は2日間でのべ4,000人ほど。主要都市のイベントでもなかなか見られない人気のアウトドアブランド、著名人、最新ギアまでが勢揃いとなった本イベントは、どのようにして生まれたのでしょうか。そこに至った、大人の事情を抜きにした、熱きストーリーをレポートします。

発起人はシエル・ブルーの’ワカさん’こと、茨木一綺さん

「若い頃に世話になったキャンプ場のオーナーがはじめたアウトドアショップが、オープン1周年を迎えたんです。それを盛り上げたくて、このイベントを企画しました」

そう語るのは、人気ガレージブランド「Ciel Bleu(シエル・ブルー)」の茨木一綺さん、通称’ワカさん’。WESTSIDE OUTDOOR FESTIVALの発起人です。

当日も現場を仕切るシエル・ブルーのワカさん

「岡山県は、僕にとって育ち故郷。多感な高校時代を過ごして、それ以降もお世話になって。人生の半分を過ごした地なので想い入れがすごく強いんです」

今は埼玉県の東松山に住むワカさん。現地に住む方がイベントを開催する、というのならすんなり理解ができますが、遠く離れた地からこのイベントを持ちかけたというんだから、ワカさんの育ち故郷への情熱をうかがえ知れます。

1周年を迎えたアウトドアショップ「YUDAI ironworks Outdoorgarage」さん

岡山県はまだまだアウトドアの情報が入ってこない

慣れ親しんだ育ち故郷である、岡山県。アウトドアを楽しむ人も多くいる中で、関東地方にはない課題がまだまだあるといいます。

「岡山県ってこれまで大規模なアウトドアイベントがなかったんですよ。あるとすればショップやキャンプ場が主催するものですね。アウトドアが好きな人で情報収集に積極的な人は、最新情報をネットで手に入れたりはしているんですけど、やっぱりそれは少数派で。まだまだ関東に比べたら情報が入ってきにくいんです

確かに、岡山県やその近隣に本社を置くアウトドアメーカーは少なく、東日本からの輸送費もそれなりにかかります。そして、イベントを開催しても前例がないためどれだけの集客があるかは見当がつかないわけなので、なおさらメーカーも出店の足踏みをしやすい環境ではあったのでしょう。

キャンプサイトでは流行りのテントも並ぶ。情報が入ってきにくい中で、確実にその熱は高まってきている

絆と漢気で集まった、屈指の豪華プレーヤー

そんな中、当日は30を超えるブランド、ショップ、アクティビティが立ち並び、業界の著名人までもが勢ぞろいするという、関東でもなかなか見られない豪華ラインナップとなったのです。

「もう目が合えば『イベントよろしくね』って声かけてましたよ(笑)。当初は企画やリリースも遅れてしまって情報が少ない中だったんですけど、開催1ヶ月前くらいから『スケジュール調整できたら参加するよ!』ってどんどん出店者やゲストが集まってきてくれて。どれだけのお客さんが集まるか未知の中だったので、みんな漢気ひとつで協力してくれたんです

「ワカじゃなかったら、参加してないよ」

集まったゲストの方々は、口を揃えてそう言います。
お客さんたちも、雑誌やイベントでそれぞれ活躍する方が一堂に集まったことに驚いたのでないでしょうか。

普段はむしろ主催者側であることの多いゲストの方々が、今回はワカさんのサポート役に回ります。それぞれにお話をうかがっていて象徴的だったことがひとつ。彼らの口からは、ワカさんとの熱い絆を感じさせられる言葉がたくさん出てきたのです。

それぞれご紹介しましょう。

ムササビウイングの生みの親であり、旅人、文筆家として多数の書籍を出す堀田貴之さんはこう言います。

「彼は木材を使ってるでしょ、使わなくなったり朽ちても自然に還るものを作ってる。僕もそういうのを大切にしていて、旅をする時にバックパックに入るサイズのもので使っているんです。だから、彼とは根本的な考えはすごく近いものを感じていて。こいついいなぁって思っている人間の一人なんですよ。だから、彼から『西でイベントやるから来てください!』って頼まれた時は、ひとつ返事でいいよって言いましたよ。お金とかそういうんじゃない、ワカの情熱がこうしてみんなを集めてますよね

ワカさんが生み出す道具、そして考えから共感するようになったという堀田貴之さん

同じく、木材を扱う身として、知り合う前から息づかいや苦労など同じものを持っているだろうと感じていたという、DIYユニット『HAMMERS』の長野修平さん。

「ワカさんから『来てくれないか』って誘いが来た時、うれしくてうれしくて。もともと共感をしていた相手に、自分も仲間なんだって認めてもらえて『自分も頑張ろう』って気持ちになりました。木工をやる身って腰を痛めやすいんです、ワカさんのSNSの投稿を見ていたく分かります。だから、僕らもお客さんとしてじゃなくて、当事者として主体的にこのイベントを盛り上げてやろう!って気持ちですよ」

個人としてではなくHAMMERSとして呼んでくれたことも嬉しかったと語る、長野修平さん

トークライブでは同じ木材でのものづくりを行う4人で会話が弾んだ

つい先週は東京で自身が主催するアウトドアイベントを行った、快適生活研究家の田中ケンさん。ワカさんいはく、自身のイベントの時は緊張感持ってその場にいる姿を見ていただけに、今回のびのびと楽しんでくれている姿が印象的だったそう。

「数年前からの付き合いなんですけど、以前から僕のイベントに協力してくれていたんですよね。それで今回、岡山のアウトドアを盛り上げたいんだって話をもらって。そりゃ協力しますよね。これが成功すれば、西日本のアウトドアがもっと盛り上がるし、そしたらアウトドア業界全体も盛り上がるでしょ。きっとワカさんだってそういう想いでやってると思うんですよね」

ワカさんの自然体で謙虚な姿勢が人を惹きつける、と語ってくれた田中ケンさん

ゲストや出店者に必ず挨拶に行くワカさんの姿が印象的だった

日頃の恩返しでもある、と語るのは低山小道具研究家のモリカツさん。

「僕は車を持っていないんですけど、こういうイベントへの参加って車が必要じゃないですか。そういう時に以前からワカさんが車で乗せて行ってくれてたんです。今回も最寄り駅までは公共交通機関使いましたけど、そこからはワカさんが迎えに来てくれました」

他からの誘いだったら断ってたかも、と強い絆を見せてくれたモリカツさん

最後に、イラストレーターで女子キャンパーとしても各メディアで引っ張りだこのこいしゆうかさんからも、今回このように盛り上がりを見せたことについて印象的な言葉をもらいました。

「つい最近も私は別のイベントで岡山に来てたんですけど、今岡山はキャンプが盛り上がってるんです。去年と比べても持っているギアの種類が全然変わっていて。でもこれまで大きなイベントってなかったんですよね。それはたぶん、大きな声を挙げて取り組む人がいなかったり、業界をつないでくれる人がいなかったんだと思うんです。それを今回、ワカが初めてやってくれたんです

当初はなかなかスケジュールが合わなかったが、なんとか来ることができたという、こいしゆうかさん

WESTSIDE OUTDOOR FESTIVALの公式サイトもワカさんの手作り。最近はウェブに詳しい人であればもっと簡単にスタイリッシュなサイトを作ることができるわけですが、これも業者などの手を借りずに自身と仲間たちだけで作ったことが分かる、なんだか懐かしい気持ちになるサイトです。

こうして、ワカさんの日頃から仲間を大事にする姿勢と、育ち故郷である岡山県への情熱が形となった本イベントができあがったのです。

通好みのギアや当日から文字通り新発売の食器まで

「岡山もアウトドアは盛り上がってはきているけれど、まだまだ量販店とかに売っているギアしか見たことない人が多いんです。それだけじゃなくて、『こんなのもあるんだ!』っていう発見をしてほしくて」

そう話してくれたワカさんの言う通り、通好みのギアやアパレル、そしてまさにイベント当日から販売開始したというキャンプでも使える食器など、ジャンルレスなラインアップが来る人を飽きさせないのと同時に、ワカさんのネットワークの広さに驚きます。

イギリス発、世界中で人気のピザ釜オーブン「uuni」

数多くのアウトドアブランドとのコラボ商品も人気の「NATAL DESIGN」

この日販売開始となった、純日本製のホーロー食器「Platchamp」

岡山県を知る機会、地元の出店も多数

アウトドアブランドや著名人だけでなく、開催地である岡山県のことを知ることができる出店も多数用意されていました。今回は岡山県外からもたくさんのお客さんが来ていたということもあり、育ち故郷への恩返しとしても十分な成果だったのではないでしょうか。

開催地である真庭市産の湯けむり地鶏の焼き鳥。身は柔らかくジューシーで絶品でした

新庄村で生産されている、餅米の最高品種「ヒメノモチ」。初めて口にする食感は必食ですよ

他にも地元の飲食店やパン屋、おばちゃんたちの作る焼きそばなど、人でいっぱい

出店者たちが笑顔でお客さんと接客する様子も印象的でした。こうして県内外の方とまとまった形でコミュニケーションを取れる機会もそうは多くないはず。地元の方にとっても、この2日間はかけがえのない時間になったはずです。

岡山県から西日本のアウトドアを盛り上げたい

‘WESTSIDE OUTDOOR FESTIVAL’という名前にも、ワカさんの考えが詰まっているといいます。

「他にも、シャレた名前にしようかと悩んだんですけどね。けど『西日本でアウトドアの面白いことが起こるぞ』っていうことがわかりやすく伝わった方が良いじゃないですか。だからわかりやすく、この名前にしたんです。岡山県でのこの取り組みがきっかけで、西日本でももっとアウトドアが盛り上がってくれたらなって思います

育ち故郷への恩返し、世話になったキャンプ場オーナーのお店を盛大にお祝いする、そして岡山県から西日本のアウトドア文化をもっと盛り上げる。

昨今のニュースなどを見ていると、どうも自分勝手な人間が増えているように感じる日本社会。

けれども、このWESTSIDE OUTDOOR FESTIVALはワカさんの「利他」の精神で作り上げられた、とても心あたたまるイベントだったのです。

左はワカさんと二人三脚でシエル・ブルーを営む奥さんのアネゴさん。他にもお二人の親族総出で本イベントの現場を回していた

過去にも、個人で運営するアウトドアイベントはありました。けれどもそれも何かしらの理由で無くなってしまっていることが多い中、ぜひこのイベントはワカさんが繋いだ絆と仲間たちの漢気で、長く愛されてほしいなと感じます。

会場の受付で建てられたこのシェルター、実はワカさんがキャンプをはじめた時に購入したものなんだそうです。

自身のキャンプのはじまりを生んだシェルターが、岡山県初の大規模アウトドアイベントの入り口としてお客さんを迎え入れた。本イベントにはワカさんの想いがあちらこちらに散りばめられていたのでした。

*WESTSIDE OUTDOOR FESTIVALの公式サイト
http://www.westsideoutdoor.info/

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ライター:
羽田裕明