毎日の生活の中で、必ずと言っていいほど、目に触れる機会がある“木”。
山の麓の森はもちろん、あなたのお気に入りの家具も木だったり。私達に癒やしを与え、不思議とぬくもりを感じさせる、『自然』という概念には欠かせない存在です。
そんな木はどこでどのように育ち、誰がどのように管理しているのか、想像したことはありますか?
大都会東京の約4割は実は森林。その東京を舞台に林業を営む企業、“東京チェンソーズ”。今回は森林、そして林業の未来を担う代表の青木さんにお話を伺いました。
――まずはじめに、林業を始めたキッカケを教えて下さい。
最初は山仕事がやってみたくて、仕事を探していました。そんな時に東京都の失業率改善対策として、緊急雇用対策事業があったんです。
その中に半年限定の仕事が森林組合であったので早速応募しました。最初は本当に林道で草を苅るという仕事ばかりでしたよ。
契約期間の終わりに「ここで働かせて下さい!」と頼み込んで、森林組合で働くことが決まったんです。正式に林業を生業とできたのはそこからですかね。
現場作業員として5年間、森林組合で働かせて頂いた後に自分で会社を起こしました。
――どうして林業で起業しようと思ったんですか?
業界に課題意識はありました。労働環境も良いとはいえず、高齢化も進んでいましたし。
――そういった中でなかなか起業しようという勇気が湧きづらいのではないでしょうか?
勇気というよりは自分で切り開いて行きたいという気持ちが強かったですね。当時私が所属していた森林組合が合併し、組織として大きくなったタイミングでもあったんです。その中で一部の業務を外注化する動きもあったため、当面の仕事は確保できたこともあって、起業することができました。
――働いていた森林組合を抜けての起業は止められたのでは?
もちろん、引き止めて頂くこともありましたが、今は協力して林業を盛り上げています。結果として森林業界を活性化することができたのでよかったと思っています。
――ではそのような背景で立ち上がった東京チェンソーズについて教えてください。
「美しい森林を育み、活かし、届ける」という理念のもと、林業を始め、イベントや情報発信等を行っています。
ただ「森林を育む」と言っても差別化が図りづらく割と多くの人や会社が掲げていますが、私達は「美しい森林」という掲げ方をし、森林の美しさにこだわっています。
手がけている林業のメインは公共事業なんです。東京は実は面積の4割が森林なんですよ。しかもそのうちの9割は私有林なんです。森林にも細かく番地が振ってあって、そこの管理も山主さんに代わって私達が手掛けていることも多くあります。
――林業というと、具体的にどんなことをするんですか?
大きく分けると4つ工程があります。植え付け、下刈り、枝打ち、間伐。これが育林の流れです。
今は夏なのでちょうど下刈りです。木の下に生えている雑草をひたすら刈り取ります。
日光ももちろんですが、地熱も凄まじく、水を5L飲んでもすぐさま全て汗になってしまうんですよ(笑)
――木を切るのに最適な季節もあるんですか?
はい、秋冬は木の冬眠期間なので伐採を行います。その時期は水を上に吸い上げないので、効率的に木材の乾燥が行えるんです。
半年以上時間をかけて天然乾燥させることで、質の高い木材を生産することができます。人工乾燥と比べると、ツヤと香りが全く違うんですよ。
――間伐される木とそうでない木の違い等もあったりするんですか?
競争に負けた木は対象外になります。長く伸びている方が価値が高いということです。また、成長の遅いものや細すぎるものも負けてしまいます。
そういう木に育つよう、しっかりと管理することが大事で、その一つが枝打ちという作業です。木は外へ外へと育ちます。
養分が分散されないように枝打ちをきちんと行えば、幹がまっすぐ育ちます。また、日光が入りやすくなり、林内環境が明るくなりますから地温も上がって力強く成長するんですよ。
――今注力されている事業はなんですか?
『東京美林倶楽部』という2014年からスタートした新規事業です。
30年という長い年月をかけて、東京に美しい森林をつくるというプロジェクトです。入会資格は「30年という時間を楽しめる方」としています。
――なぜそのような事業をはじめたのですか?
林業というのはスパンが長く、来年はどれくらい採れて、という試算がしづらいんです。未来の木材環境もわからない、という状態が常につきまといます。
戦時中は燃料資材として、伐採がさかんに行われていました。終戦後、日本にはすっかり木材は残っておらず、国外から木を輸入するしかありませんでした。それによって森林を温存することができ、今の日本があります。
でもいつどうなるか、わからない。そこで、「将来のお客さんを先に見つけることはできないか」と考えてできたのがこのプロジェクトなんです。
また、都内の方が森林へ期待することのアンケート結果を見た時に、自然環境保全や自然体験という意見は多かったのですが、木材生産にはほとんど期待はなかったんです。
環境保全にもなり、自然体験をしながら、将来の林業を支える、全てを満たしているのがこの東京美林倶楽部なんです。
――実際に木を育てて、最終的にはどうなるのですか?
1口3本5万円から購入でき、3本のうち2本はプレゼント、1本は寄付として頂きます。
プレゼントした木は例えば引き出物に使ったり、家を建てた際の柱の一部や家具として使って頂くことを想定しています。
お子さんの成長と共に木を育てたいという方や、環境のために何かしたいと言って入会して下さる方が多いです。
――素敵ですね。最後に、どんな方に入会して頂きたいですか?
30年という時間を楽しめる人、これに尽きます。木は植えてから30年が一番手間がかかると言われています。その大切な30年を私達と一緒に丁寧に楽しんで欲しいです。未来の東京に美しい森林を残しましょう!
いかがでしたか?
日本が誇る大都市、東京。そこには私達の知らないこんな素敵な世界もあったのです。都会の喧騒から1時間とちょっと車を走らせれば、緑に囲まれたもう一つの東京に出会うことができます。
30年の思いが家族や環境に繋がるなんて、とても素敵ですよね。
自然、環境、山。それらに感謝を伝えるべく、木々に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
*東京チェンソーズHP
http://tokyo-chainsaws.jp/
*東京美林倶楽部
http://birin.club/