前回は「頂を踏まない山登りの楽しみ方」として、八ヶ岳の中腹にある山小屋までランチを食べに行きました。
そこで食べた生麺使用のパスタが予想以上に美味く、「これは他にもランチどころを開拓せねばっ!」と、都会のOLのごとく、おいしいランチが食べられる山小屋を求めて探索してみることにしました。
今回は八ヶ岳のお隣にある車山・霧ケ峰高原へ。コロボックルヒュッテという創立60年の山小屋を目指します。
車山高原は、八ヶ岳の西側に位置し、JR茅野駅からバスで60分。白樺湖などのリゾートエリアに隣接し、冬のスキー場としても有名で、車でのアプローチも簡単な場所です。夏場もスキー場のリフトが動いているため、体力に自信のない人はリフトに乗って楽に山頂を踏むことができます。
高い標高でありながらどこまでも続くゆるやかな傾斜の大草原を見渡せるのが、このエリアの魅力。風に吹かれて揺れる草原を見ながら、「どこかで見たことある風景だなあ」と思っていたら、昔流行った某SNSのログイン画面にそっくりでした。今にも青空にログインメニューが出てきそうです。
車山スキー場の駐車場で車を止め、まずは車山の山頂を目指します。
緩やかな登山道を1時間半ほど歩いて山頂を踏むこともできますが、駐車場に着いた時点ですでにお腹が空いて死にそうなので、ここはちょっとズルして山頂手前までリフトへ乗ることにしました。
地面すれすれで飛ぶグライダーのように、夏場のゲレンデをリフトが進みます。途中、二つ目のリフトに乗り換え、山麓から20分ほどで山頂付近に着きました。
大きな気象レーダードームが目印の車山山頂は、すでに多くの人で賑わっていました。開けた岩場の山頂からは、八ヶ岳と南アルプス。そして北アルプスや中央アルプスまでが見渡せます。
このまま山頂でぼんやりしていたい気分ですが、すぐに空腹がその気分を打ち消してしまいました。その先の目的地へと急ぐことにします。
車山山頂から霧ケ峰へとゆるやかに下り始めます。
見渡す限りの草原が広がる霧ケ峰高原。エアコンの名前にもなっている風が気持ちよく吹き、草木を揺らします。
こんな場所に小さな家でも建てて住めたら最高だなー。そんなことを妄想しながら30分ほど歩き、ニッコウキスゲが咲くポイントを過ぎると、今回の目的地、コロボックルヒュッテが見えてきました。
草原を見渡せる丘の上にたたずむコロボックルヒュッテは、広いウッドデッキと売店、宿からなる比較的大きな山小屋です。
いまではビーナスラインができてしまったので、車やバスでも簡単にアプローチが可能になってしまいましたが、オープンした当時は無人の高原が広がる地帯にたたずむ唯一の小屋だったそうで、この地を開拓する人々にとっての避難小屋でもありました。
30年前までは電気も通らず、ずっとランプ生活。水は300m下の沢から汲みあげ、雨水や雪も利用しながら生活水を確保していたそう。インフラが整った現在では、井戸水を堀り、電気ポンプでくみ上げ、生活用水を確保しています。
開放的なウッドデッキから小屋の中に入ってみると、様々な小物が並ぶ売店になっています。スイス製の古い生地を使ったオリジナルのレザーバッグなんてものまであります。
さて、さっそくランチです。入口近くにあるカウンターにあるメニューから、ロシア料理のボルシチ、バタートースト、そしてコーヒーをオーダー。ウッドデッキに座り、眼下に広がる広大な草原を眺めながらいただきます。
肉やジャガイモ、ニンジンがごろごろ入った、ちょっと酸味のあるスープは、程よい疲れにちょうどいい味。バターがたっぷりしみ込んだ分厚いバタートーストも食べ応えがあります。
そしてコーヒーはサイフォンで淹れた本格的なコーヒーは、口の中に余韻が残るしっかりとした味です。
このバタートーストとコーヒーを、朝早く起きて食べる、なんていうのもいいかもしれません。早朝の草原は、また違った空気をまとっているでしょう。
コロボックルヒュッテでは宿泊も受け付けていますし、いまではビーナスラインを通って車で来ることもできます。あまりにもお腹が空きすぎて歩けない場合は、車で来るのもいいかもしれません。
60年前はたどり着くのに数日かかったであろうこの草原も、いまではすっかり訪れやすくなりました。いまではすっかり観光地っぽくなってしまった部分もありますが、この小屋を見ていると、オープン当時から数少ない登山客や開拓者にとっての救いの場所であったのでしょう。
そんな当時の開拓時代のこの地の様子が、なんとなく伝わってくる気がしました。
※この山行は、5月と7月に登った際の写真を使用しています。時期によって景観や山の状況は異なりますので、事前に天候や状況をご確認の上、登るようお願い致します。