ハウツー・まとめ

大化の改新は「登山」からはじまった!?|『文系登山』をはじめよう!#01

新緑の季節の奈良の山は、見渡す限りどこもかしこも弾けるようなグリーンに包まれます。町なかにモリッと佇む低山は、まるで巨大なブロッコリーのよう。ムワッとした緑の匂いが嬉しくて、ついつい山に長居してしまいます。この日もうっかり過ごしてしまい、多武峰(とうのみね)の宿に入ったのは深夜のことでした。

登山、密談、大化の改新!

「大化の改新、やっちゃいますか?」

人気のないこの山の中で、こっそりそんな密談をしていたのでしょうか。

中大兄皇子と中臣鎌足。ここは、大化の改新で知られたこの二人が密談をするために登山した山です。神話好きにはたまらない三輪山や大和三山の南、桜で有名な吉野の山へ向かう途中にあるこの一帯は、中臣鎌足ゆかりの地として、今なお多くの人が訪れる山。亡くなってから「藤原」の姓を賜ったということで、後に「藤原鎌足」とも呼ばれ、多武峰に鎮座する談山神社のご祭神になっています。

そういえば、歴史の授業で最初に習った年号が「大化の改新」だったかな。645年。いわば当時の政治改革なわけですが、その始まりこそ、この山の中での談合がトリガーとなりました。それが由来となって、今では「談山(かたらいやま)」と呼ばれています。いい響きですね、語らいの山!

中大兄皇子と中臣鎌足もここから登山したわけですよね。いったいどんな服装して登ったんだろう?いつもの服装じゃないと、かえって怪しまれますよね。だってこっそり密談しに山に入っていくわけだから・・・いやその方が目立つか・・・

などと妄想しながら、談山神社のシンボルのひとつ「十三重塔」の裏手の登山口へ。よく整備された山道をゆっくり歩きます。そして、歴史的な1ページの始まりの場、談山の山頂(566m)へ。およそ10分ほどで到着と、登山というにはかなりライト。石碑には、よく見ると「御相談所」の文字が刻まれています。大化の改新のご相談所。確かに。

となりの御破裂山頂には鎌足公のお墓が

この山に来たら、ぜひとなりの御破裂山(ごはれつざん)にも行きましょう。その山頂は、なんと鎌足公のお墓(諸説あり)になっているのです。

歴史上の偉人、とくにいま個人的にテーマにしている人物のお墓参り登山をしている身(マニアックですみません)としては、これはスルーできません。というわけで、談山からさらに10分、618mの低山の山頂へさくっとハイクです。

ちょうど山頂の正面からは、数十メートルのまっすぐなアプローチ。静寂と厳粛に支配された雰囲気。しずかに歩み寄ると、ほどなく鳥居の前で周囲が広くなります。ここに鎌足公が眠っているわけです。静かに気持ちが高まっていくのがわかります。

階段をあがると鳥居があります。ここは合掌なのか、それとも二礼二拍手一礼なのか問題。麓の談山神社にはご祭神として祀られているので神社のお作法でしたが、ここは墓前、やはり合掌にしておきますかね・・・大事なのは気持ちです。

寺社仏閣は「裏」を確認すべし

日本各地の寺社仏閣を訪れると、拝殿でお参りをして帰ってしまう方が圧倒的に多い気がします。むやみに裏を侵すのはいけませんが、禁止されている場でなければ、周囲に気を配ったうえで裏側も拝見させてもらいましょう。

そんなわけで、このお墓の裏側には思わぬ大展望が待っています。神話に登場する二上山、大和三山(天香久山、畝傍山、耳成山)を眼下に収められる絶好の位置。鎌足公、この場所から町を見守っているのですね。よく見ると『大和さくらい100選』という看板があります。地元の方の目線で選ばれたビューポイントだそうです。なのに、写真がなくてごめんなさい!

旅の延長として楽しめる山歩き

気づくと、談山神社に観光に来たらしきシニアのみなさまが、おそらく町なかで過ごすのと変わらないような格好で歩いてきます。談山・御破裂山は、山とはいっても軽装でチャレンジできるのが良いところ。とはいえ、天候とか、山道状況とか、油断できないのが“山”でもあります。.HYAKKEI読者のみなさんは、油断せずに滑りにくい靴とか雨具をお忘れなく。

人に会ったら会話を交わし、旅の情報収集を怠らないのが、『文系登山』の腕の見せどころ。挨拶してちょっとした歴史談義に花を咲かせ、この近辺で巡ってきた場所を聞いてみました。するとみなさん、声をそろえて「どこも花が綺麗!」とのこと。そういえば、ここ談山神社も桜と紅葉の名所としても知られています。


・・・さて、地味に始まった『文系登山』ですが、こんな調子で旅の延長のように歩く山の楽しさを綴っていこうと思います。「山登りは苦手だけど、旅は好き!」というみなさんも、ぜひ“文系”な登山に挑戦してみてください。旅のフィールドが、ぐぐーんと広がりますよ!

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ライター:
大内 征