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まさにアイディアの塊!パーゴワークスの飽くなき探求心が生む“ユニークで本当に使える”製品

パーゴワークスの最大の魅力は、なんといっても製品の「独創性」と「実用性」のバランスのよさだ。その背景には、探求心とアイディア力、徹底的なユーザー目線を持ち、逐一製品に反映する実験精神があることに他ならない。

また、製品の企画からカタログ製作、プロモーションまでも一貫してプロデュースしているという点も、実に興味を惹かれる要素だ。

(株)パーゴワークス代表の斎藤徹さん。黄色のチェストバッグがこの春リリースされた4WAY仕様の「スイング(M)」

バックパックのショルダーベルトに「チェストバッグ」を装着し、それらを併用してより快適に山を歩く。そんな登山スタイルを確立する火付け役となったモデル、それがパーゴワークスを代表する製品「パスファインダー」だ。

初代モデルが誕生してから早13年。つねに「もっと使いやすく、もっと便利に」という思いで、このパスファインダーは改良が重ねられてきた。この春は、パスファインダーの兄弟的な立ち位置のモデルとして「スイング」というモデルもデビューしている。

ここ4,5年で、カメラバッグやファストパッキング向けのバックパック、さらには変幻自在にできるタープなど、独創的で魅力的な製品をラインナップし、今日本発のアウトドアブランド界で最も勢いのあるブランドと言ってもいい。

今回、そんなパーゴワークスの源泉を探るべく、東京都国分寺市にある事務所兼アトリエにお邪魔してきた。

アイディアは必ず「具現化」!

ーーまずは、ブランド立ち上げの経緯について教えてください。

斎藤:現在に至るまでの経緯を話すと長くなりますが、サイトウデザインを立ち上げたのは1998年。今から18年前、ぼくが27歳のときです。それまでは、学生時代にデザインの専門学校でプロダクトデザインについて学んでいたので、デザイン事務所やアウトドア関係の会社でデザインに携わる仕事をしていたんです。でも、その頃から“自分のブランドを立ち上げたい”という思いがあって。

ーー立ち上げ当初は、どんな製品をリリースしていたんですか?

斎藤:立ち上げから2011年までは、プロダクトデザイナーとして、いろいろなクライアントさんの仕事を受けつつ、その傍ら、オリジナル商品としてトレイルランニング(以下トレラン)用のバックパックを作りました。当時ぼく自身がトレランを楽しんでいたということもあって。最初は工場に外注するのではなく、すべて手作業でやっていたので、結構大変でした。
そんななか、気が付いたことがありました。ぼくは「職人」ではなく、「デザイナー」なんだな、と。同じものをいくつも作るのではなく、新しいものを作り続けたい。だから、1年間に8回くらい製品のアップデートをすることもありました。根っからのデザイナー気質だったんですよ。

ーーバックパックを手作り、とおっしゃいましたが、デザインだけでなく縫製の技術もあったんですか?

斎藤:習ったわけじゃないですが、小さい頃から縫いものが好きで、よくミシンを使っていました。で、中学生の頃には、既存のデイパックの改造をしたりして。ちなみに、そのときの現物がコレなんですけどね。

(左)小物を入れるため、上部に小型のジッパーポケットを縫い付け、メインジッパー部分の両サイドには革のベロをプラス。(右)ウエストバッグにナイロンテープを縫い付け、上着などを挟めるように改造

ーーえええ!すごい。これ思春期の中学生男子がやることじゃないですよね。

斎藤:小さい頃から釣りが好きで、釣りをするためにマウンテンバイクで移動していたので、きっと「ここにポケットがあったらいいのにな~、じゃあ改造しちゃえ」とか思っていたんでしょうね、当時のぼくは(笑)。

中学生の頃から、製作者としての才能の片鱗が見えていた斎藤さん。大人になってからは自転車を自作したり、庭に井戸を掘ってみたり、とにかく気になったことはなんでもやっちゃうんだとか

ユーザーが困らないように、デザイナーがトコトン苦悩する

ーートレラン用のバックパックの他には、どういったものを作っていたんですか?

斎藤:2003年に「ホーボー(Hobo Great Works)」という名のブランドを立ち上げました。旅好きの兄から、「旅で重宝するようなフロントバッグってない?」って聞かれて。で、兄に作ってあげたんです。それが「パスファインダー」の原点ですね。その後、大人の事情で「パーゴワークス」という屋号に変えまして。それが2011年のことです。東日本大震災をきっかけに、外注の仕事を受けるのはやめてアウトドア一本でやっていこう、そう決めてパーゴワークスが始動しました。

ホーボー名義でリリースしていた「パスファインダー」がこちら。初代モデルからはいくつかのアップデートを重ねている

右が現在のパーゴワークス名義の「パスファインダー」。斎藤さんもいちユーザーとして使い、気が付いたことを製品に反映。レインカバーがつくなど、より使いやすい仕様にパワーアップ

ーー製品のアイディアは、どんなところから浮かんでくるんですか?

斎藤:製品のことは常に考えていて、特にフロあがりにヒラめくことが多いですね。湿気のある個室っていうのが、どうやら脳にいいみたいで(笑)で、とりあえず忘れないように、すぐにアキ(斎藤さんの奥さまで事務を担当)に口頭で伝えて、夜中にメモ帳に書き込んでおいたりしています。

あっ、あと、外遊びに行く日の前日に、面白いアイディアが生まれやすいなぁ。ほら、パッキングするときって、どれ持っていこうかなとか考えるじゃないですか。そんなとき、もっとこんな風になってたらいいなぁとか、ヒラめくんですよね。

ーーでも四六時中、製品のこと、いわゆる仕事のことを考えているのって、大変じゃないですか? 息が抜けないというか。

斎藤:デザイナーというのは、ユーザーが使うときに悩んだり、困ったりしないように、悩みぬいてデザインをしているんですよね。ユーザーのために、辛抱強くトコトン考える。

ーーなるほど、深い…。たとえばですが、無意識に使っているパックパックのジッパーがスムーズに開閉できるのは、デザイナーさんが“スライドしやすいデザイン”を考えてくれているから、ってことでしょうか。

斎藤さん:はい。プロダクトデザインというのは、そういうことなんですよね。

バックパックのドリンクポケットの出っ張りが気になっていた斎藤さんは、あえてポケットを外付けせず表地を利用して収納できるデザインを考案。ポケット未使用時に邪魔にならず、見た目もスマートに。これも斎藤さんのヒラめきによるもの。写真のモデルは「カーゴ40」

アイディアをもとに作る試作品の数は、のべ30以上になることも

これらはすべて、「スイング」の仕様を決めるためのプロトタイプ(試作品)。3週間ほどで斎藤さんが30個以上作り上げた

ーー多くの場合、プロトタイプは工場に依頼していると思うのですが、齋藤さんは自らプロトタイプも作っているとか。

斎藤:はい、そうです。いくつも工場にお願いしていたら、その時点でコストがかかる。だから、外注して多くのプロトタイプを作るのは現実的ではありません。でも、ぼくの場合は自分で作ることができる。たくさんのアイディアを具現化して使い勝手を検証し、さらに細かく煮詰めていくことが可能になるんです。平面にスケッチするのと同じ感覚で、立体的なプロトタイプを作っている感じですね。

これが製品化された「スイング(M)」

2本のベルトループはサングラスホルダーとして機能。帽子や洋服の首元にかけていると不意に落としてしまう可能性があるが、これなら落下する心配がない。シンプルだがとても気の利くコワザである。腕時計の取り付けもOK

そして、新しい仲間との出会い

ーー話は変わりますが、現在は奥さまのアキさんに加え、企画・営業の樋口さんと、企画・デザインの新藤さんが加わり、4人体制で活動されていますよね。まず樋口さんは、どういった経緯で加わったんですか?

企画・営業担当の樋口壮一郎さん。2014年の夏頃に新加入

樋口:以前は、OD BOXというアウトドアショップに12年間ほど勤めていましたが、次のことをしたいと思い、仕事を辞めて海の近くに引っ越ししたんです。そんな中、斎藤さんから「ウチで仕事しないか?」と、たまたま声をかけていただいて。

ーーもともと斎藤さんとは面識が?

樋口:以前のお店でパーゴワークスの製品を販売していたので、当時は取引先として接点がありました。販売員のときからパーゴワークスの製品には興味がありましたし、すぐにまた会社に通いやすい場所へ引っ越しをして(笑)

山も海も大好きという樋口さん。特に水モノのアクティビティーが好きで、光来出沢を遡行したときの様子(写真提供:樋口さん)

ーーアウトドアとの出会いは?

樋口:高校生のとき、アメリカのアウトドアギアが大好きな友達がいて興味を持ちました。いまは無き「OUTDOOR EQUIPMENT」という雑誌がぼくのバイブルで、とても影響を受けましたね。で、18~19歳のとき、貯めたお金でマウンテンバイクを買って、キャンプツーリングを楽しんだりして。海や川に潜るのも大好きです。

斎藤:そういえば、カメ持って出勤してきたことがあったよね。

ーーえ?亀?

樋口:とにかく水遊びが好きなんで、出勤前に近所の小川でドジョウとかエビをすくっていたらカメを見つけて。で、会社に連れて行きました。

ーーなかなかのヘンタイですね…(笑)。続いて、新藤さんはどういった経緯だったのでしょう?

新藤:わたしは自分で服やバッグを作るのが好きで、バッグデザイナーとして長らく仕事をしていました。でも周りにはバッグ作りをしている人がいなくて。ずっと他のバッグデザイナーと話をしてみたいな~と思っていて、「MYOG(みょぐ)」というグループのオフ会に参加しました。

MYOGは、自作のアウトドアアイテムをインターネット上に公開して、他の人と共有できるサイトなんですけど。そのオフ会で斎藤さんと出会い、2015年の秋頃パーゴワークスへ加わりました。

X-PAC素材の美しさに惹かれ、同素材を仕様したバックパックを自作。写真は、香港に行った際、香港の友人に地元の山を案内してもらった時のもの(写真提供:klasn.com)

ーー新藤さんにもアウトドア経験が?

新藤:2年前にはじめて山デビューしました。みんなと違って、わたしの場合は最近ですね。最近海外へ行くと、積極的にアウトドアを楽しんでいます。

ーーアウトドア経験が豊富でギアに詳しい樋口さんと、バッグデザイナーとして多くの知識を持つ新藤さんとの出会い。まるで斎藤さんは、某マンガの主人公のようですよね。冒険している最中、素晴らしい仲間たちと出会って、目標を達成するべく強くなっていく…みたいな。

斎藤:そうかもしれませんね。最初は自宅でアキと2人だけでやっていましたから。頼もしい仲間たちです。

プロモーション活動も、自らコーディネート

「ニンジャタープ」というモデル名にちなみ、忍者を装った樋口さんが変幻自在に張れる製品の特徴をキャッチーに表現

ーーイベント出展やショップでの展示方法、そしてYoutubeへの投稿などでユーモアたっぷりな発信をされていますよね。特に「ニンジャタープ」の動画は、独自の世界観がはっきりしていて、見ていても面白い。こういったプロモーション活動はどうされているんですか?

斎藤:PRの仕方もすべて自分たちで考えてやっています。上の動画の撮影や編集もそうですが、販売店へ送る什器の製作なども我々のDIYによるものです。

「スイング」の専用什器もスタッフでDIY。木材をカットして組み立て、展示先で怪我が起きないよう角も落とす。製品とミニカタログ(これも自らプロデュース)を置けるようにし、高いアイキャッチを狙う

ーー製品の企画立案、プロトタイプ作り、カタログの製作、プロモーションまでを一貫してプロデュースする…。それって企業にとってはこれ以上ない、最強のマルチプレイヤーですよね。製品の企画でさえ、膨大な時間と発想力を要するはずなのに。

斎藤:実際には、そのために人を雇って予算をかけられないだけってところもありますが(笑)。そう思ってもらえると嬉しいですね。

今年4月に開催された「オフ・ザ・グリッド」に出展したときの様子。ただ単に製品を並べるのではなく、目をひくよう見せ方にも工夫がなされている

規模を大きくするより、純度をキープ

ーー最後に、今後の展望を教えていただけますか?

斎藤:「創業100年」、これが目標です(笑)。長く継続できるブランドにしていきたい。これからも、製品のクオリティーを落とさず、面白いと思ってもらえるようなモノ作りをしていきたいです。

ちなみに現在、わたしたちと一緒にパーゴワークスを盛り上げてくれるスタッフを募集中です!しょっちゅう山に行くほどトレランが好きで、多角的なリサーチ力に長けている20代の方。男女は問いません。フォトショップやイラストレーターなどの編集ソフトが使えて、一眼レフカメラも使えれば嬉しい。我こそは!という方、ご連絡をお待ちしています!

ーーパーゴワークスのみなさん、本日はありがとうございました。


人知れぬ努力と、ときには徹夜を重ね、唯一無二の発想をもって生れるパーゴワークスの製品には、製作者側の知恵と経験値が膨大に盛り込まれている。

製品への「愛情」と「情熱」、そしてユーザーへの「心遣い」。今回の取材でそれらを強く感じたことは言うまでもない。裏側の物語は、だから面白い。

*パーゴワークス
http://www.paagoworks.com/

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ライター:
山畑 理絵