カテゴリー: 体験レポート

アウトドア経験ゼロの人間が、雪中キャンプを体験してみた in 北海道美唄市

訪れたのは、豪雪地帯北海道美唄市。
美唄市が取り組んでいる「利雪のマチびばいプロジェクト」の一貫として、雪山での雪中キャンプが体験できる「ホワイトキャンプ美唄モニターツアー」の参加企業を募集しており、社員研修などに活かせるかもしれない。ということで参加されたそうです。

私を含めほぼアウトドア経験ゼロの4企業5人の男性が集まりました。各社それぞれが社員研修に活かせるかを体感し、ツアーが成り立つか検証結果を美唄市にフィードバックすることが、ツアーの目的でした。

会話のない5人

東京から飛行機で約1時間半、新千歳空港に出迎えに来られた美唄市職員の方と今夜の寝床になるキャンプ地へ車で移動。
車中初対面の参加者5人は、まず自己紹介をすることになったのですが、東京で働く疲れ切った男たちはそれ以上のコミュニケーションを取ることは無く、現場までの約1時間、外を眺めて過ごしていました。私の場合、他部署の方と参加しており、ここに来る前は話をしたこともなかったので、この5人で協力して夜を越せるのか少し不安でした。

空港を離れるにつれ、外は雪深い世界となり想像通りの北海道が現れます。

雪原に寝床を確保せよ

雪がない初夏から秋にかけてスポーツが楽しめるスポーツ広場、サン・スポーツランド美唄に到着。ここが本日のキャンプ地。テニスコートもサッカーゴールも8メートルの降雪の為、一面何もない絶好のキャンプ場所です。

ただ、アウトドアとは無縁の文化系男子5人が雪山でキャンプするのは無謀ですよね。

今回は年間300日を山で過ごされている山岳ガイド鳥羽隊長の指導のもと、まずは本日の寝床を確保します。必要な物は全て美唄市が用意してくださいました。

美唄の雪は水分量がきわめて少なくサラサラとしたパウダースノー。まずはテントの大きさに合わせて圧雪し(新雪を踏み固める)、焼結(氷の粒と粒が硬く結びつく)するのを待ちます。

圧雪された地面をスノーソーと言われる、雪を切り出す為の鋸で、固結された雪のブロックを切り出します。

切り出した雪ブロックを積み上げていき、風よけの為の雪壁を作ります。テントの高さ程度積み上げれば風除けとなり、熱が奪われることを軽減できます。

堀の中にテントを設置すれば今夜の寝床の完成です。

(一つのテントに男5名は狭いということで、二張り立てることになります。)

少しでも早く今夜の寝床を確保し、快適に寝たいという一心から、いつしか文化系男子達は、声を掛け合い自分たちの役割を見つけ、汗だくで寝床を完成させていました。

気がつくと辺りは吹雪に。

お腹を満たして寝る

汗だくになった身体を石炭ストーブで暖をとりながらクリームシチューを煮込み、夕食を作ります。味噌を隠し味に入れ疲れた体に塩分補給。

夕食後の風呂はなく、スマートフォンは寒さで電源が入りません。吹雪で星空観測もできません。自分たちが作った寝床しかないので、すぐ寝ることに。マイナス20度まで対応している寝袋に入り、その暖かさに寝袋もここまで来たかなど会話を楽しみます。

雪がしんしんと降ると言われるが、静まり返った雪山では、乾いた雪がテントに静かに降り積もり、まさにしんしんと雪が降っていました。朝、寝袋から出ている頭が少し寒いくらいなので、ネックウォーマーや顔まで隠れるニット帽などで防寒すれば、朝は快適に目覚められます。

少しでも温かいものが食べたい

朝食は少しでも温かいものを食べたい。そんな男たちの希望に応え、ガイドの鳥羽さんがホットドッグを作ることを提案しました。

具材を挟んだパンをアルミホイルで包み、牛乳パックに入れ、着火。
焦げ無い程度に炙り、ちょっとしたホットドッグの完成。

極限のキャンプ地で垣間見える、意外な互いの姿勢

朝食後給湯器もない台所で、冷水機よりも冷たい水で洗い物をしていると、昨日まで話したこともなかった人同士が「手伝います」と一言。

無視をすれば自由時間のところを、声を掛けたのです。たった1日一緒に寝ただけですが、お互いの意外な一面を知ることになります。
洗い物をしながら、お互いの抱える仕事の話や、家族の話、好きな俳優やTV番組のことなどを話す男達。美唄でキャンプをしなければ、恐らくこんなに話すことはなかったことでしょう。

テントや寝袋の片付けの際には、がさつそうな人が綺麗に畳む姿を見て、仕事から離れた場所で、仕事に対する意外な姿勢も垣間見ることができるのです。

雪山散歩、高まる結束力

山岳ガイドの鳥羽隊長が山を離れる前に、少し山の散策をしようと提案。
スノーシューを履き、山を散歩することになりました。30分くらいしてベースキャンプに戻るのかと思いきや、

「君たちなら行ける!どうせなら見晴らし台まで行きましょう!1時間半あれば登って降りてこられる!」

どうも普通に登れば2時間はかかるコースがあるのですが、時間が無いので、まっすぐに登り最短でアタックするようです。

こんなことになるとは思っていなかったので、誰も水を持ってきていませんでした。夏の山では致命的な失敗でしたが、隊長が上っ面の雪は綺麗だから、食べちゃいなよ!と言うものだから皆雪で水分補給をしていました。

なんとか目的地の「ふるさとの見える丘」に到着。美唄の街が一望できます。

登るときはあとどれくらい登れば良いのか予想がつかないから、不安でしんどいですが、帰りは下るだけなので皆駆け足で今来た道を10分で駆け下ります。
隊長が言った通り1時間半で登って下りました。

荷造りをし、山を離れる時に、皆が言います。

「雪と場所さえあれば雪中キャンプをまたできる。恐らくこのメンバーなら次はもっと早く寝床を作ることができる。」

当初は全く会話をしなかった男達がこんな結束のある言葉を交わすようになりました。アウトドアでの体験は本当に特別で、絆が生まれるのですね。

自分たちの作った寝床跡を見ながら男達はキャンプ地を後にしたのでした。

美唄市が『ホワイトキャンプ美唄』を企画した理由

最後に、なぜ美唄市がこのような企画を行ったかをうかがいました。

年間平均降雪量が約8mで、豪雪地帯の北海道美唄市は、やっかいものの「雪」を「見方を変えて味方」にし、雪エネルギーとして活用する利雪の先進地なんだそうです。

雪エネルギーは、冬に降る雪を夏まで保存し、夏場の冷熱エネルギーとして活用するもので、美唄市には11カ所の雪冷房導入施設が稼働しています。そうした「利雪」による街づくりを進めるため、美唄市では、利雪関係団体などと連携して、ホワイトデータセンター構想や食料備蓄基地構想、スノーフードのブランド化などを進めています。

一方で、気候の関係から、水分の量がきわめて少なくサラサラとしたパウダースノーが楽しめる冬場でも、魅力的な親雪事業の展開が期待できるのです。

こうした背景から、かつて炭鉱の街として栄えた美唄市が、石炭の「黒いダイヤ」から、雪の「白いダイヤ」へをキーワードに利雪・親雪を強くアピール。雪国のハンデを利点に変える豊かな発想のまちを目指しているわけです。

そして、雪に関連した産業振興、首都圏からのサテライトオフィス誘致などのきっかけづくりとして雪中社員研修プログラムを企画開発するため、今回、「ホワイトキャンプ美唄モニターツアー」を開催したんだそうです。

広がる体験、それを活かす自治体

よっぽどアウトドアが好きでないと体験できない雪中キャンプ。それを通じて他人同士だった参加者が固い絆で結ばれ、貴重な体験となる。
招待した自治体としてはその体験をフィードバックしてもらい、その後の活動に活かす。

参加者、企画者の双方にとって良い機会を生み出す取り組みでした。また来年、今回のメンバーが自力で雪中キャンプを楽しんでいたらとても面白いですね。

*美唄市企業誘致サイト
http://www.city.bibai.hokkaido.jp/jyumin/docs/2015090300044/

*美唄ファンポータルサイトPiPa
http://www.pipaoi.jp/index.phtml

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ライター:
森 悟司