MONORALというガレージブランドをご存知ですか?
ガレージブランドの魅力は、独自のこだわりとそこから生まれる斬新なギア、そしてそこから広がるキャンプスタイルですが、決して流行りは追わない開発で“道具好き”を虜にしているのがMONORAL。その斬新なギアはどのような考えで生まれているのか、代表の角南さんにお話をうかがいました。
——今回はよろしくお願いします。最初から余談ですが、オフィスが東京・町田にあるんですね。私の地元なのでびっくりしました。
角南さん(以下角南):そうでしたか。町田出身の方はこのまちが好きなようで、いずれ戻って来られる方が多いそうですね。わたしも適度に活気があって好きですよ。
——角南さんが経営されている、TSDESIGNはいわゆるデザイン事務所と様々な事業をされているとうかがいました。こうしてアウトドアのガレージブランドを始めたのは何故だったのでしょうか?
角南:私たちは2010年にブランドを立ち上げたのですが、アウトドア業界は革新的なものが生まれやすく、ユーザーも今迄にないものを受け入れやすいと思っています。私自身もアウトドアが好きで、アクティビティよりも道具マニアだったということもあり、MONORALをはじめました。
——プロダクトデザイナーという立場から見ても、アウトドア業界はかなり魅力的だったということですね。
角南:そうですね。私たちはデザインの仕事をする上で、「特徴的であること・わかりやすいこと ・効果的であること」この3つが商品を成功に導くポイントだと考えていますが、それにも合致する業界だと思っています。
——“マイクロキャンピング”というコンセプトをMONORALでは打ち出していらっしゃいますが、こちらの背景を教えて頂けますか?
角南:マイクロキャンピングは、私自身のキャンプスタイルなんです。もともと自転車乗りで、学生時代は自転車で100泊くらいして野宿をしていました。そうなると必然的に自転車に積めるだけのギアじゃないといけないんですよ。
——キャンプツーリングをされていたんですね。日本ではそこまではメジャーなスタイルではないですよね。
角南:それが狙い目だったんです。今って先鋭的な山用かゴージャスなキャンプという2極化していると思っていて、マイクロキャンピングはエアーポケットだったんです。ですので、リラックスキャンプが目的なんだけどコンパクトにまとまるギア作り、を目指しています。
——自身のスタイルと、今誰も手をつけていない領域がキレイにフィットしたんですね。MONORALを使っているユーザーはどんな方が多いのでしょうか?
角南:大きく分けると2パターンです。まずは「大きな車を持っていない方」。女の子で車を持っていなくて、全部バックパックに詰めていく方や、オートバイツーリングをされる方、カヤックをされる方、などです。
——女性の方も使っているんですね!てっきり道具好きな男性が大半かと思っていました。
角南:女子キャンパーで有名なこいしゆうかさんも、MONORALの焚き火台をおすすめしてくださっていたことがありました。そして、もう1つのパターンが「普通のキャンプギアじゃ嫌な方」です。キャンプはしたいけどよく見るキャンプ用品は使いたくない、であったり、イメージが定着していた絵に書いたような道具を使いたくない方ですね。
——現行のプロダクトは、どういった順で開発されたんですか?
角南:まずは焚き火台ですね。一番作りやすくて特徴を出しやすかったので。そして次に焚き火台のオプショングッズ、その次にタープで、タープのオプショングッズと続きます。
——プロダクト開発において、コンセプトをどう体現しているんですか?
角南:開発の裏テーマは“HACK”です。難しい問題を簡単に解決するモノづくりを行っています。
焚き火台でいえば、従来のものはやはり持ち運びに課題があったと思っていますが、それを「布・柔らかい・使い捨て」という形で特徴を出して解決しています。
——この焚き火台は本当にデザインも優れているし、今までにないプロダクトですよね。常に持ち歩いていつでも焚き火したい気分です。
角南:MONORALの中でも一番人気ですね。焚き火セットのケースも作っています。
——これさえあれば、本当にどこにでも焚き火しに行けますね!タープにはどんなアイディアがあるんですか?
角南:まずは色ですね。薄色のブルーを採用していて、空と同じような色になっています。そして普通は遮光なのですがこのタープは光を通します。これは開放感という課題に対するアプローチです。
そして、設営が難しいタープですが、これはポールからペグを打つ位置が分かるよう設計されていて、1人でも簡単に設営することができるんです。もともと私はタープを持っていなくて、それは設営するのが面倒だったからなんです。だったら自分で作ってしまおうと思って作りました。
商品開発の軸というのはいくつかあると思っていて、世に出ている同じようなものをより安く作るのも価値がありますし、今はお客様がいない市場を新たに作る、というのも価値です。私たちはその中で、“オリジナリティ”にこだわって開発をしています。
——確かに、2010年に立ち上げたのに対して、まだ商品数は少なくカテゴリとしても焚き火台とタープですもんね、すごくこだわりを感じます。どのくらいの制作期間を置かれているんですか?
角南:ゆっくりとモノづくりをしています。ひとつの商品を作るのに3年くらいはかけていると思います。企画・試作・作り直し、の連続ですが1度作った商品は10年売るつもりで作っています。
——そこまでじっくり作られていると、ユーザーもリピーターというかファンが多そうですね。
角南:ありがたいことに、メールで「MONORALにこういうのを作ってほしい。MONORALが作ってくれたら絶対買うよ」と頂いたり、電話で「最高です」と頂いたりすることがあります。お客様の方がメーカーよりも頭が柔軟で、色々な形を受け入れてくれるんです。
——開発にあたってはどんなお考えで向き合っているのでしょうか?
角南:プロダクト開発って難しいんです。色々なことを思いついても、前例がないことをやるのは勇気がいります。新しいものは、機能性や品質面でマイナスがあることが多いのでリスクがあるのですが、それをカバーするだけのプラス要素があれば育っていきます。マイナスがどんなに大きくてもプラスがそれを上回れば良いんですね。
分かりやすい例が、ちょっと古いですが、シャープさんの液晶ビューカムです。
それまでは皆ファインダーを覗いてビデオを撮影していたところを、はじめてファインダーを廃止して液晶パネルを見ながら撮影するスタイルを具体化したのが液晶ビューカムです。液晶パネルは屋外だと反射して見にくいし、バッテリーが持たない等のマイナス面はいっぱいあったんですが、ユーザーにとっては見やすいし再生もすぐできる、というプラスの面が上回って爆発的にヒットしましたよね。他のメーカーもアイディア自体はあったけれど、マイナス面が気になって手をつけなかった。
私たちもそういうモノづくりをしていきたいと考えています。
——既成のプロダクトにもそういったプラス面、マイナス面のバランスがあるのでしょうか?
角南:タープで言えば、このカラーは汚れが目立つとかフィールドで奇抜過ぎて目立つといった面がマイナスです。一方で、タープの魅力というのはオープンだけどプライベートな空間が作れること、雨が降っても大丈夫なところだと思っていますが、天気が良ければこのカラーによってオープンで気持ちが良いですし、見た目が明るいので雨が降ったとしても暗くなりにくいですよね。そういったプラス面が上回ると考えて開発しています。
焚き火台は、布にしたのは携帯性というプラス面を考えたからで、布で焚き火をするということ自体も掴みとして面白いと思って作りました。マイナス面は消耗品で駄目になってしまう、という点ですよね。
——マイナスのない、完璧なプロダクトを作るのは難しいのでしょうか?
角南:それは資金の問題ですね、お金があれば100%完璧なプロダクトは作れると思っていますが、私たちのようなガレージブランドはそれができないので、プラスとマイナスを考えてモノづくりをしないといけません。本当は脱サラした十年以上前からガレージブランドはやろうと思っていたんですが、それも資金の面の問題で、先にデザイン事務所を軌道に乗せてからと考えました。
——MONORALの今後の展望を教えてください。
角南:最終的にはMONORALの商品を持っていればパッとキャンプに行ける。それらを積めるようなキャリーカートを作る、というかたちを実現したいですね。2020年頃を目標にしています。
今までにない、新しい価値を生むギアづくりを行うMONORAL。今は水面下で新しいプロダクトの開発もしているそう。これからもアウトドアをHACKする彼らのギアに大注目です。
*MONORAL
http://www.monoral.jp/index.html