アウトドアで飲むコーヒーはゆっくりと流れる時間も含め格別なもの。
こちらの連載ではそんなアウトドアとコーヒーの関係性について、自身でも焙煎をするほどコーヒー好きな著者が様々な方にお話を伺いながら深掘りをしていきます。
第一弾はサードウェーブコーヒーの火付け役として名高い「ブルーボトルコーヒー」。今回はそんなブルーボトルコーヒーでシニアクオリティ&イノベーションマネージャーを務めるケビン・サクストンさんにお話を伺ってきました。
日本、韓国、香港にあるアジア全域のブルーボトルコーヒーで品質管理を担当するケビンさん。まずはそのお仕事についてお話を伺います。
「私の主な仕事はコーヒー農園から仕入れた豆を焙煎するところから、お客様のカップに届くまでの品質を管理することにあります。お客様の手元に届くまでには農園、輸送、焙煎、梱包そして最後にコーヒーを抽出するバリスタと多くの人々が関わっており、一人だけで全てを完結することはできません。私たちは1つの大きなチームとして動いており、全員で同じゴールを目指し、達成できるようディレクションすることが私の大切な役割になります」。
仕事柄様々な国を訪れてきたケビンさんにとって、アウトドアで過ごす時間は特別な意味を持っているのだそう。
「私にとって自然はあらゆる場所を繋げてくれる特別な存在です。日本とアメリカ、コーヒー農園のあるミャンマーやスマトラまで、生息する植物や動物は異なりますが、どこの自然にも繋がるものがあると感じています。そこに境目はなく、また必要もありません」。
清澄白河にあるフラッグシップ店舗のオープンに合わせて来日し、日本での生活も7年目を迎えるというケビンさん。東京に来てからは以前にも増して自然を意識するようになったと言います。
「例えば、カリフォルニアでは車を20分も走らせれば美しい自然を見ることができましたが、東京では計画を立てなければそうした景色と出会うことはありません。この街に住んでからはより一層、自然との繋がりを意識するようになったと感じています」。
私たちの日常は光や音で溢れています。日々の生活の中で、私たちは無意識にそうしたものに感覚を閉ざしているのではないかとケビンさんは考えます。
「自然の中ではそうした無意識の抑圧から解放されます。静かな環境の中、普段では聴き逃してしまうような僅かな音まで聴くことができるのです。感覚はオープンになり、様々なことを受け入れられるようになると感じています」。
「環境は味覚に大きな影響を及ぼします」。品質管理の一環でテイスティングをする際は、外の影響を受けない部屋で常に決まった方法で味を確認するのだそう。
「例えば同じコーヒーを飲む場合でも、自分の部屋とカフェやレストランでは全く異なった経験をすることになるでしょう」と、ケビンさんは語ります。
アウトドアという環境はその中でも特に際立っています。「自然の中で私たちはメールを確認することもなく、ゆっくりとコーヒーを楽しむことができます。感覚が研ぎ澄まされるため、同じものでもいつも以上に美味しく感じるでしょう。」目の前の事柄に集中できる、アウトドアの持つそうした側面もケビンさんは好んでいるのだそうです。
環境が影響を及ぼすのはもちろん、私たちの味覚だけではありません。例えば、山の上では標高に応じて沸点が変化します。「コーヒーにおいて水は重要な要素です。コーヒーの98%以上は水ですから」と語るケビンさんですが、アウトドアではそうした沸点の変化のような変数を受け入れることも大切だと考えます。
「コーヒーに決まった味というものは存在しません。私たちはもっと自由にコーヒー楽しむことができるのです」。
普段からミニマルな暮らしを意識しているというケビンさんは、アウトドアでも極力荷物を少なくするのだそう。
「多くの道具を持っていくことはありません。シンプルなドリップ器具とカップくらいです。人数が多いときには抽出の楽なフレンチプレスを持っていくこともあります」。
ケビンさんが教えてくれるプロだからこその楽しみ方もコーヒーの懐の深さを感じさせてくれます。「テイスティングをするときにカッピングという手法を用いますが、これはアウトドアでも応用できます。カップにコーヒー豆を入れて、お湯を注いで少し待ってから混ぜて表面に浮かぶコーヒー粉を取り除き飲む。カップだけあればいいので簡単です。これはフレンチプレスのような味になりますね」。
多くの人々にとって、コーヒーはお店やカフェで購入するもの。ブルーボトルコーヒーではそれらが果実由来であることや、国や産地による特徴があること、そうした背景を大切にしているのだそう。
ケビンさんにとってアウトドアでコーヒーを飲むことは「コーヒーが植物であり、自然の中で育ったものである」という原点との繋がりを再認識させてくれる機会でもあるのだと言います。
ブルーボトルコーヒーではオールシーズンのブレンドと、その時期ごとのシングルオリジンを取り揃えています。今回は数あるコーヒーの中からアウトドアにオススメのコーヒーを2つ選んでいただきました。
ケビンさんがまず手に取ったのがこちら「ベラ・ドノヴァン」。
「エチオピアのフルーティーさが特徴のブレンドです。チョコレートのようなキャラクターを持つ他産地のコーヒー豆と組み合わせることにより、深みのあるワインのようなフレーバーを持たせています」。
実際に抽出してみると、エチオピア特有の華やかな香りを感じながらもしっかりと奥行きがあり、ゆっくりと楽しむアウトドアコーヒーに最適な味でした。
続いて手に取ったのは少し意外なインスタントコーヒー。
ブルーボトルコーヒーならではの独自製法により、一杯ずつハンドドリップされたコーヒーのような豊かな香りと味がするのだそう。
臨機応変に飲み方を変えることができるのもインスタントの利点だと言います。
「お湯の量を調整することでエスプレッソベースのようなドリンクを作ることもできますし、牛乳で割ってもいいですね。」というケビンさんの言葉に、インスタントコーヒーの良さを再発見しました。
コーヒーの原点としてアウトドアとのつながりを大切にしているブルーボトルコーヒー。現在、ケビンさんを中心として「アウトドアブレンド」を考案しているとのこと。
ブルーボトルコーヒーが進めるアウトドアの展開にますます目が離せなくなりそうです。
ブルーボトルコーヒー
Coffee in Nature