秋は焚き火が楽しい季節だ。
夏よりも早くに訪れる夕暮れは、キラキラとした光に目を細めているうちにあっという間に薄青へと変わる。空の変化、そして少しだけ冬の気配を感じさせる風のにおい。
秋の夜の気配はこれからはじまる焚き火への期待を、否が応でも高めてくれる。
我が家の焚き火台は、炭を使ったＢＢＱと兼用できるタイプ。まずは肉や魚を焼いて腹を満たし、そのあとはゆっくりと焚き火の火を楽しむ。もちろんクーラーボックスにはたっぷりのビールを用意してだ。
焚き火の魅力はなんといっても「火」。ゆらゆらと揺れる炎を見ているうちに、心の中のもやもやは静かに解きほぐされていく。しかしそれと同時に焚き火の「煙」もわたしは魅力のひとつだと思っている。まっすぐに空へと立ち昇り、ゆっくりと周囲のものを燻していく煙。
今回はそんな焚き火の「火」と「煙」にあうビールをご紹介したいと思う。
焚き火に合うビールを造っているのは「六島浜醸造所」。岡山県最南端にある、六島という人口60人の小さな離島にあるブルワリーだ。
六島浜醸造所は波止場の近くにある。朝焼けの輝くような海、夕方の神々しい海、真っ暗で吸い込まれそうな海。ブルワーの井関さんは日々変わりゆく海の表情を見ながら、一本一本に情熱と魂を溶かし込みながらビールの仕込みを行っている。
だからだろうか。六島浜醸造所のビールはどれも口にした瞬間に、身体の中へ一気に染み込んでいくような味わいだ。
六島浜醸造所の定番ビールは現在3種類。「麦のはじまり（セゾンビール）」、「ドラム缶会議（ラオホ）」、「北木島オイスタースタウト（スタウト）」。そのどれもが焚き火とよくあう。
焚き火の火おこしの際、まずは乾杯で飲みたいのが「麦のはじまり」だ。セゾンスタイルのこのビールは、華やかな香りでフルーティな味わい。最後に麦のあまみがふわりと広がる。軽やかでキレが良く、ぐいぐいと飲みたくなるビールだ。
このセゾンとは、かつてベルギーで農作業の合間に飲まれていたビアスタイル。汗をかいた後に飲むのにぴったりなこのビールは、火とまっ正面から向かいあう火おこしのお供にとても最適なのだ。
バーベキューと一緒に楽しみたいのが、「北木島オイスタースタウト」。牡蠣の殻も身も使用した、深みある黒ビールだ。
麦芽由来の香ばしさの奥に漂う、カラメルやバニラのようなまろやかな香り。それらが赤身の肉によく合う。しかし一番相性がいいのは焼き牡蠣だ。
牡蠣を使ったビールだからなのだろうか。まろやかさが引き立ち、お互いのいいところを引き立たせながら溶け合う。だんだんと暗くなる空を眺めながら、飲む北木島オイスタースタウトは何ものにも代えがたい味わいだ。
食後、焚き火を囲みながら飲むのにオススメしたいのは「ドラム缶会議」だ。このビールのスタイルはラオホ。ドイツ語で「煙」を意味する、燻製麦芽を使用したビールだ。
注いだ瞬間から立つ燻製の香り。口に含むと気持ちのよいスモーキーさと、珈琲を思わせる焙煎香が柔らかな酸味と共に広がる。そして続くは、濃厚なコクと麦のうまみ。
幾重にも折り重なったようなうまみが、口の中に広がる1本だ。
このビールの名前「ドラム缶会議」とは、六島の文化のひとつだという。居酒屋がない六島では、毎日夕方になると島の人々がビールとおつまみを手に波止場へと集まってくる。
そしてそこに置かれているドラム缶に火をくべ、暖をとったり、魚などを焼きながら酒を酌み交わす。いつしかドラム缶会議と呼ばれるようになったそれを、表現したビールがこのラオホビール、ドラム缶会議だ。
焚き火の火や煙に、とにかくこのビールはあう。
長い時間火と向かいあっていたから、そして誰かと語らっていたからこそ染み付いたにおいを表現したこのビールは、焚き火の醍醐味のようなものも一緒に伝えてくれるような気がするのだ。
自然の中では、何を飲んでも正直おいしい。感覚が研ぎ澄まされてるからか、ビールの味わいがよりクリアに、そして力強く感じられるのだ。
だからこそ「今回はこれを楽しみたい」というものに合わせてビールを選ぶと、キャンプ自体が飛躍的におもしろくなる。舌が、身体が震え、高ぶる気持ちを全力で目の前のものに向かわせてくれるからなのかもしれない。
そしてまた、クラフトビールはわたしたちをまだ見ぬ地へと連れて行ってくれる。焚き火という非日常を楽しみながら、瀬戸内海の小さな離島に想いを馳せる。そんなキャンプの夜の楽しみ方があってもいいのではないだろうか。
【六島浜醸造所】
https://mushimahamajo.amebaownd.com/
オンラインショップ（今回ご紹介した3本のセット）
https://hamajo.stores.jp/items/600aa4e0318625511c43d5a4
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