登山での身近な危険のひとつと言えば、「低体温症」を思い浮かべる人は少なくないはず。しかし、言葉はなんとなく知っていても、低体温症の危険性についてあまり詳しくない人も見られます。
実は低体温症は、危険の一歩手前という「体からのサイン」。そのサインを見逃さないためにも、装備と知識を身につけて危険を回避しましょう!
・強い疲労感がでる(普段の体調不良のような症状に似ている)
・周囲への関心が薄れ、記憶力が低下する
・足がもつれたり、うまく歩けなくなったりする(周りについていけない)
・体が勝手に震えてくる
・思考能力が低下してくる(どうでもよくなってくる)
・立てない
・震えも起きなくなる
・震えが起きないので、さらに体温低下してても気が付かない
・自力回復ができない
・うとうとして眠気がくる
・意識がもうろうとする
・心停止
日常生活では、心停止までいくことは想像しにくいですが、山となると話は別。上記でご紹介した初期症状や身の危険を感じた人もいるのではないでしょうか?
まずは、低体温症が誰にでも起こりうることを認識しましょう。
登山で低体温症になる主な原因は、汗や雨などによる体の「濡れ」です。そこへさらに風が吹いたり外気に触れたりすることによって、体温は低下していきます。
登山で汗をかく、山で雨が降るのは、当然のことです。冬はもちろん危険ですが、夏に日帰りだからと軽装で登山に行って道に迷ってしまい、日が暮れてしまった。「夏だから大丈夫」だと一夜を明かしたら、朝方になってから露でウェアが濡れて、知らない間に低体温症で亡くなってしまったというケースもあります。
夏はいくら薄着でも汗をかきます。なるべく通気性が高く乾きやすいものを着て、日帰りでも1枚は替えを持っていきましょう。風よけなどの薄手のジャケットで、防水のタイプのものは、雨具にもなって便利です。
冬山での服装は特に重要です。アプローチ中は寒いので着込みがちですが、「汗をかかないギリギリの薄着」が基本。ファースト(ベース)レイヤーやアンダーウェア(一番下に着るもの)は、なるべく通気性が高いものがベスト。
次に着るセカンド(ミドル)レイヤーは、通気性が高く水分を逃がし、なおかつ保温性があるとベスト。このファーストレイヤーとセカンドレイヤーの組み合わせを、うまく調整できるようになりましょう。
一番上に着るのがアウトウェア。登りの急斜面などで着ると、大汗をかく原因になるので注意しましょう。雨が降り始めてしまったり、汗をあまりかかない下りで寒かったりする場合に、さっと着られるように準備しておきます。私はレインウェアの代わりにもなる、防水素材のハードシェルを着ています。
最初は汗をかかなくても、急斜面を登ると息があがったり汗をかいたりしますよね。着替える場所も、登山では簡単に見つかりません。緩やかな登りでは、なるべく急がずに一定の歩幅で歩くことを意識し、ゆっくり体力を温存しながら登りましょう。
休憩を長くとりすぎると、体温の低下や疲労の原因になります。一定のペースでゆっくり歩きながら、30~45分に一度はこまめに休憩しましょう。休憩時間には、主に行動食を食べたり、水分補給をしたりします。
冬は夏に比べて、10%から20%余分にエネルギーが必要になると言われています。吸収の早い糖分を一気に体に入れても、インスリンの働きが過剰になって血糖の状態から抜け出せません。
そのため、特に冬の登山では高カロリーで食べやすいものを意識します。ミックスナッツ、チョコレートバー、ようかん、ゼリー飲料などがオススメです。乾燥している冬山では、急斜面を登りながら息を吐くだけでも水分が蒸発するので、水分も忘れずに補給します。
体温調整が必要になる部位は、血管の集まる首と脇の下、お腹が基本です。
「汗をかいてきたな」と思ったら、脇の下にベンチレーションが付いているタイプのウェアであれば、解放したり首のファスナーを少しおろしたりします。
逆に寒いと思った時は、すぐにネックウォーマーなどを活用します。
冬用のパンツなどは、暑くても脱ぎづらく温度調整が難しいこともあるので、中にタイツを履いたりレインウェアを活用したりするのはとても効果的です。雨が降りそうな天気の時は休憩中などに履いておくと、雨が降り出した時に濡れずに寒さ防止にもなり、慌てずに済むためおすすめです。
最後に、持っていると便利な「日本手ぬぐい」をご紹介します。着替えを持っていない時は、肌とファーストレイヤーの間に挟んで汗を吸収し、寒い時にはマフラーに、そしてさらに寒い時には耳や鼻の防寒に使えます。
日本手ぬぐいは端が未処理なので、簡単にやぶけます。包帯や紐としても活用でき、ケガをした時の応急処置にも役立ちます。アルプスの山小屋では、オリジナル手ぬぐいも販売されているので、お土産として買ってザックに入れておくと、いざという時に役立つかもしれません!
低体温症はある一定の低体温時から一気に加速し、あっという間に動けなくなってしまいます。レイヤーなどは軽く、機能的なものなど日々進化しているので、情報収集はこまめに行っておきましょう。
低体温症には明確なマニュアルがなく、登る山やその日の天気、自分の体調によって対処法は変わってきます。そのため、自分で予防できる知識や装備を覚えましょう。
最後に、「低体温症になりそうだ」と危険を感じた場合には、すぐに体を温めましょう。貼るタイプのホッカイロをお腹(服の上)に貼り、血管を温めると効果的です。ホッカイロのような、すぐに体を温められる道具もザックに入れておきましょう。