山の麓で暮らす、というと、「なにもしないでのんびり暮らす」、「ひっそりと静かに暮らす」といったイメージが浮かぶかもしれません。
しかし、自然の中に身を置き、山や木々、雄大な風景を見ていると、不思議と活力や行動力まで高まってくるように感じます。
実際、八ヶ岳の生活の中で出会う人々は、皆行動力に溢れ、何か面白いことをしようとしている人ばかり。
話を聞く中で共通して浮き彫りになるのは、「ここだから、やろうと思った」という、土地や自然環境と結びついた動機でした。
今回は本業とは別にカフェを営み、地元のコミュニティーに素敵な出会いをもたらす夫婦のお話をご紹介します。
長野県諏訪郡富士見町にあるカフェ小舟。
小さな町の中心地にあるこのカフェは、白を基調にした落ち着きのある空間で、友人らと落ち着いてゆっくり話すにはぴったりな場所です。
同じ富士見町にあるコーヒー焙煎店Table landさんの豆を使い、南信州の美味しい水で淹れたコーヒーは、他ではなかなか味わえない逸品です。
しかしこのカフェ、「カフェ小舟」としてオープンしているのは、月曜、金曜、土曜、日曜の4日のみ。残りの火水木は、別の経営者の人たちに店舗を貸し、違うお店として姿を変えます。
火曜はオリジナルブレンドの中国茶が楽しめる「Camellia nicotea」。
水曜は無農薬野菜を育てる農家の夫婦が運営する沖縄そば店「てぃだまーるカフェ」。
木曜はフランス人の方が運営するフレンチ・スープ店「Ma Soupe」。
日替わりでまったく異なる内容のお店が楽しめるので、毎日通っても飽きることはありません。
カフェ小舟のオーナーである越智夫妻は、二人ともプロの音楽家としての顔も持ち、ちょうど毎週火水木は東京などで音楽関係のお仕事をしているそう。その間、お店のシャッターが閉まったままではもったいないし景観も良くないので、地元で移動カフェや食事を提供している人たちに声をかけ、シェアカフェスペースとして場所を提供しているのだとか。
17年前に東京から越してきた越智夫妻が、カフェ小舟をオープンしたのは約2年半前。
いまは別の場所でコーヒー豆の焙煎のみを行っているコーヒー店、Table landのオーナーから、「カフェ店舗運営をやめて焙煎とイベント出店に専念する」という話を聞き、「こんな素敵な場所がなくなっちゃうのはもったいない。じゃあ私たちでやる?」と冗談半分に話していたところ、本当にやることに。
「二人とも本業があるので毎日開くのは無理だけど、自分自身、自宅や仕事場以外でコーヒーを飲む場所があることの魅力を知っていたし、そんな場所がなくなってしまうのはさみしいから、自分たちのペースでやってみようと思いました。」
と話してくれたのは妻のじゅんこさん。本業はボーカリストです。
「もともとカフェを開くことなんて考えてもいなかったけど、自分たちが東京から引っ越してきた時にとてもお世話になったお店があって。そのお店を通じていろいろな人に出会えたから、この土地での生活がある。この店も、カウンターを通じて地域の人たちに素敵な出会いを提供できるような場所になれば嬉しい。」
実際にこのカウンターに座った作家さん同士の素敵な出会いがきっかけで、富士見町にある出版社から版画作品の画集が発売されたことも。地域の人と人をつなぎ、新たな創造的活動が生まれる場として定着し始めているようです。
そんな越智夫妻に、山の近くでの生活が自身にどんな影響をもたらしているか、聞いてみました。
「毎日変化する天気や空気、風景が、自分の音楽的感覚を研ぎ澄ませてくれているように感じますね。自分たちの本職は音楽ですが、例えば窓から見える雨の様子や山々にかかる雲の形、木々の香りなど、東京では得られない、この生活から得られるものが、自分たちの五感に与える影響はとても大きいと思います。朝起きて外の風景を見た時、昨日と少し違った雰囲気を感じ取れる感覚って、とても幸せな感覚ですよね。」
「もし東京に残っていたら、たぶんカフェなんてやってなかったと思います。自分たちでやらなくても、良いものがたくさんありますから。この土地だから『やってみよう』と思えたのかもしれませんね。自分たちはもう若くはないし本業もあるので、いろいろなイベントへ出向いたりすることは難しいけど、このお店があれば、自分たちの本業である音楽も交えたイベントを開いたり、地元の人たちや県外の人と交流したり、人と人をつなげたり、色々な可能性があると思うんです。」
里山の中で、あくまで自分たちのペースで美味しいコーヒーを淹れながら、地域にとってのサロンとして根付きつつあるカフェ小舟。
都心のカフェももちろん良いですが、たまにはこんなカフェにフラッと訪れてみるのはいかがでしょう?
もしかしたら、あなたの五感を刺激する、素敵な出会いがあるかもしれません。