登山家/山岳ガイドの花谷泰広さんに聞いた。ビギナーが手に入れるべき登山ウェアとは?

登山ウェアって種類が豊富で、どれを買っていいか迷いませんか?

どのウェアも高性能をうたっているけれど、専門用語のカタカナだらけでよくわからない……。そうしてウェア選びが難航し、登山への第一歩を踏み出せない方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、登山家で山岳ガイドでもある花谷泰広さんに、初心者がまず手に入れるべき登山ウェアの種類とその見極め方を教えてもらいました。

彼自身は、高性能ウェアの代名詞でもあるゴアテックス ブランドの愛用者。これまで登山の相棒として、いくつもの山をともに乗り越えてきました。そんな世界中の登山家から愛されるブランドの魅力も、花谷さんが実際に着ている登山ウェアと併せてご紹介します。

今回お話を伺ったのは、登山家/山岳ガイドの花谷泰広さん

登山家/山岳ガイド
花谷泰広さん

1976年、兵庫県神戸市生まれ。幼少の頃から六甲山に登り、高校と大学では山岳部へ。1996年にラトナチュリ峰(ネパール・7035m)に初登頂。

2012年にはキャシャール峰(ネパール・6770m)南ピラー初登攀で、ピオレドール賞を受賞。2017年より甲斐駒ヶ岳黒戸尾根の七丈小屋の運営を開始(日本山岳ガイド協会認定・山岳ガイドステージⅡ)。

まずは命に直結する3種のウェアを

― 登山ビギナーのウェア選びについて教えてください。

登山ウェアって、良質なものに越したことはないんです。ただ、すべてにハイスペックを求めるのは予算的に現実味がない。まずは肌着、シェル、靴を最低限押さえておきましょう。この3つは初心者であっても、投資を惜しむべきではありません。

その理由とは? 肌着からお願いします。

肌はカラダの中で最も温度に敏感な部分なので、その調節役となる肌着で手を抜いてはいけません。登山では汗をかいたり汗が冷えたりと、体温が上下する場面が多いのですが、優秀な肌着はそうした生理現象への対応力が高いんです。

たとえば汗をかいてもすぐに熱を逃がしてくれる放熱性だったり、速乾性だったり。体温を調整するための性能は、専門メーカーとそれ以外では歴然とした差が生まれます。

体温調節は命に直結する部分なので、肌着は良質なものを手に入れて、きちんと対策するべきだと思います。

シェルはいかがですか

シェルも肌着と同様です。近年はゲリラ豪雨などの予期せぬ雨に襲われる場面が多々あります。そうした状況下では、間に合わせのポンチョだと対応しきれないため、高い防水性を備えた登山用のシェルを用意しておくべきです。

また、たとえ雨が降らなくても、シェルには風を止める効果があります。風って意外と盲点で、雨と同じく体温を奪う要素になり得る。特に服が濡れていたりすると、一気にカラダが冷えてしまいます。

そこで重宝するのがウインドブレーカー。高性能なシェルはいい値段するんですが、それだけの価値があります。風を止めてくれることで快適に歩け、自分の身を守ってくれます。軽量かつコンパクトにたためる製品が多いので、一つポケットに忍ばせておくだけですごく便利ですよ。

シェルの生地に引っ張りだこのゴアテックス ファブリクス。高い防水・防風・透湿性を搭載しています。雨天時でも快適な体温をキープ。

では、靴はどうですか?

登山をするのに、僕は必ずしも登山靴である必要はないと思っています。というのも、今はトレランシューズやアプローチシューズなどの性能がすごく高い。山の中で活動することを前提としている靴なので、剛性やグリップ力などが優れているんですよ。

そのため、普段から履き慣れていない人であれば、登山靴よりも軽量なアプローチシューズのほうが山中で歩きやすいかもしれません。特に、初心者にとって軽さはスピードに直結します。そのスピードは安全にも直結する。そうした理由から、登山靴ではなくアプローチシューズやトレランシューズという選択もアリかと。

ただし、普通のスニーカーではだめです。どうしても滑るので。山登りを目的とした靴とそれ以外では、登山時の動きがまったく異なってきます。

トレランシューズなどにも採用率の高いゴアテックス メンブレンの拡大図。張り巡らされた網の隙間は、水は通さず、水蒸気は通すという長年の研究が生んだ構造。蒸れにくい環境作りで登山者の足元をサポートしてくれます。

やっぱり本職が作るウェアがいい

登山初心者が3種のウェアを選ぶ際に、どんな性能を見て決めるべきですか?

さきほどの軽さの話と矛盾する部分もあるんですが、耐久性は重要なポイントですね。どんな状況でも壊れないというのは大切かと。

特にシェルは、頑丈さが防水性に直結するので。壊れたシェルを着ていると中に水が入ってきてしまうため、雨と汗どっちで濡れてるのか、わからなくなってしまいます。

それと、一番わかりやすい基準を挙げるとすればブランドでしょうか。いわゆる登山ブランドから発売されているウェアを選べば、間違いないと思います。

花谷さんが着ているのはザ・ノース・フェイスのシェルジャケット。

登山用品を作っているブランドのウェアにはそれぞれ特徴的な工夫があって、どれがいいとか悪いとかは特にないんです。そのため、買おうとしているのが登山ブランドかどうか、耐久性に優れているか、そこをチェックすれば、あとはデザインの好みで決めていいのではないでしょうか。

シェル以外では?

たとえば中間着のフリースなどは、すでにお手持ちのウェアでも替えがききます。最近は登山ブランド以外からも優秀な製品が出ているので。

僕も普段の山仕事は、そうした登山ブランド以外のリーズナブルなウェアを着用することがあります。とても質がいいので、特に問題ありません。

中間着は登山ブランドじゃなくていいと思いますが、やはり先ほど挙げた肌着、シェル、靴の3つは命に直結するウェア。そこは妥協せずお金をかけるべきですね。

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ライター:
.HYAKKEI編集部

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