雪の山道をギュッギュッと踏みしめて歩くのも好きだけれど、冬枯れの落ち葉の上でザザッザザッとして歩く山道もグッとくる。あるいは、葉の落ちた木枝の隙間から陽光がさしこむ明るい尾根道にも、気持ちが高まる。
栃木県宇都宮市の郊外にある古賀志山は、まさにそんな冬ならではの山の魅力を存分に味わうことができる低山だ。関東平野の北部に位置するその山頂からは、日本最大の平野を南方に眺められ、北方には日光連山をはじめとした北関東の名峰の数々を背負っている。この360度の大展望を一度目にしたら、何度だって通ってしまうに違いない。
そんな古賀志山を歩く前に、ふもとの赤川ダムから湖面越しに眺めていると、静かな水面に水鳥が浮かんでいた。物音ひとつない静寂な世界を肌身に感じながら、ぼくはゆっくりと目を閉じる。遠くで小さく、ドクンドクンと、この素晴らしくイケメンな容姿に惚れ惚れする自分の心臓の音が聞こえてきて、次第に大きな高鳴りとなって身体の内側に響いた。タイミングだ、さあ行こう。
標高582mほどの低山にも関わらず、北信州あたりの2000m級岩峰を彷彿とさせる存在感。登山口まで向かう途中からハイカーの姿を多く見かけるあたりに、その人気の高さを窺い知ることができるというもの。
この山の素晴らしいところは、地元の“古賀志山LOVER”たちが足しげく通い、無数に張り巡らされたトレイルをくまなく歩く独自の山歩きカルチャーが存在するところだろう。ここは地元の人気の山で……と、簡単に片づけてしまうことができないほど、本当にファンも楽しみ方も多い。加えて低山とは思えぬ山容なのだから、これはキング・オブ・低山とでも言いたくなる山なのだ。
行き交うハイカーと会話をすると、栃木群馬あたりの近隣地域に暮らすハイカーにたくさん出会うことができるし、その多くが“何度もこの山に通うほど好き”と口にするのがまたよい。裏を返せば、それだけ道が多く、何度訪れても飽きることがないということ。
山中に目を向けると、巨岩が点在していたり、ガレ場や露岩の急登にロープが固定されていたり、アスレチック要素が多く楽しい。たくさんのハイカーが入る山だからこそ保全も行き届いている。外からやってきて難なく古賀志山を楽しむことができるのは、このように山を守る地元の取り組みあってのこと。感謝せずにはいられない。
ところで、古賀志山の無数の道は、うっかりすると道迷いにつながる。前を向いて、しっかり道を見て歩きたい。しかし時には足下に目をやって、明るい尾根道に木漏れる冬らしい伸びやかな陽射しを愉しもう。尾根や山頂に出たら、こんどは空を見上げるのだ。そこにはたくさんのパラグライダーが舞っている。
そうそう、縁あって隣り合うハイカーがいたら、ぜひ声をかけてみてほしい。もしかしたら、この山に詳しい地元のハイカーかもしれない。山中でのコミュニケーションは、安全に山を歩くひとつの在り方でもある。古賀志山を訪れる地元の山好きはみな親切だから、有用な情報、地元ならではの見どころを、きっとたくさん授けてくれるはずだ。ぼくが訪れたとき、そうだったように。