真夏はとにかく暑いから、低山トラベラーと名乗るぼくでもできるだけ高い方へと逃れる。一山岳ファンとして憧れの高嶺の頂と夏山の稜線を存分に楽しむシーズンとして、来たる秋冬シーズンに向けた低山の大冒険に思いを馳せるのだ。
できるだけ長い道のりを歩くのが好きなので、地図とにらめっこしては「その山で一番歩きごたえのあるトレイル」をつなげて、指でなぞる時間がとても楽しい。チビチビと酒をやりながら、今度はどんな山旅ができるだろうかとワクワクする、至福のひととき。そのワクワクが一層高まるものに「外輪山」という選択肢がある。山の主峰ではなく、それを外側で取り囲む山並みのことで、これを歩くのが楽しいのだ。
外輪山を歩くということは、巨大な「お鉢巡り」みたいなものだと考えてもらえばいいだろう。たとえば箱根のそれはとても大きく、芦ノ湖、駒ヶ岳や神山、大涌谷、そして強羅をぐるりと囲む、まさしく山の外側を輪のように連ねている。特に芦ノ湖展望公園から丸岳を経て、乙女峠、金時山、矢倉沢峠、明神ヶ岳そして明星ヶ岳と、西から北を回る稜線のトレイルは破格の気持ちよさ。中でも丸岳までの稜線は好展望スポットが多く、箱根の火山の核心部と富士山、相模湾と駿河湾を眺め歩くことができる。一度歩いたらクセになるだろう。
明星ヶ岳から反時計回りに歩く場合は、早朝に強羅を出て稜線に上がり、明神ヶ岳~金時山ときて丸岳まで来ると、ちょうど太陽が西に傾くころだろうか。秋や初春ならハコネザサとカヤトが黄金色に照らされて、なにやら特別な道に感じる。美しく陽に染まる山肌と鏡のように青空を映し出す芦ノ湖の水面が神々しい。
こういう抜群の眺めを誇る道を知っておくと、週末の過ごし方がずいぶん変わるだろう。小田原が近いから、地元の魚介に舌鼓を打って、休日を贅沢に仕上げることもできる。んー、これを書きながら、箱根に飛んで行きたくなった。今秋、真っ先に歩きに行こう。
ところで、低山には難路が多い。道の種類の多さ――たとえば林業の作業道、農業の作業道、廃れてしまった昔の登山道、古道、地元の人ならではの生活路などに加えて登山道がある――や、群生する植物に行く手を阻まれることだったり、泥濘や落ち葉の層などで歩行技術が問われることも少なくない。高山とは異なる“総合力”を試されるから、けっして“楽”ではないのが低山だといえる。
その点、箱根外輪山の道は起伏があるものの、一本道で歩きやすく、峠などの分岐には道標がちゃんとあるので迷いにくい。久しく登山から離れていた人が、リハビリやトレーニングにこの山を選ぶというのも頷ける。
陽の長い夏場の場合は、芦ノ湖あたりでのんびり1泊し、翌日は展望公園にあがって外輪山をぐるりと時計回りで明星ヶ岳まで歩き、強羅に舞い降りるコースがよい。朝から日暮れまでたっぷり時間を使うけれど、仕上げに箱根の湯で流す汗は、最高に気持ちがいいのだ。
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