山登りをはじめるまで、
山は眺めるものだと思っていた。
連なる山々を遠くの場所から望み、
あれはなんという山なのかと
名前が記してある看板とにらめっこをしていた。
「山」はただ「山」というひとつの固まりだった。
でも、いまは違う。
天気が悪く、山の全容が望めなくても
たとえその山を歩いたことがなくても、
山のなかにあるだろう風景に思いをめぐらせ、
あたまのなかの山歩きを楽しむ。
シャクナゲやイワカガミの花が咲き、
ウソやホシガラスが飛びかっているのだろうか。
登山道の雪はまだ残っているのだろうか。
そんな風に想像することで
「山」はただの「山」ではなく
多くの生き物たちや光景を包み込んだ
存在として私の目の前にたちあがってくるのだ。