体験レポート

写真家・野川かさねさんとゆく、北八ヶ岳スローハイク

登山における装備の本質とはなんでしょうか。

過酷な環境下でも身を守るため。確かにそれも間違いないのですが、実は「自然を肌身で感じるため」なのではないかと思うのです。

装備は自然と自分を分断するものではなく、むしろ融合していくもの。その結果、感じたことも見たこともない体験を私たちにもたらしてくれるものなのではないでしょうか。

そんな「アウトドア装備の代表格」とも言えるGORE-TEX Productsの提供でお送りする連載がスタート。今後3回にわたり、GORE-TEX製品をまとうことで広がるアウトドアの楽しみかたをお届けしていきます。

第1回となる今回は、写真家・野川かさねさんと共に、北八ヶ岳の雨池を目指し歩きました。

野川かさね
写真家。山や自然の写真を中心に発表を続ける。自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット「noyama」やクリエイティブユニット「kvina」としても活動中。.HYAKKEIでも「山と写真」を連載。

ゴールデンウィーク明けの残雪期。冬の登山客の喧騒とはうって変わって、そこにあったのは、静まりかえったまだ見ぬ雨池の姿でした。

山登りではなく、山歩き

北八ヶ岳ロープウェイに乗り、坪庭へ。残雪と強めの風が吹くなか、雨池へと向かいます。

写真家として、数多くの写真集や著書・共著を発表している野川かさねさん。19歳から写真を撮りはじめ、28歳のときに植物の作品を撮っているときに山に入ったことがきっかけで、それ以来山や自然の写真を撮り続けています。

「はじめての写真家としての山の仕事で訪ねたのが、北八ヶ岳のしらびそ小屋でした。北八ヶ岳はすごく地味だけどそれがわたしとしてはしっくりきたんです。一緒にいた雑誌の編集者に”年末年始に山小屋で年越しイベントがあるんだよ”と教えてもらい、その年は高見石小屋〜黒百合小屋〜しらびそ小屋で過ごしました。それからは毎年です(笑)。」

わたしは山頂を絶対目指したいというこだわりもなくて。山登りではなく、”山歩き”をしている感覚なんです。それに気づいたのが、北八ヶ岳でした。わたしは稜線よりも、森が好き、森を歩くことが好きなんだって。今でこそ尾瀬とかを歩くのもすごく好きですが、当時は北八ヶ岳にどっぷりハマっていました。」

(野川かさねさん撮影)

気づくために、ゆっくり歩く

野川かさねさんの撮る山の写真は、いわゆる壮大な風景というよりも、自然の息遣いを写しているように感じます。山頂を目指しているとそれまでのプロセスはただ黙々と淡々と過ぎていきがちですが、自然たちの息遣いを写真におさめるという行為が、より山を深く感じることに繋がっているそうです。

「森歩きが好き、というのにも通づるんですけど、山頂がその山行のピークとは思ってなくて、それまでの道のりが好きで、それを写真に撮りたいと思っています。もともと植物を撮るのが好きで、よく植物園に通っていたんですけど、わたしは山ではとにかくゆっくり歩くんです。そうするとなにげなく通り過ぎて見落としがちな変化や景色に気づくことができます。写真を撮ろうと思うと自ずと物事をよく見るようになりますしね。そういう意味でも、わたしのスタイルは”山歩き”なんです。」

(野川かさねさん撮影)

知識は山歩きを楽しくしてくれる

山に入って見るものに対して直感的に「おもしろいな」と気づくこともありますが、様々な変化に気づくためには、経験も知識も欠かせません。野川かさねさんは、山に入るときにメモ帳を欠かさず持っていくのだそうです。

「見たことのない植物とか、これ何だろうって思うことってあると思うんです。そういう見たもの感じたものをその場でメモしたり、植物や氷の図鑑を持ってきているときは調べます。それと、その山行で撮った写真もまとめていて、後で振り返られるようにしています。そうやって自分のなかに山行の記憶と知識を蓄えていってるうちに知識が増えて、楽しみの幅が広がりました。」

「今日だってそうです。はじめの頃は、こういう残雪期は綺麗だななんて思いませんでした。むしろちょっと汚いというか。でも、どうしてこうなるのかとか知識が増えて、なんども山に入ることで残雪の魅力もわかるようになったんです。綺麗な雪山や、みずみずしい新緑とか、どうしてもわかりやすい季節を求めて山に行きがちだと思うんですけど、季節って決して分かれているものではなくて、続いているものなんですよね。今日の残雪みたいに、間の季節とか移ろいを感じることもすごく楽しい。そう思わせてくれたのは、山に入った回数と、知識だと思うんです。」

(野川かさねさん撮影)

道具選びの視点は「ストレスフリー」

歩きはじめて1時間強、雨池に到着。この日の雨池は、ちょうど雪解け水で覆われ、濁りのない美しい景色が広がっていました。野川かさねさんもこの時期に雨池に訪れたのは初めてだそう。相変わらず強めの風が吹いていましたが、まるでアラスカに来たかのような時間。

写真を撮るとなると、気になったのは野川かさねさんの道具への考え方。カメラ機材だけで何キロにもなる荷物のなか、どのような道具遍歴を辿っていったのでしょうか。

「はじめて登った丹沢の大山では、ジーンズにスニーカーでした。子供の頃の遠足で登ったことあったから大丈夫だろうと思って。2回目の登山は山好きの友人と共に八ヶ岳の硫黄岳を登りましたが、そのときもほとんどのウェアは友人からの借りもので。その日の硫黄岳は晴天。稜線で続く八ヶ岳の姿に感動して以来、あたらしく山にいく度、必要になった道具を買い揃えました。」

「友人から”三種の神器だから”と教わって、雨具はすぐ買ったんですが、すぐダメになってしまって。買い替えようと色々調べているうちにGORE-TEX製品の存在を知って買ってみたら、すごく快適だったんです。」

それ以来、ウェアに続きシューズも、とGORE-TEX製品を愛用しているというが、三大機能(防水・透湿・防風)のなかで、自身の山歩きスタイルと見事にフィットしたのは、透湿性だという。

「山では歩くスピードはゆっくりですが、写真を撮るために動きまわるから運動量で言えば他の人よりも多いんですよね。でもGORE-TEX製品のウェアを着るようになってから、蒸れが気にならなくなったんです。動きまわってもストレスがないというのはすごく重要。それと、機材が重いのでウェアの擦れも気にしているんですけど、GORE-TEX製品は丈夫だなとも感じています。」

他にも、色々とパーツがあるとカメラの邪魔をするので、次第にデザインも極力シンプルなものを選ぶようになったという。道具選びの視点も写真家ならではだ。

「道具は滅多に買い替えないですね。しっくりきたものは壊れるまで使い続けます。新調したものが体に合わなかったりすると気になって写真撮影の邪魔にもなりますし。ストレスをできるだけなくすというのが、わたしの道具選びのポイント。わたしにとっては”ワークウェア”なんだと思います。

(野川かさねさん撮影)

山で取り戻したペースで、日常も心地よくなった

ストレスなく山歩きを楽しむうちに、山だけでなく日常でも自分らしい時間を過ごせるようになったと野川かさねさんは言います。

「山に行くと時間の流れが緩やかになるんですよね。だから、最近は自分のペースを取り戻すためにも山に行くようにしています。そうしてペースが整ったあと、街に戻ってもそのペースで過ごせばいいから全然ストレスじゃないんです。むしろ、山でパッと景色が変わったときの感動を覚えてから、街に戻ってもそういう瞬間があるんだって思ったし、山も街も楽しめるようになったっていうか。そのきっかけは山じゃない人もいると思うんですけど、わたしの場合は山だったんです。山って、いいですよね。」

季節と季節のあいだの山歩き。人も少なく、自分のペースを整えるには最高の環境かもしれません。ちょっと山に慣れてきたら、そこにある植物や自然の息吹を感じに出かけてみてはいかがでしょうか。

提供:日本ゴア

文:羽田裕明
写真:大林直行

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ライター:
.HYAKKEI編集部