フェスの魅力とは、いったい何でしょうか。
楽しみかたは人それぞれですが、そのひとつの解として「セレンディピティ(偶然の出合い・予想外の発見)」があると思います。
本屋を訪れたときに生まれる予期せぬ本との出合いのように、フェスでは、なんとなくいたステージではじまったアーティストの演奏に心奪われる、フェスを通じてそのアーティストのことを知り、楽しむ幅が広がる。その場にいなければ起こり得なかったような出合い。それを毎年楽しみにしているフェスファンも多いのではないでしょうか。
今回取材した姉妹アプリYAMAP主催の「CALLING MOUNTAIN」は、アーティストはもちろん、山や自然の楽しみ方のセレンディピティを生むものだったように思います。
標高は2,000メートル未満ながら、日本とは思えない雄大な火山群を成すくじゅう連山。その麓にある大分県玖珠郡九重町にある「くじゅうやまなみキャンプ村」がCALLING MOUNTAINの会場です。会場内のどこを歩いていても、くじゅうの素晴らしい山の姿を眺めることのできる、文字通り’山とのつながり’を感じることのできる絶景のロケーション。
コンパクトにまとまった会場内では、老若男女問わず参加者が自由に自然のなかでリラックスしていました。
音楽フェスというと’若者が中心のフェス’というイメージもあるかもしれませんが、CALLING MOUNTAINには山好き、音楽好き、自然好きなど多様な層が集まっていたのがとても印象的。特に子連れには安心して楽しめるフェスだったのではないでしょうか。
一般的な音楽フェスではあまり見られない点のひとつとして、「トークセッションがメインコンテンツのひとつ」ということがありました。音楽フェスというと複数のステージをタイムテーブルとにらめっこしながら渡り歩く楽しみというものがあると思いますが、音楽だけではない文化的なコンテンツに力を入れていたのが、とてもYAMAPらしい。
鳥取の大山の麓で暮らす音楽家のOLAibiさんと、登山を趣味とする帽子作家の苣木紀子さんによるトークショー。テーマは「山で暮らすこと、山に登ること 〜山から受ける想像力の可能性〜」。なぜ山の暮らしをすることになったのか、実際の山の暮らしは、登山をはじめたきっかけから趣味となった今の楽しみ方、など話は盛りだくさんで進みましたが、
ーー自分は山と生きたいと思うが、山はそう思っていない。あくまで’お邪魔します’という気持ちです。(OLAibiさん)
ーー山に登れたときは登れるし、呼ばれていないときは登れないんです。(苣木紀子さん)
山と接することで無意識下で作品づくりに影響を受けていたりするものの、山に畏敬の念を抱きながら接しているというお二人の言葉は、全山好きにも届いてほしい考え方でした。
編集部が聴講できたもうひとつのトークショーは生物進化学者の伊勢武史さんによる「人はなぜ自然に感動するのか」。一見小難しそうな分野でしたが、話を聞いてみるとこれがすごく面白かったのです。
生物進化学の視点で見ると、人が森を美しいと思う理由は、「生存と繁殖に有利だったから」。自然淘汰が強かったのは旧石器時代であり、そのことを考えると人間はまだ旧石器時代の記憶と思い入れがあるのではないか、とのこと。「環境が変われば気づきが変わる。心を満たすために山に行ってみてください」と話す伊勢さんのひとつひとつの分析は、まさに山と自分の付き合い方のあたらしい視点を与えてくれるものでした。
この他にも、女優の小島聖さんによる「山と旅と食の集い」、山伏の坂本大三郎さんとYAMAP代表の春山慶彦さんによる「九州の山文化」など、多様なトークショーが展開されました。
メインステージへと続く道には物販ブース、ステージ横には飲食ブース、ワークショップエリアも用意され人々が所狭しと行き交う。アウトドアフェスの醍醐味のひとつとも言える定番コンテンツも充実していました。
アーティストのライブも豪華ラインナップ。ステージでのライブは齋藤キャメルからはじまり、222(森俊二)、高木正勝、キセル、OLAibi+ミロコマチコ+曽我大穂、川村亘平斎。DJブースではegg、COMPUMA、Shhhhh、FORCE OF NATUREと続きます。
ホストアーティストであるOLAibiと画家・絵本作家のミロコマチコ、音楽家の曽我大穂が組んだライブは、CALLING MOUNTAINの夜の部への誘いにぴったりのパフォーマンス。くじゅうの山々の幻想的なシルエットが浮かぶなか、体の内側に響くようなサウンドと徐々に姿をあらわにしていく絵にオーディエンスも釘づけ。完成した絵を撮ろうとライブ終了後多くの人がステージ前に足を運んでいました。
ステージのトリを飾ったのは影絵師であり音楽家の川村亘平斎。独特の世界観で繰り広げられる影絵は、日中に行われた影絵人形作りワークショップの参加者を巻き込みながら展開。大人も子供も楽しめる、圧巻のステージとなりました。
1日目のライブ終了後は、Vixenによる天体観測。あいにくの曇天で満天の星空とはいきませんでしたが、時折のぞく美しい月の姿と’星のソムリエ’SAMさんのガイドにより遠く宇宙と繋がるような感覚を覚えました。月が現れるたびに子供たちは大興奮。幼少期から大自然のなかでこのような体験をすることは、きっと次代の山の楽しみ方へと繋がっていくのだと思います。
翌朝は、テントサイト泊の参加者を中心に朝ヨガレッスン。ここまで山に近い場所で行うヨガは、通常のそれとはまったく違った感覚を得たに違いありません。
そして忘れてはならないのは、1日目・2日目ともに開催されたYAMAPによるトレッキングツアー。登山を生業とするYAMAPならではのコンテンツで、専属ガイドのもとくじゅうの大自然を散策したそうです。せっかく山の近くに来たのだから、と2日目は各々がくじゅうの山へと入っていく姿も多く見ることができました。
音楽フェスのように素晴らしいアーティストたちによるライブがあり、アウトドアだからこそ楽しみが増大する飲食や物販、ワークショップもあり、そのうえで「山や自然のあたらしい楽しみ方や結びつきを生むコンテンツ」がある。YAMAP主催だからこそできる、楽しみながら山と向き合える素晴らしいフェスとなりました。
取材を通して感じたのは、「あたらしい」は「新しい」ではないということ。
新しく感じるようで、実は古くから人はそう生きてきた、共にいた、遠いようで近い存在。今のような「こうあるべき」ではなく、もっと自由に。CALLING MOUNTAINは山や自然と人との関係を「再認識する場」だったのかもしれません。
YAMAPが掲げる「あたらしい山をつくろう。」にもそんな想いが込められているのではないかと、CALLING MOUNTAINを取材してみて思ったのでした。
ウェブサイトには「SEE YOU NEXT YEAR!」の文字。
早くも来年の開催を期待されているCALLING MOUNTAINが、来年さらにパワーアップして戻ってきてくれることが今から楽しみでなりません。
YAMAPによる開催後記はコチラからご覧ください!