ばっくりと口を開けた大きな谷が、目の前に広がっている。底についた谷筋をずーっと目で辿っていくと、その先に大きな山塊がどっしりと構えている。白山連峰だ。めちゃめちゃスケールの大きな眺めに、思わず感嘆のため息がもれる。
荒島岳は、白山を眺める絶好のビューポイントとして知られている。冬から春先にかけては、冠雪によって文字通り真っ白になった霊山を眺めようと、ここまで登ってくるハイカーも多い。ぼくは新緑と夏の荒島岳しか知らないけれど、うねるように色づく錦秋の季節も素晴らしいと聞くし、白銀に閉ざされた山々の美しさは圧倒的だろう。
1523mの荒島岳山頂は360度の大展望で、日本の主要な山々の山岳展望に困らない。白山をはじめ木曽御嶽や乗鞍岳、アルプスといった遠方の大きな山岳を指さし確認し、いつまで眺めていても飽きない。しかし個人的に心を奪われるのは、能郷白山、銀杏峰、部子山といった近隣の名山と、それらのミドル級の山々を波紋のように取り囲んでいる低山の山容だ。平地の田んぼがモザイクアートのように広がる様子も手伝って、こっちの眺めの美しさにも感嘆するばかり。福井の山里の風景、めちゃめちゃよい。
圧倒されるのは展望だけではない。見渡す限りのブナに囲まれた森の中、せっせと歩く急な道にも圧倒される。杉ってあったっけ?と思うほど、記憶に残るのはブナだらけの道。特に新緑の季節は若葉のパワーがさく裂し、フィトンチッドに包まれた心地よい山歩きができる。
登山道はやや急で、途方もなく続く感じがするけれど、前荒島あたりからは稜線に伝って道がついている様子がよくわかり、視界は良好。青い空に向かって登り続け、汗を拭いてふと振り返ると・・・これまで歩いてきた道の向こうに白山連峰の絶景が待っている。
ちょっと忘れがたいこの景色を眺めに、こんどは季節を変えてまた歩こうと思っている。ブナの錦秋か、山稜の白銀か。いやいや、やはり新緑の季節もまた歩きたいなあ。