自然のエネルギーを感じられるギフトを作りたい。飛騨の木で特別を届ける”ひだ木フト”中富さん・盤所さん

山に入ると、街では感じられない自然のエネルギーを全身で感じる。空気の清涼感、やわらかく包み込む香り。木が生み出すものは、私たちが頭で思っている以上に豊かで、尊い。

ここ飛騨の地に移住し、飛騨の木に魅せられた2人の女性がいます。

もともと広島でウエディングプランナーの仕事をしていた中富さん。北海道出身で人材系の仕事をされていた盤所さんがその2人。お2人が事務局として携わる”ひだ木フト(ひだぎふと)”という飛騨市の新たな取り組みは、飛騨と人と自然をつなぐ、みんなにとっての「ギフト」でした。

結婚という人生の節目に、木のギフトがあっていい

ウエディングプランナー時代に感じていたちょっとした違和感。人生の節目である結婚とその式に呼ぶ大切な方々へのギフトが、どこの誰が作ったものか分からない大量生産のものなのはなぜなんだろう?中富さんが当時から感じていた考えが、飛騨の地でかたちになります。

中富さん「ウェディングのギフトってカタログの中から選ぶのが一般的なんですね。アイテム数は多いんですが、仮にあまりピンとくるものがなくても無難だからそれらを選んじゃったりしてしまいがちなんです。木ってあたたかいし、丈夫だし、年輪によって経過を楽しめるから、本来ブライダルにぴったりなはずなんですよ。思いがあって作られているものを渡したいって思う新郎新婦もいますから、もっとできることがあるはずって思っていたんです」

盤所さん「飛騨にあるいいものを見せるという取り組みを個人でしている中で、飛騨の職人さんと連携して商品を作る、というこの”ひだ木フト”のプロジェクトが市でスタートしたんです。木のものは普通のものより高いし量産品ではないので、人生の節目節目で使われてほしい特別なギフト。中富さんの想いを聞いて、このプロジェクトのスタートとしてぴったりなんじゃないかと思い、ウェディング用の商品開発をすることになりました」

(左) 北海道出身で、結婚を機にご主人の出身地である飛騨に移住した盤所さん (右)飛騨市で地域おこし協力隊として勤務する中富さん

中富さんが想いを語り、盤所さんはそれに対して道を示し、かたちにする。お2人はまさにニコイチな関係でこの”ひだ木フト”を進めています。

作ってたのしい、もらってうれしいの両立を目指して

盤所さんが飛騨で式を挙げたとき、せっかくならそこで使う食器やギフトも飛騨のものにしたいと考えていたそうですが、そのためには持ち込み料がかかるという壁に当たったそう。参列者へのギフトで言うと最近はカタログギフトから好きなものを選ぶ、というスタイルが定着しつつありますが、実はその返信率は4割程度だと中富さんはいいます。せっかくの新郎新婦からのギフトなのに、半分以上の方がそれをいただかずに終わってしまっているという事実があるのです。盤所さんはカタログギフトをギフトにせず、テーマを決めてできるだけこだわって式場から提示されたリストから選んだそう。

仕事としてかかわっている中で感じた違和感と、実際に当事者になって感じた違和感。2人のウェディングの対する想いが重なります。

木材は飛騨市の広葉樹(小径木)を有効活用(提供写真)

ただし、持ち込み料がかかる前提で商品を開発してもニーズはあまりありません。結婚式を彩るうえで新郎新婦が自由にコーディネートしていい範囲の中で、飛騨の木を用いた商品を提供できたらと開発を進めたといいます。

一方で、もらう側はうれしいものでも、それの作り手も前向きに取り組めるものでなければ本質的にはいいものにはならないということも2人は理解していました。画一的でやっつけ作業になるようなものを作っても、2人の想いからはずれてしまうのです。

職人さんとの打ち合わせ風景(提供写真)

飛騨市は人口も少ないため、木工が盛んであっても個人工房が多く、職人も各々が満足いく製品をお客様に届けられたらという想いでやっています。だから彼らが喜んで作ってくれるものにしなくてはいけません。2人はその想いを職人と直接共有し、もらった人の顔が想像できるような商品づくりを目指しました。いわゆる要件をまとめて発注する、といったもっと簡単なやり方はいくらでもあった中で、それだけはやりたくなかったといいます。

リングピロー:家で指輪の置き場に困っているという声を聞き、シンプルに美しく保管できるものとして開発
食器セット:新郎が飛騨出身である夫婦の式で実際に使用した、ファーストバイト用の食器
ウェディングツリー:列席者一人一人の拇印で完成する結婚証明書は式後にオブジェとしてもかわいい
そのほかにも、新郎新婦の要望に合わせてオリジナルで作ったアイテムも

中富さん「ギフトという名前はついていますけど、参列者のためだけでなく、新郎新婦の自分たち自身のためにも使ってほしいと思っています。いろいろな立場の人たちにとっての『贈り物』であってほしいですね」

2人の想いに共感した飛騨のある新郎新婦が、実際に”ひだ木フト”の商品を用いて式を挙げたそう。この日はその様子をみなさんに伝える場ということで、ひだ木フトを用いてぬくもりある空間づくりがされていました。

実際の式での一枚(提供写真)

飛騨の自然に魅せられて

実際に飛騨で暮らし、”ひだ木フト”の取り組みを通して、その自然の魅力を感じる機会が増えてきたとお2人はいいます。

北海道という壮大な自然に囲まれた地で育った盤所さんは、飛騨に移って改めて木の魅力に気づかされたんだとか。

盤所さん「自然が好きな人たちに囲まれて改めて教えてもらったり感じることってすごく多いんですよね。木って基本的に生き物であるから、癖があったり個体差があるし、腐りやすいとか扱いにくいところもあるんだけど、だからこそ強くて。北海道で見える山の遠さ、飛騨で見る山の近さ、目の前に立っている木のこととか、全然気にしていなかったけど、それはこの気候だからこうなっているとか、ここの住人の人たちが大切にしているからそうなっているとか、そういうことを理解して感じるようになりました」

盤所さんが頭で飛騨の自然の魅力を感じているのに対し、中富さんはその魅力を感覚で得ているといいます。

中富さん「飛騨に移住してから驚くことが多いんです。この木、いい匂いがするんだよと教えてもらい枝に鼻を近づけると、なにこれ!?ってその甘く爽やかな香りに衝撃を受けたり、職人さんの作品を眺めながら木の色ってこんなに幾通りもあったんだ、とか…。単純なことかもしれないけど、私にとってこれまでの木との接点ってお店に並んだものしかなかったので、もっと奥というか源みたいなところとの出会いがたのしいなって思います」

飛騨の森(提供写真)

中富さん「あと、冬が好きになったんです。実は広島にいた頃は冬が大の苦手で…それが豪雪地帯といわれる飛騨に来て、まさかこんな感覚になるなんて。キーンと澄んだ空気やふわっとした雪の感触、特に雪山の美しい景観がたまらなく好きです。あ、絵本でみたことあるなぁってワクワクするんです」

自然のエネルギーを伝え、飛騨に新しい循環を作りたい

まだまだはじまったばかりの”ひだ木フト”。今後この活動を通じて、どのようなことを行っていきたいかお2人にうかがいました。

盤所さん「飛騨の木には用途の可能性にも魅せられています。ただ伸びて咲いて朽ちていくのでもったいないんです。人が無駄だと思っているものも実は有効活用できる、特別なギフトになるはず。ひだ木フトをもらった方が実際にこれを作ってくれた職人さんに会いにいく、とか、この木が実際にある飛騨の森に行ってみよう、とか。そういう循環が生まれるといいなと考えているので、色々なかたちでこの飛騨の木を用いたことをしていきたいなって思いますね」

中富さん「わたしはもとから植物とか香りが好きなんですが、一般的にそれって花のイメージがありますよね。けど木も香りがあるってことを知るようになって、見た目は同じように見える茶色い木でもとれる香りは違う。今後は森の木々のいろんな香りを使ったモノ、体験なども考えたいです。ずいぶん昔ですが、とても心に響く香りに出会い、どこでどんな方が作られてるんだろう?って気になり探り会いにいったこともあったり。飛騨でうまれたギフトを通じて人や自然へ巡る。香りもそのきっかけになるかもしれない。かたちは変えても、自然のエネルギーを感じられるようなものを作っていけたらって思います」

3/22の製品発表会時の様子(提供写真)

飛騨の木を用いたウェディング用の商品開発からスタートした”ひだ木フト”。触れれば触れるほど木の持つエネルギーを知り、その可能性に魅了されているお2人の取り組みによって生まれたものが、みなさんの手元に届く日も近そうです。

(写真:藤原 慶

*記載内容につきましては、平成30年3月22日当時のものです

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ライター:
羽田裕明