カテゴリー:

【自然ビト #10】僕にとってテンカラは、やればやるほどおもしろい、答えのないもの/フォトグラファー高橋博正さん

アウトドア好きな方の人生観やアウトドアライフに迫る「自然ビト」。第10弾は、東京から故郷・長野県伊那市にUターンし活動しているフォトグラファーの高橋博正さん。もともとスーパーが入っていた建物を「山の上スタジオ」と言う名の撮影スタジオに自らリノベーションをし、時間を見つけては大好きなテンカラに没頭中。そんな高橋さんのアウトドアヒストリーとは?

「川に行くだけで気持ちいい」小学生からハマったフィッシング

——まず、高橋さんのアウトドア歴を教えてください。

アウトドア歴は、釣り、キャンプ、カヌー、ウインドサーフィン、マウンテンバイク、自転車のトライアルなどさまざまです。釣りは保育園児の頃から親父に付き添って行ったのをきっかけに、そのままずっとしていますね。中学生の頃はカヌー、ウインドサーフィン、マウンテンバイクなどを近所の高遠ダムで必死にやって。高校生になってからは、山岳部に入っていたので登山をしたり、自転車でキャンプ道具を持ってツーリングに行ったり。あと、高校時代に1年間カナダに留学していたので、向こうでもキャンプやカヌー、釣り、スキー、クライミングとか色々やりました。

お話をうかがった高橋博正さん(43歳)。留学先のカナダで釣りをしていた時に撮った写真がきっかけで、カメラの魅力に惹き込まれたそう

——かなり多彩! なかでも、釣りがお好きだとお聞きしましたが。

小さい頃って、生き物に興味を持つじゃないですか。そういうこともあり、釣りはやっていて単純に好きでした。だから大人になった今も続けているんだと思います。こっちの川は行くだけで「気持ちがいい」というのは、小さい頃から感じ取っていましたね。小学低学年になると、今度は親父とではなく気の合う仲間と川に行って、その場で釣った魚を焼いて食べて。そうするとバーナーとかランタンとかナイフとか、アウトドアグッズが欲しくなるので、ちょっとずつ買ってもらったり、自分で買ったりして揃えていきました。

目前に見えているのは南アルプスの鋸岳。とても気持ちのいいロケーションです

——釣りにもルアーやフライなど、色々なジャンルがありますよね。

僕の場合は、テンカラ(*1)です。小中学生の頃はエサ釣りをしていましたが、1日自転車で移動しまくっても、せいぜい釣れるのは3~5匹くらい。でも大人になって、魚の生態や川のことを理詰めで考えるようになり、テンカラに転向したらバンバン釣れるようになったんです。魚さえいれば、1日100匹釣れることもあるほど(笑)。エサだと20cm~25cm釣れればいい方だったけれど、テンカラにしたら尺上(30cm以上)サイズが釣れるようになりました。

(*1)テンカラ:日本の伝統的な毛ばりを使って釣りをするスタイルのこと。おもに河川上流域の渓流を釣場にしている

取材中、ものの数分で高橋さんが釣り上げた尺上のイワナ。美しいです

——30cmも超えると大物クラスですよね。高橋さんが思うテンカラの魅力って何でしょう?

尺上をネットに入れるまではとても大変で、さらにテンカラは細い糸でやるから、余計に難しい。でも、だからこそおもしろいと思います。

愛用しているのはSHIMANOの渓流竿「ZL」

それを“中通し”に独自改造して使っているそう。なんでもこの仕組みが便利なんだとか

高1で出会った、「フライタイイング」の世界

——高橋さんは自分で毛ばりを巻いているんですね。

釣りをしないでこれだけを趣味にしている人がいるくらい、フライタイイング(*2)もおもしろいんですよ。それどころか、魚でも虫でもなく、フライ(疑似餌)の絵を額に入れて売っている人がいるくらい。この世界は奥が深いんです。渓流業というのは、冬の間は釣りができないので、冬の間はやることがない。だからみんな春を夢見てフライを巻くわけです(笑)

(*2)フライタイイング:自分で疑似餌を作る(フライを巻く)こと

——巻きはじめたのはいつからですか?

高校1年生くらいのときです。高くていくつも買えないから、釣り具屋のおっさんに「これ自分で作れないのか?」って聞いたら、「フライタイイングっていうものがある」って教えてもらって。で、バイトしてお金貯めて専用のバイス(*3)を買って、おっさんが貸してくれた海外のタイイングのVHSを家で見て、なんとなくやり始めたのがきっかけです。

(*3)バイス:疑似餌を作る際、釣り針を固定する道具のこと

素人が見ると同じに見えるが、実際にはフライフィッシングとテンカラの疑似餌は同じではないそう

——自分で作ったフライで釣れた方が、グッとくるもの?

テンカラは疑似餌で魚をだまして釣るので、買ったものでやってもおもしろくないな、と。それにフライを巻くこと自体も楽しいから、フライをやる人はタイイングをやらなかったらおもしろさ半減ってくらい、大事なことだと思います。

あと、単純にフライは1つ350円とか500円とか価格が高いんですよね。でも、初心者は木の枝で引っかかって失くしたり、大きい魚がかかったら針を折られたり、切られたりもする。僕としては無尽蔵に使いたい、だから自分で作る。そういう想いもあります。

すべて高橋さんの自作。状況に応じて使い分けるそう

——テンカラをするなかで、一番テンションが上がる瞬間はどんなときですか?

それはいい川を見たとき。たとえば友人とゴルフに行く途中でも、橋の上で車を止めて川見るもんね(笑)。ゴルフに行くけど、釣り竿はつねに持って行きます。
いい川の基準は、まずは水の色、岩の色が綺麗であること。そしてポイントが多いこと。高低差のある川の方がプールができるので魚がいつく場所になる。水量もそれなりに多い方がいい。僕がこの辺(南アルプス)が最高だと思うのは、川が多くて、まだ知られていない支流があるところですね。

切れたラインを残さないようなアイテムも持参。これは知人が作ってくれたオリジナル

アウトドアギアに限らず、古いものが好き。道具は永く、大切に使う

——タイイング用のテーブルがとても気になるのですが。

僕は古いミシン台をアレンジして使っています。最近はリサイクルショップで安く買えるじゃないですか。ミシンを外すと真ん中が空いて、そこにタイイングのバイスを付けてゴミ入れの箱をセットすると、ちょうどいいんですよ。

——なるほど。目の付けどころが鋭い!

フライタイヤーには、本来はテーブルをくり抜いてタイイング専用のテーブルを作るっていう夢があって。でもそれって、古いミシン台で代用できるじゃんって思って作ったら、これを見たカナダ人のテンカラ仲間が、「インスタに乗せろ、これは世界中で流行る!」って言って(笑)

ミシン台の脚も味があっていい感じ

——ほかにも古そうな道具が多々ありますね。

アウトドアギアに限らず、古いものが好きです。特にヨーロッパのアンティークが好きですね。スタジオに置いている骨董は、知り合いの古道具屋が委託で置いているもの。なかには僕が旅先で買ってきたものもあります。アンティークは見ていてカワイイ。そんな魅力がありますね。

フィンランドで買ったという可愛らしいカップ&ソーサ―も

——日頃から愛用しているアウトドアギアはありますか?

これは伊那市の「DLD」っていう薪ストーブメーカーが販売しているもので、天板を外すと焚き火台になります。

竹天板を乗せるとローテーブルになるスグレモノ

——欲しい! すごく欲しい!

毎年1回、DLDが主催するストーブ祭りっていうのがあって、そこで9,000円でたたき売りをするんですよ。定価は3万くらいするみたいなんですけどね。いつも釣った魚はリリースしますが、食べたい人がいれば持って帰ってきて魚をステンレスの串で刺して、ここで焼くこともあります。

——思い入れのあるアウトドア道具はありますか?

日常使いしているけど、高校の山岳部時代にどうしても欲しくて、バイトして買ったガダバウトチェアー。毎日座っていたから1代目は壊れてしまって、今は2代目。これも修理しながら使っています。

日常で愛用中のガダバウトチェアー。見た目以上に座り心地がいい

ほかにも、高橋さんが高校1年のときにバイト代で買ったというイワタニ・プリムスのガスランプもインテリアとして置かれていました。これはかなりのレアもの

——これからやりたいことはありますか?

今年は昔やっていたカヌーを久しぶりにやってみようと思っています。近くに美和ダムという場所があって、みんなそこでジェットスキーをやってるんですが、上流はジェット禁止でカヌーのエリアになっているので、この夏はこどもと一緒に遊びに出かけたいですね。

* * *

とにかく多岐にわたりアウトドア全般を楽しんでいる高橋さん。ほぼ独学で習得していったという独自スタイルのテンカラは、とにかく釣れるそうで、教えてほしいという人が絶えないんだとか。この取材中も、ときおり水を得た魚のように生き生きと目を輝かせながら、フライの巻き方やテンカラのコツ、魚のいる場所などを教えてくださる姿がとても印象的で、わたしもテンカラにチャレンジしてみたくなりました。

そんな高橋さんが運営する「山の上スタジオ」では、カフェ計画も進行中とのこと。今後の活動も大いに楽しみです。

「山の上スタジオ」https://www.yamanouestudio.com

(写真:茂田 羽生)

シェアする
ライター:
山畑 理絵