山に登る前後の食事、みなさんはどうしていますか?
食べることは、自分のからだを作ること。
幅広い層に愛される乗鞍岳に向かう途中、岐阜県高山市の丹生川町に、山のエネルギー補給にぴったりな食堂があります。
丁寧に作られた名物のおばんざいと、旬の食材を用いた主食が選べる定食。2017年9月にオープンしたばかりのさとり食堂は、店主の諸星智吏さんの想いがギュッと詰まったお店です。
「北海道から旬のさんまが届いたんですよ」
そうオススメしてもらったさんま定食。おばんざいも自由に2種類選びました。
観光地としても人気の高山市にして、派手さはなく、素朴な定食を提供する智吏さん。そこには、これまでの人生とこの地で感じた感覚が反映された、確固たる思いがありました。
「知らない何かと出会わないと、人は変わらないんですよね」
智吏さんは、静岡県の浜松出身。京都の美大に通った後、京料理屋で働き、結婚を機にここ高山市に移住してきました。土地を愛するという感覚が地元に住んでいた頃はよくわからなかったそうですが、丹生川町で暮らしたことで、まさに自分がこの土地を愛している、という実感に湧く日々なんだそうです。
「今は自信を持ってこの丹生川町が”日本一住み良いところだ”って言えます。水がいいし、食べものがいい。自然に守られているんです。丹生川町は歴史のある場所なんですよ。昔からこの地に住んでいる人がいて、この地の自然との付き合い方や暮らし方がしっかりと受け継がれています。口に出さなくてもこの地に対するリスペクトを住民から感じることができるんです。だから、観光客誘致目的ではない町内の素朴なお祭りもずっと続いているし、私はそういう姿が好きなんです」
美大でデザインの勉強をしていた頃、寝ず食べずで体を壊すこともあった智吏さん。この地で自然と共に暮らすことで、何が自分にとって大事か?誰とどう生きるか?を教えてもらったそうです。
「私もこの地とここの人との出会いで変わったように、知らない何かと出会わないと人は変わらないと思っています。人がいっぱいいるから出会えるわけじゃないんですよね。そんな出会いが当たり前にできる場所になれたら、自分がハブになるようなことができたら、と思ってこの食堂をやっています」
当時、美大卒でそのままデザイナーとして働くのではなく、人と接する仕事がしたいと思い京料理屋で働いた人が智吏さん。自身が体を壊した経験から、「食べる=どうやって生きていきたいか、どう生きることになるか」という食べものに対する考えを深めることになります。
「家を建てるとき、どんな木材がいいかっていうと、その地の環境に適応している材、つまりはその地に生息している木を使うのが一番だって言いますよね。食べものも一緒なんです。その土地に暮らすなら、その地にあるものを食べる。食べたものが明日の自分に反映されますから、それが当たり前にできるようにと思っています」
さとり食堂は、地産の食材をメインに使いながら季節に応じて全国から旬のものを仕入れることを大事にしています。それが一番形にできるのが定食だったんだそうです。
ただ、そういった思いは下手に言葉では伝えないようにしているそう。
「お店にステンドグラスの窓があるんですけど、これも考えがあって。普通のごはん屋じゃないんだぞっていうことを伝えたかったんですよね。来てくれたお客さんに何か引っかかるものを用意したくて。言葉じゃなくて心で伝わるといいなって思っているんです」
山に登る前、登った後、みなさんはどんな食事をしていますか?帰りは帰路のお店に立ち寄ることもあると思いますが、登る前はコンビニなどで済ませてしまう方も多いのではないでしょうか。
智吏さんの話すとおり、その地で活動するならその地の食材を体に入れることが最も理に適っています。丹生川町は、乗鞍岳や上高地へと続く町であるため、前泊でこの地を利用する方も多く登山者も食堂に足を運ばれることもしばしばあるそうです。
乗鞍岳や上高地、そこからの北アルプスと決して優しくない山の旅に出る前に、心と体に活力を与えてくれるさとり食堂でエネルギー補給はいかがでしょうか。お店は、メインの通りから一本入った道、かわいらしい提灯と暖簾が目印です。
<電話>
0577-78-1101
<営業時間>
11:00〜15:00
17:00〜21:00
<定休日>
日曜日・月曜日
<駐車場>
店舗前5台
<ウェブサイト>
https://www.satorishokudou.com/
(写真:藤原 慶)