金華山とは、宮城県の“島”の名前です。同じ名前の“山”が岐阜にもありますが、こちらは牡鹿半島の先端に浮かぶ島で、そのすべてが黄金山神社の神域。島の中心は標高445mあり、その頂からの眺めは絶景中の絶景。三陸のリアス式海岸をなぞるように眺めていると、海の“外側”から日本を見ているような気分になる、なんとも不思議な島なのです。
東奥三大霊場とは、東北地方にある聖地のことで、青森の恐山、山形の出羽三山、宮城の金華山を指します。中でもこの金華山は、東日本大震災の震源地からもっとも近い陸地で、大きな被害からだいぶ立ち直りつつあります。江戸の頃より「三年連続でお詣りすると、お金に困らない」というご利益で大いに賑わい、震災以降、年々その賑わいが戻ってきています。
ぼくは震災の直後から毎年お詣りを続けていますが、当時は沈んだ桟橋に仮の鉄橋が敷かれ、黄金山神社まで崩れた参道が続き、参集殿の一部が壊れているような状態でした。
たくさんのボランティアが島に渡り、いまでは真新しく頑丈な桟橋がぼくらを出迎えてくれます。女川からの定期船も再開しました。間もなく、東北の冷たい海風から旅人を護ってくれる休憩小屋が港に完成します。訪れる度に変化があります。
多くの人が日帰りで島を後にしますが、黄金山神社には宿泊が可能です。ぼくは毎年仲間とともに宿泊し、ゆっくり島の時間を過ごすようにしていますが、その最たる理由こそ、島の中心にある山頂奥宮。標高445mの頂の向こうには、言葉を失う絶佳が待っているのです。
鉱物や金の神さまである金山毘古神(かなやまびこのかみ)が祀られる黄金山神社本殿の裏に、山頂奥宮への登拝口があります。震災の影響で荒れた山道はずいぶん整備され、厳かな山歩きを楽しむことができます。途中、印象的な巨木や旅人の思いを乗せたケルン、そして古からの信仰の証がぼくらを迎えてくれます。
8合目まで来れば、尾根道に乗っ越し、その向こうに広がる大きな海原を眺めながらのクライマックス。この海原を護る神さまが鎮まる奥宮までは、およそ1時間の山登りです。しばし目を閉じ、風と波の音だけの世界を楽しみましょう。
本当にきれいで、言葉に表すことができないストレスも吹っ飛ぶ時間。絶景の“低山”にただただ快哉を叫ぶのみ。金華山の山頂奥宮からわずかに下ったあたりの展望台は“日本列島”を眺めるには最高の場所です。
金華山瀬戸と呼ばれる内海の対岸には牡鹿半島が横たわり、その向こうに網地島が、さらに奥には猫の島として知られる田代島が浮かびます。澄んだ空気が遠く松島方面の津々浦々をにじませ、北へ目を向ければ南三陸方面のリアスが起伏豊かな表情を楽しませてくれます。
初めてこの頂に立って言葉を失ってから、気づけば5年も通っています。
次回は、ここ金華山で見つけた自然の魅力の一端をご紹介します。